平和を見つめ直してみませんか? 本当の「平和」を考えるために学びたい様々な問題。
長崎大学の教養教育科目『平和講座』は1983年の開設から、今年で40周年を迎えました。 各学部から多くの学生が履修している長崎大学の人気講座です。【Cho査隊】NKスターズで取材班として活動している私・Aは、“平和のまち長崎”で開講されている『平和講座』が一体どんな科目なのかに興味を持ち、実際に参加して、授業の魅力を探ってきました。高校生、受験生、またこれから教養科目の受講を控えている長崎大学生の皆さん、ぜひ、ご参考にしてください。
『二重被爆』がテーマの授業に参加
参加した第2回平和講座の講義テーマは『山口彊(つとむ)と二重被爆』。2010年に亡くなった二重被爆者である山口さんの思いを引き継ぎ、孫で二重被爆三世として活動されている原田小鈴さんと、そのお母様の山崎年子さんが講師として登壇されました。ドキュメンタリー映像や紙芝居も交えながら進められる授業に、学生達は静かに、そして熱心に聞き入っていました。
私は高校までの平和教育で、二重被爆という言葉や山口さんの存在は知っていました。しかし山口さんの広島と長崎それぞれの被爆体験をはじめ、被爆後の生活について詳しくお話を聞くのは初めてでした。
ケロイドの症状や左耳の聴力障害といった身体的な被害だけでなく、差別・偏見など社会の無理解による被害にも苦しめられ続けていたことに衝撃を受けました。また、被爆者が高齢化する中、思いを引き継いでいくことの重要性を感じました。
授業担当の友澤先生にインタビュー
平和講座で取り上げられるテーマは原爆についてのことだけではありません。戦時下で起きる性暴力や、ウクライナ戦争、韓国の歴史教育、日米安保、さらにカネミ油症事件など、多角的な視点から捉えた「平和」を扱っています。
その詳細について授業担当教員の友澤悠季先生に話を聞きました。
・平和講座はどのように構成されていますか?
友澤先生:この講座は「原点としての長崎原爆」、「戦争と暴力の多面性」、「当事者として考える」と、大きく3つのテーマで構成されています。毎回異なる講師の方に講演いただくオムニバス形式で、全15回の講義に13人の講師が登壇します(一部講師が重複する週もあります)。
・どのような方が講師を務めていらっしゃいますか?
友澤先生:長崎大学教員の他に、フリージャーナリストの方や漫画家の方、カネミ油症被害当事者の方などが講師を務めてくださっています。様々な現場で活動しておられる方から、問題の現状を聞くことで、より自分ごととして捉えることができ、視野を広げることができます。
・「カネミ油症事件」を扱っているのが特徴的ですね。
友澤先生:はい。戦後の日本は「経済戦争」にまい進し、多数の公害を発生させました。その一つの例として、カネミ油症事件を取り上げています。カネミ油症は食品の汚染によって引き起こされたものです。受講生の皆さんにはそれぞれの立場から、この問題について考えてみてほしいと思っています。
例えば、食品が製造されて販売されるまでの過程には工学部や経済学部が、診断や治療の過程には医学部や医学部が、偏見・差別の再生産を防ぐ過程には教育学部が…という風に、多くの学部が関わり得る問題です。
・ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス衝突が起こり、戦争や核、平和について考えさせられる機会が多くなりました。改めて平和講座では、学生にどんなことを考えてほしいですか。
友澤先生:ウクライナ、そしてイスラエルやパレスチナから、連日のように惨事が報じられています。これらの紛争は、今に始まったことではなく、以前から力の不均衡による怒り・苦しみが絶えずくすぶっていたのです。歴史を振り返ると、アフガニスタン戦争やイラク戦争なども同様です。世界各地の対立に目を向けることは意識しないと難しいですが、この平和講座を受けることで、「平和」へのアンテナが1本でも2本でも立つようになると嬉しいです。国際紛争以外にも、見えにくい暴力、格差、あるいは公害・環境汚染の影響など、平和を脅かしうる問題はごく身近にあるということを知り、自分たちの日常を平和だと思い込んでしまっていないかを改めて考え直してほしいですね。
おわりに
私は長崎県出身で小中高と平和教育を受けてきましたが、そこでの学びは平和に関するごく一部のことであったと気づかされました。
戦争の被害だけでなく、「なぜその被害が起きたのか」「どこで、どうやって加害が発生しているのか」「戦後も続く加害構造とは」というところまで一歩踏み込んで学べることが、長崎大学の平和講座の魅力だと感じました。