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片づけられない…それには理由があった

普通そうに見えていても、実は困難を抱えていた


一見ごく普通の女性、しかし彼女には炊事、洗濯、掃除、仕事などが何一つ満足にできなかった。そう、彼女は片づけられない女だったのだ。 しかし、それは脳の障害によるものだった。怠け者の烙印を押され、仕事、結婚してから の日々に苦しみ続けた、その原因は脳にあったのだ。

じっとしていられず、次から次へとやることが変わる・・・


その女性のYさんは、幼少期は極端に気分が変わりやすく、衝動的な行動も多かった。小学校に上がっても、授業中もおとなしくできず、いきなり関係ない話をしたりしていた。 それでも成績には問題がなく、どの教科も平均的に取っていた。 このころ、彼女の両親はあることが気になっていた、それはYさんは何かをやり始めると すぐに飽きて別のことをやり始める。そんな状態だからいつも物が散らかっている、上着 や靴も脱いだら脱ぎっぱなし、でもそれは子どもらしさのあらわれなのでは・・・いつか 自然に直るだろうとあまり気にしていなかったのだ。

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成長しても、困難はつきまとう


そして中学校に上がったYさん。しかし小さなトラブルはしょっちゅうあった。 教科書や宿題のプリントやノートなど、毎日のように忘れ物をしてしまう。さらには提出 物があったことも忘れる。また来週宿題を提出するように言われた時はメモを取るなどす るが、家に帰った時はそのメモを見ること自体忘れるのであった。こんな調子でいつも先 生からの呼び出しの常連だったのだ。いつも直そうとするが、全く直らない。 その上、相変わらず片づけが苦手で、何度言っても部屋は散らかりっぱなしだった。
そして、地元の公立高校から短大へ進学して、就職の時期を迎えたのだった。 第一志望の保険会社に就職し、そのことは彼女の両親も大喜びだった。 しかし、社会人になってから、さらに大変だったのだ。それはYさんの脳の障害で苦しむことになったのだ。 

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社会人になってから、本当の困難が始まった


そして仕事が始まり、彼女は思わぬことでつまずく。コピーの依頼をされた時にも彼女のとったコピーは曲がっていた。さらに書類をとじる穴を開けファイルにとじる、そんな単 純な作業に時間がかかり、その上できたファイルは乱雑に仕上がっていた。 伝票の数字を書き写すのにも時間がかかり、しょっちゅう間違えていたりした。そしてやっとできた書類は訂正印だらけで数字が読めないものになっていた。何一つ満足にできない・・・両親に仕事の調子はどうかと尋ねられたが、さすがに失敗ばかりだとは言えなかった。
やがてYさんには絶えず先輩が監視するようになったが、さらに緊張してはかどらないのであった。そこでYさんは毎朝 6 時に起床して、誰もいない会社で仕事をした。 ところが、一つが終わらないうちに次の仕事へ移ってしまう、みんな中途半端のままでや り残した書類が山のようにあった。でも彼女は自己啓発の本を読み、スキルアップセミナーにも出かけた。これで少しは変われると思ったが、入社して1年以上たっても仕事がう まくいかない、それどころか重大な失敗をしてしまうのであった。 情けなかった・・・帰宅すると服を着替えることもできずに疲れ切っていた。 そして入社から 1 年半、Yさんは会社を辞めてしまった。

結婚すれば何とかなると考えていたが、それは甘い考えだった


自分は何てだめな人間なのか・・・絶望感にあった。 そんな落ち込んでいるYさんは、ある男性と知り合い、29 歳で結婚した。 専業主婦になれば少しは気持ちも楽になるのでは・・・と考えていた。 ところがこれが彼女にさらなる混乱をもたらすのだった。
部屋の中は引っ越しの荷物でいっぱい。彼女は片づけることが大の苦手で、懸命にやろう としても、どこにどれを片づけたらいいのかさっぱり判断できない、考えればまともに片づけたことなんてない・・・夜になって夫が帰ってきても部屋の中はごちゃごちゃの状態 で、丸一日かけても全く片づかなかったのだ。とにかく家事の要領がわからなくて、夫の 弁当と朝食作りに何時間もかかる、洗濯した衣類を干し忘れてしまう、いつも満足に終わらせることができない・・・その原因は、Yさんが一つのことをやっていても、何かに目 をとめると途中で放り出してしまう。そんな状態だから一日中せわしなく掃除しても全く片づかないのだ。

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結婚1年後、女の子が誕生し、育児が加わって部屋の中はさらに散らかるようになった。 毎日のように夫とぶつかりあうことも多くなった。ついに我慢できなくなった夫はYさん に離婚を切り出した。2年間の結婚生活だった。Yさんは子どもと一緒に暮らし始め、仕 事も見つかった。しかし相変わらず部屋の中は散らかり放題だった。どうしてもきれいに できない。できれば娘に不自由はさせたくない。でも何かとおろそかになる。 今まで33年間振り返ってみても、仕事、家事、子育て・・・何一つ満足に成し遂げられ ない自分がすっかり嫌になっていた、自分の全てが惨めに思えてきた。

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もがき続ける毎日の中で、やっと見つかった答え


そんな毎日の中、Yさんは本屋で一冊の本を見つける。それは「片づけられない女たち」 という本だった。それを手に取って読んでみると「ADHD」という言葉を見つけた。 それは「注意欠陥多動性障害」と呼ばれる脳の障害であり、その全容はまだ解明されていなかった。日本では教育の現場で「注意力がない」「落ち着きがない」「衝動的な行動をと る」などの特徴を持つ児童は「ADHD」の可能性があると言われている。それは子ども独特の障害である。と考えられていた。ところがその本によれば、ADHDは子どもだけ にとどまらず、大人にもあるのだという。読み進むにつれ、Yさんは今までの自分の行動 がこの本に記述されていることに全て当てはまっていたことに驚いた。後日、Yさんは心療内科で診察を受けると、「ADHD」と診断された。

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より多くの人に理解してもらうために、行動を起こす


それを聞いて、心が晴れる思いだった。自分のだらしなさは性格の問題ではなく脳機能の 問題だったのだと気づいた。そしてこのことを自分の両親にも報告した。 「ただだらしないのではない、脳機能の問題だったのだ」と・・・ しかし彼女の父は、「それはただの怠け者の言い訳じゃないのか?」と認めてくれなかった。 それもそのはず、突然「脳の障害である」と言っても理解してもらえないのは当然だった。 今まで自分だって「努力不足だ」と思い込んでいたのだから・・・
そしてYさんはある決意をする。 ADHDについてインターネットで調べてみた。自分と同じように苦しんでいる大人がい るのではないかと・・・ADHDのホームページはあったが、当時は子どものことばかり で大人を対象としたホームページはなかったのだ。
すると、Yさんはパソコンが得意なことを生かし、大人のADHDのホームページを作成 しようと決めた。きっと自分と同じように、全国の大人で苦しんでいる人がいるはずだ と・・・ そして、Yさんの脅威の集中力で全国初の大人のADHDのホームぺージを作成した。 全国から大人でADHDに苦しんでいる人からアクセスが来た。 そしてやっと気づいた、自分はできることとできないことがはっきりしているだけで、決してダメな人間ではないのだと・・・

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障害とわかってから、日常も大いに変化した


それからYさんの日々の生活は大きく変わった。 洗濯した服はすぐにハンガーにかけて干す。こうすれば着る時にそこから取ればいいし床 に散らからない。ダイレクトメールなど細々としたものを分類するのが苦手なので、無理 して分類するのもやめた。「何でも箱」と名付けた箱に放り込む。これで散らからない。 職場でも、苦手な仕事は無理強いせず同僚に任せ、その代わり得意なパソコン業務は引き受けたのだ。
すると、両親が、Yさんがいろいろ工夫して、彼女が変わっていることに驚いた。 必死に工夫して生きている娘の姿を見て、少しずつADHDへの理解を深めていった。 そして最初は認めてくれなかった父親は「協力できることがあったら、何でも言ってくれ」 と彼女に言った。少しずつ親子の理解も深まっていった。 現在Yさんは、大人でADHDに悩んでいる人の相談を受け入れたり、ADHDの社会認知と支援活動に取り組んでいるのである。

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あとがき


近年、ADHDや発達障害と言う言葉が出てきている。仕事を極端に辞めてしまう人、人 間関係がうまく作れない人、物ごとを上手に成し遂げられない人は、実は発達障害を持っ ていたという報告があった。これは親のしつけのせいでも、本人が怠けているわけでもな く、あくまで脳機能の問題なのだ。昔はそれはただの言い訳に聞こえて、認められずに苦 しんでいた人が多かったが、現在では様々な支援センターがあり、日々の生活面、仕事面 でもサポートしてくれているのだ。
この文章を作ったのは、2010 年の 3 月だが、その時は自分にはADHDなんて全くないと意識していた。しかし社会人になって仕事をするようになってから、Yさんと同じ ような失敗を繰り返すことが多かった。もうこれ以上はごまかしきれないと思って診察を受けると、ADHDの可能性が高いと言われた。ADHDと判明すれば、どこをどのように対処したらよいのか判断でき、失敗も減ることがわかった。 この文章を読んでいる人に、もしADHDの疑いがあるのなら、ためらわず診察を受け、どのように対処したらよいか考えて、実行することが大切である。

参考文献:サリ・ソルデン著 片づけられない女たち(WAVE 出版)
リン・ワイス著 片づかない!見つからない!間に合わない!(WAVE 出版)


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