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誰がための自己防衛

(前回の続き)
だいぶ脱線したが、他人ひとから「良く思われたい」心理より、「悪く思われたくない」人の方が多いことを示したくて、回り道をした。
「良く思われたい」には打算や欲の積極性を感じるが、「悪く思われたくない」からは、現状維持や自己防衛の消極的感情が、濃く漂う。

自己防衛がクセになると、その現れ方にも様々なヴァリエーションが出てくるんじゃなかろうか。
たとえば前回記した女性のように、相手をおとしめようとする心理の中に、自分が優位に立ちたいというより、リーダーの存在が自分の立場をおびやかす前にんでしまいたいという、無意識の働いた可能性がある。

実際、今のリーダーを排斥はいせきし自分が取って代わろうという気配は、その女性からはまるで感じられなかった。部下をまとめ引っ張れるタイプではないからだ。
かわいがっていたはずの責任者も上司も、サブリーダーだった彼女を引き上げようとする言動は皆無だった。
本人はしっかり仕事をするし、顧客からのウケは良かったが、人を束ねるのに要求される能力はまったく異なると、誰もが認識していた。
だから、リーダーが不在になって業務上混乱するのは彼女らの現場であり、おとしめるメリットなど何もないはずなのだ。
それも自己防衛の視点から捉えれば、説明がつく気がする。

いじめられっ子がイジメられなくなるには、いかなる手を使っても相手に脅威を与えなければならない。自分に手を出したらとんでもないしっぺ返しが来るぞ、そう相手に思わせて初めて、イジメは収まる。

北朝鮮が韓国に向け、汚物を積んだドローン攻撃を仕掛けている。
第三者からみれば「バカだねぇ」「レベル低すぎ」とあざけり笑うところでも、彼らからすれば練りに練った真剣な威嚇いかくだ。
ローコストで相手が防衛も反撃もしにくく、過度な挑発にもならない示威じい行為は、核武装と同じく懸命な自己防衛(と言っても守るのは国ではなく金一族だが)手段の一つになる。

いじめられっ子がビニール袋に入れた汚物を持ち、必死の形相でいじめっ子を威嚇いかくしたら(あんまり酷いイジメなら実際にぶちまけてやってもいい)、少なくとも身体的暴力からは開放されるはずである。
「アイツやべぇ」「キレると何するかわからねぇ」と報復を恐れ、その後は相手の方が避けるようになるからだ。

もっとも、イジメ対策であれば正当化される自己防衛であっても、いまを維持したいがあまり他者をおとしめようとするのは、褒められた行動ではない。
言いたいことは、ひたすら自分を守ろうとばかりするのは、困難極まりないという”事実”だ。
本来の意味での防衛とは、やってくるなら2倍3倍にしてやり返すぞと示せるだけの、反撃能力を伴うものでなければならない。
それはそのまま裏付けを持った自信となり、相手にイジメてやろうなどという隙を与えないことにつながる。

自分に自信が持てず、それでも自分のポジションを死守しようとするあまり、ねじれて過剰な形で表面化するのは最悪の事態だ。
もし「悪く思われたくない」なら、自分を必要以上に上げたり下げたりせず、「まぁ、こんなもんだ」の自分をそのまま受け入れるところから始めるしかない。

だからって決して、教訓めいたことを主張するつもりはない。30過ぎた辺りから自分がそういうスタンスで生きてきて、精神的な負担がかからないことを実感しているから、「よかったらどうですか」とお勧めするまでである。

ビジネス的には、「他者から好かれよう」と意識的に過ごすようになった。「良く思われたい」ではなく、「良く思われよう」と決意するのだ。

良く思われるためには、まず相手の心理・思考を知ることが必要になる。
それまでの僕は相手がどう思うかではなく、自分がどう思うかが全てだった。
これは一見強い意志の表れのようでいて、実は劣等感の裏返しであり、屈服せざるを得ない理論や思想に直面するのを恐れ、心を閉ざしていたに過ぎない。
それが、特別な何者でもない自分をそのまま受け入れてしまうと、変な話、無敵になってしまったのだ。この場合の「無敵」とは外部でなく、自分のうちに敵がいなくなった状態である。
「こうすべきだ」「こうあらねばならない」を強制する内なる敵がいなくなると入れ替わりに、とりあえずは生きてりゃいいさのお気楽さが味方になってくれた。

能力など無に等しいと認識した自分が、「他者から好かれよう」として、初めて相手を知ろうとなった。
知るには相手の話を聞くしかない。コイツは話を聞くやつだと相手が心を許すと、打ち解けて親しくなる場合もあれば、僕や会社をボロカス言うようになる人もいた。
それが不思議と、腹が立たない。それだけ人間ができたからだというより、自分のことが他人事のように聞こえだしたからだ。
自分自身の相対化はその後の人生で役にも立ったし、しかしある時は先方に多大な勘違いを起こさせ、問題にもなった。

またそれは、いずれかの機会で。

イラスト hanami🛸|ω・)و



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