〜寅に翼〜 配偶者を亡くした後の、大人の恋愛事情

どうも。
こりーぬ、です。
初めての方も、また読んでくださってる方も
ありがとうございます。

さて、ついに金曜日。
航一さんは、後悔しないように、
寅ちゃんは、自分に正直に。
できるんでしょうかね。

寝る前、布団の上で
寅ちゃんは優未ちゃんを抱え、
優三さんからの手紙を見返しながら
話をしている。

優未ちゃんは、
自分がテストの時にお腹が痛くなるという話を
寅ちゃんに打ち明けた時に、
お父さんも緊張すると同じだった
というのを聞いて
もっとお父さんのことを知りたくなってしまい、
なんとなくお守りを開け、
そしてこの手紙の存在を知ったのだという。

お父さんの字が優しくて好き、
何も覚えてないんだけど、お父さんが凄く好き。
変かな?という優未ちゃん。
寅ちゃんは
「ううん。ちっとも変じゃない。
お母さんね、すぐやり方間違えちゃうんだ。
私の役目は優三さんの分も
優未を抱きしめて、
生まれてきてくれてありがとう、
愛してる、大好き、宝物、
そう伝えることだった。ごめんね」
と、優未ちゃんをぎゅうぎゅう抱きしめる。

いいよ、と答えてくれる優未ちゃん。
ここで、やっと親子の絆を取り戻せたのかなぁ。

水曜日、新潟地方裁判所に出勤していた
寅ちゃんはひとり、夜になっても止まない
激しい雨を執務室の窓から眺めている。

そこに航一さんが入ってきて
まだ帰らないのかと問われ、
ひどい雨で、列車が止まったまま
のようなので、と答える。
お互い自席に着いて、黙っていると、
寅ちゃんから、少し話をしても?と切り出す。

「私は今も優三さんを愛している。
ずっと愛し続けたい。だから彼以外に
誰かを愛したりしては駄目なんです。
航一さんのことは大切に思っています。
でも、きちんと気持ちに線を引きたいんです。
突然、不躾に申し訳ありません。」


……おや?

「取り返しのつかないことをして
照子を喪ってから、
全てに蓋をして生きてきました。
今は余生なのだと。子供が巣立てば、
あとは寿命尽きるまで待つだけだと。
でも、あなたといると、つい、
蓋が外れてしまう。全て諦めたはずが、
つい、あなたのように人に踏み込んでしまう。
驚くことに、そんな自分が嫌いじゃない。
それだけで、あなたと出会えてよかった。
それだけで十分です。
いい歳して僕らは生真面目が過ぎますが、
それすらも悪くないです」

「あ、雨、止みましたね。駅までお送りしましょう」

……おやおや?
……なんだ、これ?

え?
お互いに大人のふりで、
開きかけた扉を閉めちゃうの?

廊下に出る時、
滑った寅ちゃんが転びかけて
うおっ、と声を上げる。

「変な声出ちゃった…ごめんなさい」
「雨の日、ここは湿気で滑るん……おわっ!」

そんなことを言う航一さんも
次の瞬間につるっと後ろに滑って
背中を強かに廊下に打ち付ける。
「参ったな……」
鞄を床に置いた寅ちゃんが
両手を引いて、
床に仰向けになっている
航一さんを助け起こす。

「ありがとうございます」
両手を繋いだままの2人、
航一さんはなかなか手を離さない。

「私にとって、愛や恋というのは
いつも二の次、三の次でした。
優三さんだけを愛していたいのに、
そうするって決めたのに、
航一さんにどうしようもなく
会いたくなったり、
話したくなったり。
航一さんに、胸が高鳴ってしまったり。
強烈な、この、これは何なんでしょうか。
今、いろんなことを
話したいと思うのは、航一さん。
ドキドキしてしまうのは、航一さん。
一緒に居たいのは航一さんで。
なんで、私の気持ちは、なりたい私と
どんどんかけ離れて行ってしまうんでしょうか」

「僕は優三さんの代わりになるつもりは
ありません。
あなたを照子の代わりにもしない。
お互いに、ずっと彼らを愛し続けていい。
数か月後、来年はわからないけど、
今、ドキドキする気持ちを大事にしたって
ばちは当たらないじゃないですか。
永遠の愛を誓う必要なんてないんですから。
なりたい自分とかけ離れた、
不真面目で、だらしがない愛だとしても
僕は佐田さんと線からはみ出て、
蓋を外して、溝を埋めたい」

「永遠を誓わない、だらしがない、愛。
なるほど。私たちが欲する最適なものかと」

溝を埋めたい、は寅ちゃんがよく言っていた。
なるほど、は航一さんの口癖。

寅ちゃんの手を離す航一さんだけど、
その開いたままの掌は別のことを求めていて。
一歩、近づいて
戸惑いつつ、不器用にそっと抱きしめあう。

そして、口付けしたいと思った
航一さんは少し身体を離したけど、
思ったより身長差が仇になり……
かなり屈まないと届かないし、
寅ちゃんが背伸びをする訳でもなく。

どっちがどっちに顔を傾けるか、
お互いにもだもだしつつ、
苦笑しつつ、
抱きしめ合うよりも
更に不器用な口付けを交わす。
そして、二人とも
ぷっと吹き出して肩を揺らして笑った。

なんとも気恥ずかしいような間があって
「行きま、しょうか」
と、ぎこちなく言う航一さん。
慎重に歩くも
また派手に滑りかけた寅ちゃんを支え、
そうだ、と腕を差し出す航一さん。
そしてその腕に掴まって
慎重に、
幸せそうに、
一歩一歩、踏みしめながら
楽しそうに廊下を歩く2人の後ろ姿は
突き当りのドアの前で角を曲がっていった。

物分かりのいいふりをしていても
直に触れてしまったらもう止められない、
んだろうな。
しかも、お互いドジったところを
見せちゃったから
もう取り繕う必要も無くなったし。

このふたりに関しては
ちゃんと愛していた配偶者がいて、
その人を理不尽に喪ったことで
傷ついていて。

でも、必死に生きていると
同じように必死に生きている人に
心動かされることがあったりして。

それ故に。
こんな気持ちを持ってはいけない、
既に喪ってしまったものの
自分には大切な配偶者がいたのだから、と
湧き上がった想いを封じ込めようと
してしまいがちなのかもしれない。

この頃は戦争で配偶者を亡くす人は
多かったのだろうから、
葛藤しつつも愛を求めてしまう人は
結構いたんじゃないかと思う。

これは戦争に限らず、
例えば、病気や事故、事件などで
愛する人を喪った場合も同じだろう。

実は、私の親戚に
闘病の末、若くして亡くなった人がいます。
その人には長く付き合ってきた恋人がいて、
その恋人は闘病中も寄り添ってくれてて
亡くなった時もそばに居て、
お葬式にも参列してました。

その恋人が今、どうしているのかは
私は知らないのだけど、
その人が、新しいパートナーを得て
新たな人生を歩んでくれていたらいいなと
心から願います。

老年期だったらもうダメだとか
そういうことでもなく、
まだ若い年齢のうちに
結婚も視野に入れていたような相手を喪って、
その人を弔いながら
残された長い時間を生きていくだけなのは
寂しい。

もちろん、どうしてもそうしたい人に
無理に相手を探せとか
そういうことが言いたいわけでもない。

自分に正直に。
後悔しないように。
蓋をしない。

「永遠の愛を誓わなくても
 いいじゃないですか」

刹那主義とかではなく、
元々は添い遂げるつもりであっても
いつ何があるか分からないのならば。
今の、自分の気持ちに
正直になってもいいじゃないか、

これって、一生添い遂げるつもりでいた人を
成すすべもなく喪った経験がある人が
言うからこその重みがある。

そうした方が余生が楽しそうなら
それでいいんじゃないですかね。

想いを共有した2人に幸あれ!

来週は、優未ちゃんも成長しちゃって、
寅ちゃんのヘアスタイルが
やや年嵩に見えがちな感じになっちゃって、
でも航一さんはそんなに年齢上に見えない感じ?

ああああ!
そういえば美佐江さんが
東大に入ったってことは
東京にいるってことだけど、
このまま逃げ切られちゃうのかな。

新潟では
窃盗と売春を唆したところまでだったけど、
まだ彼女、殺人教唆まではやってないのよ。
だって、人を殺したらどうして罪になるのか
わからないまま、
多分法学部?に入っちゃったんだろうしね。
怖いわぁ……

んもう!
寅ちゃんと航一さんのかわいい恋愛事情だけで
締めたかったのに
思い出しちゃったわ、美佐江のこと!
彼女、再登場するのかしらね……?

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