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北村武文さんは、ADHDとアスペルガー

はじめに


著者である私が通っていた発達障害セミナーでは、当事者の方がたくさん参加して、今自分が不便に感 じていること、過去に起こった辛い出来事、日常生活や仕事で気を付けている所などを話し 合いました。その中の一人、北村武文(きたむらたけふみ)さん(仮名)という 30 代の男性の話をしたいと思います。

大学進学してから、あらゆる困難に直面する・・・


北村さんは、東京都内のある有名大学に進学して、一人暮らしを始めました。 しかし、そこからいくつもの困難にぶつかっていったのです。
まず、アパートにはまだ開封していないたくさんの引っ越しの荷物があります。それを然るべき所に片づけることで躓き、ついつい先延ばしにして結局何も片づかないことがありました。続いて日常の炊事、洗濯、掃除も要領が全くわからず、台所ではどこで何が腐っている かわからない、床は常にゴミが落ちている、着るものがすぐにわずかになることなんて当たり前でした。

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履修登録、試験、レポート提出、サークル活動で躓く・・・


続いて大学生活、大学は小学校、中学校、高等学校と異なり自分で時間割を組 み立てる履修登録や、レポートなどの課題を期限までに提出すること、試験で基準点以上の得点を得ることが求められ、自分の自己管理能力が重要となるのです。北村さんは試験成績はまあまあよかったのですが、遅刻や欠席、レポートを締め切りまでに提出できないことが多く、何度も担当の教授に頭を下げて許しを請うこともありました。特に長い文章のレポー トは一朝一夕ではできないので、数日間に分けて作成しなくてはならず、ゼミのレポートは 提出を1 回でも忘れると、卒業が危うくなるのです。。大学内で行われているサークル活動にも参加してたのですが、北村さんの不用意な発言がきっかけで周りと気まずくなってしまい、 さらには必要なものを持参するのを忘れることもあったので、だんだんそこに通うのが憂鬱になってきました。

仕事に就くための準備も、こんな苦労があった


就職活動を迎えた時はシワや傷がある履歴書に雑な文字を記入し、しか も文字は書き間違ってしまうことも多かったのです。面接に向かう時は、出かける間際に会場の地図がないことに気づいて慌てて探し、急いで駅にたどり着いた時はお金が入っている 財布がないとわかって慌てて家に舞い戻り、面接の時間には大幅に遅れてしまいました。
それでも何とか就職が決まって、システムエンジニアとして働くことになった北村さん。 これは主にコンピューターシステムの開発や設計を行う仕事で、専門の知識を求められる。 新鮮な気持ちで社会人生活を送ろうと心に決めていたが、それは残念ながら叶いませんでした。

社会人になってから、さらに大変なことに追い込まれる


まず、朝遅くまで寝坊して決められた時間までに出勤できず遅刻してしまう。当然上司に叱 られ落ち込んだ気持ちで仕事を始めることもしばしばだった。その上仕事で使う重要な書類 をきちんと整理できず、どこへやったのか自分でもさっぱり把握できない。プログラム作成 ではミスが多いことを始め、数人で行うチーム作業がうまくできない、この前なんか依頼先 のシステムを止めてしまったこともあり、ものすごい剣幕で苦情が来た。
仕事で使う机の上はいくつもの書類が積み重なり、あちこちに筆記用具が転がっている。そ のせいで今日仕事で使う書類や資料がどこへ行ったのか自分でもすぐ見つけることができ ない。3 日前は取引先と打ち合わせをする時に必要な書類が行方不明になって、やっと見つ けた時は折れ曲がってしわがついてしまい、その上今日の日付を刻んだ印鑑を押し忘れてい た。
打ち合わせを行う会議室に遅れて到着した北村さんを、先輩社員が冷たい目で睨み付け、肝心の書類もお客様に出せるようなものではないのにそのまま出し、取引先もあきれ顔だった。 そして出された返事は「約束や期限を守れない企業とは仕事できない。今後の取引は考えさせてもらう」という言葉だった。重要な取引先だったのに、北村さんの失態で信用を失ってしまったのだ。
さすがに見かねた上司は、一度北村さんを呼んで注意した。
「君は本当に失敗が多いし落ち着きがないね。我々は北村君の尻拭いをしているんじゃないんだよ。この前は大事な取引先の信用を失うし、プログラム設計のミスによって大迷惑をかけたし・・・このままでは我が社の業績も悪化してしまう。もっと気を引き締めて仕事に取り組むように」

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一体何をどうしたらいいのか、全くわからない


自分でも何とかしようと思っているが、一体どうしたらいいのかわからずさらなる悪循環に陥り、仕事の能率は悪くなる一方。さすがに自己評価も悪くなって、失敗するのではないか という不安が強くなり、気分が沈むことが多くなった。この前はふらふらしすぎて朝礼中に倒れた。その原因はストレスによる慢性胃炎だった。そして入社から1 年で北村さんは職場を辞めた。
仕事を探そうとインターネット求人を閲覧しているうちに、ある書き込みを見つけた。 それは、自分は就職してからやっと発達障害があることに気づいたことである。 その書き込みに釘付けになった北村さんは、さらに詳しく発達障害について調べた。

自分はもしかしたら、発達障害なのでは・・・?

発達障害・・・それは脳の中にある前頭葉の働きに異常が起こって発症する障害・・・ 主に分類してみると、注意欠陥多動性障害・ADHD、学習障害・LD、高機能自閉症・アスペルガー症候群が当てはまり、現れ方は人それぞれだ。
特にこの ADHD・注意欠陥多動性障害は子供の頃から存続し、大人になってもその障害のせいで、仕事や家事がうまくいかないという人も多い。
そうだったんだ・・・書類が整理できない、決められた時間に遅れる、プログラム作成で細々 としたミスが多いのは、自分に ADHD があったからなんだ・・・!!!!!

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病院の診断で、ようやく自分の正体がわかった


この言葉にやっと目が覚めた北村さんは、すぐ心療内科に予約を入れ、医師との面談や知能検査を行い、診察してもらった。 数日後に検査結果が出て、北村さんはやはり ADHD・注意欠陥多動性障害及び、アスペル ガー症候群だとわかった。 さらに医師は、症状を抑える投薬を勧めるだけではなくこのような助言をしてくれた。 「就職する際は前回と同じ失敗を繰り返さないように、自身の障害を理解してもらう所を当 たるとよいでしょう。それから障害者手帳の取得もおすすめします。
そして北村さんは、障害者雇用枠の求人ホームページを見て、自分に合った仕事を探した。 もちろん、自分の障害による苦手を把握して、受け入れられるような履歴書の書き方、はっきりした面接の受け答えなどにも力を入れ、あるソリューション会社の求人に応募した。
面接では、自分の障害の特徴を包み隠さずはっきりと伝えた。 曖昧な言い方を理解できない、言葉だけの説明だと忘れてしまう、同時に複数のことができない・・・など、とにかく相手側に伝わるように述べた。 そのおかげで面接を突破でき、これから事務補助として働くことになった。

ADHDと気づいて、大きく変わったこと


机の中には仕切り付きトレイを入れて、予備の筆記用具やゼムクリップ、ホチキス、スティ ックのりなど細々とした物を整理する、仕事で使う重要な書類は 100 円ショップで買ったファイルに収める、何かを頼まれた時は胸ポケットに入れているメモとペンで記録する、会議に参加する時は 5 分前行動を心掛ける、携帯電話のスケジュール管理機能で予定を忘れないようにするなどの工夫をして、前回の職場で味わったようなストレスを軽減することが できた。そして今でも障害の特性を理解して、真面目に働いている。

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