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テルツェット 引退に寄せて

今でも覚えています。あれはアーモンドアイが秋華賞を豪脚で制し、三冠を達成した夜でした。会社の都合でシルクのパーティーに参加させてもらって、「いいな、一口馬主」となり、その冬のボーナスで一口デビューしようと決意しました。
しかし、その頃はクラブ馬主のスケジュール感も応募状況も一切知らず、12月に資料請求した時には1回目の追加募集、しかも残っていたのは8頭中2頭とかで、年末年始に帰省の移動中に決めていた(というより、予算が足りていた)1頭は戻ってきたらすでに満口。経緯が経緯だけに、やっぱりやめますとも言えず、予算オーバーでも止む無しと出資に踏み切った。それがテルツェットとの出会いでした。

各レース振り返り

そこから、中々馬体が成長しない、腰が甘いという問題と向き合いつつ、夏を待って和田正一郎厩舎へ入厩。9月にゲート試験に合格します(ただ、この時に前日出が悪く不合格に、このゲート難は後々まで影響)。天栄で1か月乗り込み、再入厩して東京開催へ。スクミは出るわ、1本目は動けていないわという心配な状態で東京最終週のマイルに投票するも、除外に。さらに中山マイルは頭数も乗り役も合わずということで、1800mに柴山騎手で挑むことに。

19/12/7 メイクデビュー中山 芝1800m 1着

内枠で出足が悪く、中団インに留まるという選択に。折り合いもついて小回りでも進出がスムーズ。外に持ち出して楽なまま突き抜けた。結局重賞3勝する馬は新馬戦では素質が違うこともままあるのですが、そういう感じ。後はディープ産駒にしては道悪も動けるというのもここで分かったか。

ここからまた放牧。しかしそこで中々体が仕上がってこないまま、3月へ。目標をミモザ賞にしてトレセンに入厩するも、動きはあまり良くなく陣営も渋いリアクション。道悪必至の天候であったが、悪すぎて中止。2日後スライドも道悪は多分残っているという状況だった。

20/3/31 ミモザ賞 中山芝2000m 3着

前走で、「折り合いが大丈夫なので距離を伸ばして良い」という話だったのだが、今回は外枠もあり道中からエキサイト。この前進気勢というか、メンタルの危うさは今後も続いていきます。このスタミナロスや、馬場の悪さに体がついていけなかったというのも含めて、3着に敗れてしまいました。
とはいえ、勝ち馬はウインマリリン(オークス2着、香港V勝利)、2着馬はウインキートス(目黒記念勝利)だったので、1勝クラスにしては相手が悪かったと言えるでしょう。この時の4着馬は先日1勝C4着でした。なんでやねん。

これを受けて、チャンスのあったオークスは回避。さらに距離短縮を狙うことになり、古馬混合戦で再起を目指すことに。6月の東京開催の最終週に登録したのですが、ここの出馬発表後に馬房に額をぶつけて出血、縫合する必要があり取消。前後しますが、この時に手当が何もないというのも問題だと思いますね。タイムオーバーで半額出せるのなら、その金額は払われるべきでしょう。
それはさておき、レースを取り消して放牧。新潟開催を目指して調整されていきます。決定したのは村上特別。ただ、鞍上は戸崎Jに依頼していたのですが、イザラと被って乗れず。三浦Jになります。

20/8/15 村上特別 新潟芝1600m 1着

12キロ増は実質4か月半ぶりだったためか。マイル戦の流れにしっかり対応させただけでなく、最内枠から徐々に外に持ち出し、スムーズに直線で進路を確保。馬群に入れてもエキサイトせず、初めての長い直線で決め手を発揮させたのはほかでもない三浦Jの手腕でした。この一度きりでしたが、見事な騎乗でした。

そこから秋華賞トライアルも目指せなくはなかったでしょうが、そこでじっくりと休養。無理する価値はあったでしょうが、そういうレベルにすらなかったのでしょう。これは4歳時ですらそうだっただけに。2ヶ月半~3ヶ月半というのをある種ルーティン化しながら戦っていきます。
というわけで次は11月。東京の国立特別に、前回フラれた戸崎騎手で挑みます。

20/11/1 国立特別 東京芝1600m 1着

前走での快勝ぶりからここでは圧倒的な人気に推されるも、パドックでは発汗した様子を見せるなどテンションはギリギリ。スタートも悪かったですが、前走とは打って変わって超スローに。これでリカバーに成功すると、直線では決め手を発揮するだけだったはずが、逃げ馬が外によれ、進路をカットされます。
ここからが圧巻でした。ラスト1Fで内に切り返すと、抜け出していた2着馬をゴール前捉えて勝利。
正直、相手関係的に負けるわけないだろうとすら思っていて、直線は騎手の名を叫びましたが、結構平然とした振り返りだっただけに、想定通りだったのかも。

ここからまたある意味予定通りの休養へ。中山開催が続くこともあり、英気を養いつつ4歳を迎えます。
そして節分Sへ。開催節の都合上、斤量が1キロ有利なまま迎えられるだけに、歓迎したいところでしたが、入厩時から予定を伸ばすことも匂わせた通り、どうも牧場から動きが上がってこない。実際調教も前走よりも良いとは言えない上に、腰のケアをしながらなんとか間に合わせたという印象。不安が残る中でのレースとなりました。

21/1/31 節分S 東京芝1600m 1着

2回目の東京ということで、前回よりは落ち着いて臨めた今回。やや出負けするも追走に手間取ることはなく、安全に外を回していきます。この日の馬場も手伝って、2着馬をギリギリ交わしきって勝利。3連勝いずれも左回りの直線の長いマイルで挙げてOP入りです。
正直、この出来で勝てたかと意外な感じでした。昇級初戦で通用しないとも思えただけに。

ここからまた休養するとなると、5月の谷川岳?とも思えたのですが、陣営は勝負に出ます。一気に重賞挑戦。狙うはダービー卿CTでした。
このころからようやく走る気持ちに身体が追い付いてきたようで、併せ馬を消化。より負荷をかけるようになっていきます。
一方、連勝に導いた戸崎Jはドバイ遠征の隔離期間と被っていることが確定。注目の鞍上はMデムーロ騎手となりました。

21/4/3 ダービー卿CT 中山芝1600m 1着

53キロとはいえ牡馬混合重賞、しかも末脚で勝ち上がってきた馬の中山替わり。条件は楽ではなく、3番人気でも人気してるなあという印象。
レースは思いのほかハイペースになり、後方10番手ながらポツン追走。外に出すのもスムーズで、経験のない緩みないペースでも(村上特別は道中ペースダウンしていた)抜群の反応で突き抜けてくれました。

ここで詰めて使って結果が出た以上、大目標を遂行しに行きます。春の大一番、ヴィクトリアマイルです。中5週でもいったん放牧にだして、2週間程度で戻すのは予定通り。中間はこの厩舎には珍しくしっかり時計を出し続ける調整となりました。

21/5/16 ヴィクトリアマイル 東京芝1600m 14着

村上特別を勝った時に、「ここから全部獲れればVM・・・それは夢見すぎか」と言ったのですが、本当に叶ってしまいました。グランアレグリア、レシステンシアに次ぐ3番人気は、レイパパレとダブる部分が大きく、しかも東京は得意分野という印象も強かったからでしょう。
実際は、持ち時計に限界があったうえ、パドックからテンションが高く、レース前に終わっていたという結果でした。これはG1で有観客の上限に達したのも、東京のパドックの形態上もあったでしょう。

仕切り直しのため、いつもの間隔に戻すことに。もう重賞ウィナーなので、レースは限られています。てっきりマイル路線継続と思い、関屋記念だと思っていたのですが、陣営は再び距離延長を狙います。今年は五輪の関係で函館競馬場となったクイーンS。初の北海道調整で井上Jにも手伝ってもらいながらの調整。レースはルメール騎手が初騎乗です。

21/8/1 クイーンS 函館芝1800m 1着

レース直前の雨で様相は一変。タフになったうえ、適正ペースが分からないという馬場に。ドナアトラエンテなども早々と失速。そんな中、まずまずのスタートから控えると、そのまま控えて10番手で直線まで。そこから馬の間を抜けていき、ゴールまでに実況が1度しか呼ばないほど一気の逆転。頭数が少ないとはいえ、直線の短い函館で見事なパフォーマンスでした。
また、このころから馬場先入れを取り入れます。

距離延長、しかも1周競馬を久々に行い、結果まで出たので、狙う先は牝馬限定戦にもなるエリザベス女王杯となるのは半ば当然の成り行き。さらなる距離延長は確かに心配でしたが、相手関係を考えても妥当でしょう。すぐに天栄に戻し(この話は来年出てきます)じっくり調整。週4の坂路調教もこなして強化に努めます。調整は帰厩後も順調で、今回はちょっと軽めで輸送競馬に備えます。
一方、鞍上はルメールがレイパパレに騎乗するので、またデムーロに戻ることに。こちらも考えうる最良のチョイスで挑みます。

21/11/14 エリザベス女王杯 阪神芝2200m 11着

京都競馬場改修の影響で阪神開催の今年。スタートで負けずに中団インに収まると、向こう正面から押し上げていく形。直線入り口では4番手位にはいたものの、坂で脱落。
結果的に外差し後方決着を早めに動いてという形。3角で溜めるべきだったのか、4角の息の入れが悪かったのかは不明ですが、後は2200は長いですね。それでもレース構成上ここを目指すしかないわけで。


ここからは来年に向けてという話に。この1年で、
・上級だとマイルはやや短く、2200は長い
・直線の長さは関係なく、瞬発力で勝負
・間隔を詰めるとアウト
ということが分かったので、VMに向けてという流れだと当然のようにゆとりを持ったローテという話になり、ハンデ戦の中山牝馬Sへ。ここまでしっかりとしたオーバーホールは久しぶり。調整はいかにも叩きという形ですが、名馬オジュウチョウサンとの併せ馬などもこなします。
鞍上はまたルメールになる予定でしたが、コロナで騎乗できず。急遽田辺騎手になります。良く空いてたな。当週追い切りでコンタクトを取り、レースに挑みます。

22/3/12 中山牝馬S 中山芝1800m 5着

新馬勝ちしただけでなく、多分一番適条件だと思うこのコース。ただ、ハンデ56.5は心配の種でした(実際、調教師もコメントで0.5は見込まれたと語る)。
レースはスタートで立ち遅れただけでなく、隣の馬とぶつかり完全に出遅れ。コンディション的に進みが悪かったようですが、当然無理して向こう正面から押し上げるレースでもないので、直線では最後方大外。そこから一気に突っ込んでくるも5着止まり。とはいえトップハンデで勝ち馬から0.2差なので、十分かと。

予定通りここから放牧。押せ押せで向かっていった昨年とは違い(エリ女の2週前に2勝クラスを勝っていた)、休養明けを一叩きした上に間隔を取れた今年はテンション的に良好、しかし、テンションの上がりやすいこの馬には観客増は歓迎は出来ないというイメージ。鞍上はレーンに。当週にコンタクトを取り軽めに。

22/5/15 ヴィクトリアマイル 東京芝1600m 13着

大外枠は確かに歓迎ではなかったのですが、それは内枠を苦にしない馬という認識だったから。ところが、スタートで外によれ、馬のいない方向で一気のコースロス。これで控えざるを得なくなり、後方一気になるも、「1ハロンで勝負圏外」(Mahmoudさん)という展開になってしまい、上がり3F最速という記録だけ残してまたも敗れました。

ここからまたレースを考えることに。しかし、クイーンSは想像のつく話。問題は斤量でした。昨年勝ったことで賞金別定の算出上1キロ増えることに。昨年は斤量の有利さもあっただけに、それだけのパワーアップを証明しないといけません。
一方、鞍上は池添Jに。これは素直に好印象。差し馬も小柄馬も牝馬も得意で、馬込みで戦える騎手だけに手が合えば良さを活かしてくれる可能性は高かったです。

22/7/31 クイーンS 札幌芝1800m 1着

通常運営に戻り、札幌開催となったクイーンS。函館より差しやすいコース形態ではありましたが、今年は3歳のトップクラスが参戦するということもあり、強気とは言えませんでした。
レースは最内枠から五分のスタート。1角でごちゃつくも何とか我慢して、そこからひたすらインに拘り、直線でもインへ。ホウオウピースフル、ローザノワールと1頭分開けたところを突っ込んで交わしていき、最後鼻差勝利。勝負根性のみで射止めた連覇でした。

ここまで来ると昨年と同じローテへ。今回は空港牧場で夏を過ごしてから移動と工夫はしてきました。さらにプール調教を取り入れるなど、様々なアプローチで調整を行い、国内最後と思われたG1を目指します。

22/11/13 エリザベス女王杯 阪神芝2200m 12着

今年も坂2回、内回りの阪神2200m。雨が降ったりやんだり、というかめっちゃ寒かった。昨年とは違う意味で外差し馬場が予想される中、しっかりと馬場を読んで、枠なりに外を意識した競馬。それも3角から進出して勝ちに行く競馬。しかし、後ろにいたジェラルディーナの勢いが違いすぎましたね。一気に来られて苦しくなってしまい、坂でパッタリ。それでも、納得感のある競馬をしてくれて、本当に良かったと思います。

その後、後1レースに向けてという気持ちで調整されていましたが、状態が段々落ちてきてしまい、乗り込めない。期限までに間に合わないということで、ここで引退となりました。

感想

まずは和田調教師、騎乗してくれた皆様、ありがとうございました。そしてテルツェット、お疲れ様でした。
びっくりです。シルクの売れ残りですよ、この子。ラウンジで阿部前社長が、「この子が多くの新規会員を呼んできてくれた」と感謝していましたが、その通りです。この成功体験で続けて出資する方がどれだけいるか。そう思うと、最初の巡りあわせって大事だよなあと。
結局能力の上限は混合G3クラスという所でしょうか。ダービー卿は53でしたし、クイーンSは56でも牝馬限定。G1は敷居が高く、1600mと2200mでは牝馬限定でも適性外でした。京都2200mならもうちょっとチャンスはありそうでしたが。
後は海外ですね。牝系的にも、ディープ産駒というのも、海外でも力を出せる条件ではあったでしょう。香港2000mとかモレイラに乗ってほしかったですね。
それでも、この馬にはいろいろなところに連れて行ってもらいました。函館と札幌の夜は忘れられません。いいお酒でした。

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