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底辺ライター日記

「みんなおはよう」

この部屋は彼女以外には誰もいない。しかし毎朝繰り返されるこのセリフは窓際の蛾のためなのか、シンクのゴキブリのためなのか。


朝起きるとパソコンの前に座りパソコンを立ち上げる。パソコンが立ち上がらなければ一日は始まらないらしい。

しかし、立ち上げられたパソコンが使われることは稀である。暇を持て余したパソコンはすかさずスリープモードに切り替わるが、彼女はマウスを動かしスリープモードを解除する。しかし使わない。彼女にとってパソコンはただのブルーライト生成機である。


しばらくスマホを繰ったあと、ようやくパソコンに向かい、仕事を始める。


彼女の仕事はライターである。文字を書くことが昔から好きだが、点で創作に向かない頭ゆえ、頼まれた文字を生み出すこの仕事についた。頼まれたことは頼まれたとおりに返す、彼女のモットーはこの仕事と相性がいいようだ。何より質はそこそこ数を求める依頼先とは長く仕事のやり取りが続いている。


昔読んだ小説で村上春樹が「文学的雪かき」と称した仕事はまさにこれだろうと彼女は(ここで筆者が助詞「は」を使ったことに留意されたい)誇っている。

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