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この戦争は、どう始まったか -PMC(3)

(3,574 文字)

「自分で経験してなければ信じなかっただろう」

現在、露軍はワグネル・グループの空挺部隊の兵員を補充し、主な攻撃部隊として使っている
「あれでは、最も激しい前線で前方軍部隊に傭兵部隊を『レンタル』しているようなものだ
『傭兵部隊をよこせ!』
『はい、お待たせしました』とね」と元ワグナーの指揮官が言う

その結果、ウクライナに駐留するPMC部隊は多くの死傷者を出している
「最初にマリウポリに派遣された『音楽隊』は何もすることなく、ただ、クソミンチになった
その戦いで2人の知人が戦死した
『200番(死体)』または『200番』と『300番(重傷者)』が合わせて60個だった」

「ほとんどが大砲でやられてた
すぐに30人が任務を降りた」

「露軍の中の天才が、戦場のど真ん中で『音楽隊』に演奏させることを思いついた
砲兵の支援も無しにウクライナ軍の要塞に突撃させたんだ
砲兵の支援も、航空支援も無しに、要塞化された敵のバンカーや迫撃砲のある陣地に向かわせたんだ」

「そこで部隊の約50%がノックアウトされた
露軍兵士は命令されたら強制的に連れて行かれる
しかし、傭兵指揮官なら逃げ道がある
たとえば、陸軍規則を参照して、命令の遂行を拒否できる
なのに、馬鹿みたいに命令に従ったら…どうなるか分かるだろ...」

ワーグナー部隊の元指揮官やPMC指導部に近い情報筋などの3人は、その攻撃で傭兵部隊を指揮した人物はすぐに「死んだ」と主張している
その「音楽隊」の隊長は、愚か過ぎて、組織的に馬鹿をやり、非常に大きな損失を被った
そして、駐屯していたドンバスの基地で「0点」になってしまったのだ
「まるで戦時裁判の評決のようだった」と、ワーグナーの退役軍人は言う
(ただし、露に帰国してから謎の死を遂げたと他の二人は言っている)
その指揮官の名は「ロトス」
シリアやリビアで働いていたロトスは、このときのワグナー・ウクライナ部隊の全体の指揮官だったという
ワグナーがリビアで任務を遂行していた2020年1月のワグナーの社内文書(注:詳細については下記のBBCのウェブサイトを参照ください)に、第7突撃隊の指揮官、コールサイン「ロトス」の記載があった
その文書は「戦闘任務」を遂行するため、ロトスが狙撃銃や機関銃、散弾銃の支給を部隊に要請するものだった
(注:2020年時点で、公式にはワグナーは「戦闘任務」には従事していないことになっていた)

ルハンスク州西部の小さな町ポパスナの攻略は、2カ月にわたって繰り広げられ、ワグナー部隊の大きな成果とされる
衝突の参加者たちは、「ワグナーに手柄を横取りされた」と主張している
ワグナー部隊と共にドンバスのペルボマイスクとドルジバを占領したレダットの傭兵は「彼らはチンピラだ」と言う
「自分たちは大勢を前に押しやっておいて、ちょっとウクライナ軍に押し返されると『援護が無ければもうこれ以上進まない』と言う
ポパスナのすぐ近くで、ポパスナを一部占領していたが、ウクライナの鉄壁の防御にぶつかり
『みんな、止まれ!
大砲が止むまで、これ以上進まないぞ
そうしないと、だれも進めなくなる』

しかし、ポパスナ近郊では、軍がワグナーの傭兵に適切な支援をせずに無理に戦場に送り出したため、彼らに酷い損害を出させたという証言がある
これはPMCの立場でないと分からない事情だった
ある人の語ったところによると、ポパスナを占領するために派遣されたワグナー戦闘員は最小限の弾薬しか持っていなかった
「一人にたった4本(の弾倉)!こんな目にあうなんて、信じられなかった
そこで『ピャートナシュカ(ワグナーの第15突撃隊)』と他の(部隊)が殺された
自分で経験してなければ信じなかっただろう」
と、男は怒りを込めて話していた

プリゴジンの動機

そんな苦労もあったが、ポパスナを落として、露当局はワグナーグループを見直したようだ
その2週間後、国営テレビの特派員が全国放送で、
「危険なところではいつも(ワグナーグループを)見かける、彼ら(を讃えるの)にふさわしい言葉は無い」と、珍しくPMCを褒めた
(注:残念ながら、チャンネル1の動画はもう再生できない)

この特派員は、ウクライナの法執行機関がワーグナーPMCの傭兵3人を民間人殺害やその他の戦争犯罪で告発している事実はには言及しなかった
これまでにも、ワーグナーの傭兵(およびPMCの関連組織)は、他の国、例えば中央アフリカ共和国やリビアで行われた戦争犯罪についても繰り返し告発されている
特に、国連の委員会は、彼らが民間人を殺害・略奪し、集団強姦を行っていることを指摘している

露軍は再びプリゴジンのエリート傭兵に頼ることになったが、侵略でワグナーが果たす役割に関するプリゴジンの本音は(2022年7月当時)明らかではない
(注:すでにこのとき、7月初旬から自ら刑務所に足を運び、志願兵募集活動を行っていた
その証言が出てくるのは8月になってからだった
囚人たちに募集の条件を説明し、演説をしている映像も複数流出した
9月にはワグナーのオーナーであることを公言するようになり
11月にはサンクトペテルブルグに巨大なワグナーの本社オフィスを構えた)

動機はともかく、前線に部下を送り込んだことで、プリゴジンはロシア英雄の称号を貰ったようだ
大統領府に近い2人の情報筋によると、この賞はワグナー・グループがルハンスク地方で占領地を確保し、その実力を証明した後に授与されたものだという
プリゴジンの「成功」は露軍や他のPMCが活動していたドネツク地域とは対照的であり「より明白な成功」なのだという
(注:露軍は常に誰もが「成功」していた。少なくとも7月までの露軍の公式報道によると。)
ワグナーの傭兵たちも「ポパスナ奪取のための」勲章を与えられたと言うが、この戦争におけるPMCの公的な扱いははっきりしない

ソビャーニン大隊

プリゴジンに対するプーチンの信頼度は、こうした実績のおかげで急上昇していると証言する政権内に詳しい人が二人いた
露国防省によるPMC経由の徴用は「秘密動員」の一形態として機能し、国内情勢を混乱させずに多くの兵士を集めることを可能にしたというのが、取材に答えてくれた人、全員の一致した意見である
この手法は、傭兵集団と正規軍、そして 「志願兵」の垣根を完全に取り払った
独立した部隊は無くなり、今では全ての部隊が露防衛省に協力しているという

春先から露の各地方で、ウクライナで戦うための「義勇軍大隊(実際には契約兵部隊)」編成が始まった
大隊はチェチェン、タタルスタン、バシキリア、ペルミ、キーロフ、ニジニ・ノヴゴロドなどで出現した
モスクワにも大隊があった
この大隊の運営費はモスクワ市の予算が使われていることをメデューサは突き止めている
リクルーターや候補者たちはこの大隊を「ソビャーニン連隊」と呼んでいる
(ソビャーニン市長は、表面的には、戦争と距離を置こうとしている)
しかし、ソビャーニン連隊に応募してくるのはモスクワ人ではなく、主に地方の人々である

ソビャーニン連隊の新兵から、ある電話番号を入手した
発信者特定サービス(NumBusterとGetContact)で追跡すると「Roman Vladimirovich Vysotsky」という名前で登録されていた
名前が正確なら、男は自称ドネツク人民共和国の第9分離突撃機動ライフル連隊の元士官である
「ブルガリアン」というコールサインで知られる
プロフィールには「ソビャーニン連隊」の「大隊長」であるとされている
彼によって部隊の募集が始まったのはごく最近で、7月1日だ
希望者を装って電話をかけた

「ウクライナに行こう
最初の1ヶ月はムリーノ(モスクワから東に約400km)の訓練場で訓練し、「(訓練終了の)リボン」を取りに行くと、成績に応じて普通の下士官でも20万ルーブル以上(注:当時のレートで3,400ドル以上)もらえます
この金額に、ソビャーニン市長からのボーナスが別にあります
5万ルーブルずつ4回に分けて支払われます
VTBカード(ロシアの銀行カード)は部隊に来たら発行します
モスクワからの振り込みはその口座で行われます」

申請者は7月15日までにモスクワのチェルタノヴォ地区にある軍入隊事務所に登録する必要があるという
入手した採用条件を記した文書によると、ソビャーニン連隊は、定年前の男性(60歳以下)まで募集している
露国防省は3カ月以上、死傷者の報告をしていないが、ウクライナとの戦争に関与している他の露の機関も、募集をやめるつもりはないようだ

「ウクライナですでに多くの友人が傷ついたり殺されたりしている」と、侵攻に加わっていないベテラン傭兵は語った
「この戦争の話はもう聞き飽きた
もう電話もとらない
どいつもこいつも殺された
もうすぐ誰もいなくなるんだ」
(終わり)

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参考:

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