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どんなものも、自分自身より重くはない。

友達に、ほか弁の焼肉弁当を買ってきてと頼まれたんですよ。

友達というか、近所に住む老人なんですが、彼は畑仕事に夢中になると、一切の家事を忘れて没頭する。車を出すのが面倒になる。だから、電話一本で僕に使い走りをさせるんです。

いいけど、と返事をして、ネットで注文しました。ちょうど外で済ませないといけない仕事があったから、その帰りに受け取れる時間で注文しといて、ほんで、プラスチック袋に入った弁当を下げて老人氏の畑へ運んであげました。

これって、立場逆だと、確かにめちゃうれしいよな、と思う。へい、買ってきたよ、と温かい弁当が差し出される。他人が買ってきてくれるってとこがうれしいはず。で、僕もそれを先回りして享受して、うれしい気持ちになってみました。

なんつうか、すんごいお手軽でそのとき限りで楽しい経済だと思いませんか? たまさかのハッピー・エコシステム。

で、老人氏は、自分で作ったベンチに腰をおろし、あとで食べるわ、と弁当はクーラーボックスにしまいました。家へ飲み物を取りに戻るのがおっくうなので、ミネラルウォーターだけは用意しているようでした。ほとんど散った桜の木が、そこそこ木陰を作っていました。スローライフというか、もはやスティルライフの世界。

老人氏はちょっと前まで海外旅行に行ってて、畑は荒れまくっていたんですが、今や草はきれいに刈られ、黒いマルチで覆われていました。マルチって、マルチ商法の"multi-"じゃなくて、"mulch"って単語らしく、僕も今調べてびっくりですが、マルチング農法というのがあるらしい。シートじゃなくて、雑草とかで畑を覆うやり方もある。
で、老人氏のは、樹脂シートで覆うやり方です。等間隔に並んだペグで、マルチは見事にたるみなく張られていました。

一人でよくやったっすね?
きれいになったろ?

老人氏はうれしそうでした。

僕はパセリを少しもらって帰った。ここのパセリは全然苦くなくて、何にかけてもおいしい。

しかし、まだまだ屋敷じゅう、草が生い茂っている。落ち葉もものすごい。今時期じきに落ち葉? と思うけど、何か、今ごろに新芽と入れ替わる木があるらしい。止めてある濃紺のZ4の上にもたくさんの葉っぱが無情に落ちている。確かに車はしばらく出していないっぽい。

いつも僕にすり寄ってくるネコが今日はいない。僕はえさをあげるわけでもないのに、にゃ~とかいってすり寄ってくるんです。やたらと愛相がいいんです。白と黒のブチ猫で、界隈をうろうろしてる野良猫で、僕が車を運転してる時に見かけたら、やぁ、とか声をかけるんですが、家へ帰ると、もう先回りして勝手口に座ってることがある。早すぎだろう、と思うんですが、似たような猫が二匹いるのかも、とも推測できる。不可解さがおもしろい。

「どんなものも、自分自身より重くはない」というセンテンスを、今日どこかで読んだんですが、ページを繰っても見つけ出せない。読んでた本は、三浦俊彦の『可能世界の哲学』なんだけど、どこらへんだったか、わからなくなってしまった。

本当の意味とは別に、僕がこの文を読んで思い浮かべるイメージは、僕じしんがパツパツに飽和しているところです。特段、太っているわけじゃなくて、相応な体形であっても、そして、もちろん太っていても、痩せていても、誰でもその人なりにパツパツで、飽和した重量を持っている。

なんかそこには、かさと重さとが不可解に交差するようなイメージがあって、いいですね。官能的ですらある。なんかいい絵がかけそうだ。僕じしんは絵を描かないんですが、坂口恭平のように毎日きっちり二枚の絵を描くというのは楽しそう。

ニックが7月いっぱいでイギリスへ帰国するという。
次ぎどうすんの? と聞くと、精神科病院のナース、看護師として働くって言うんです。僕が、そりゃまたえらく畑違いだね、って言うと、元々はそういう仕事をイギリスでしていたと。ひょんなことから日本に留学して、一年間だけだったけど、日本のことが気に入って、で、日本のALTに応募したそうなんです。

思うんだけど、ALTって、必ずしも語学教育に興味がある人じゃないといけないわけでもないな~と。彼らの大学での専攻は写真だとか、心理学だとか、工学だとかいろいろ。向こうに帰ってから会計士になる、とか。ぜんぜん教育しばりじゃないんだなぁと思って、なんというか、身軽で。いや~、そういうの、いいよね。やりたいことだけやっていくこといにしてるだけ。か、どうかはわかんないけど、僕にはそう思えます。

夜に窓を開けっぱなしにする、今年はじめての晩、たぶん。
すずしい、なんていう感想。
名前のわかんない虫が鳴いてる。そしてなにより! フクロウが鳴いてる!
フクロウの鳴き声は、ほんとにいいんですよ。
夜って感じで、僕じしんは安心安全な場所にこもっていて、明かりが灯っていて。そういうことを思い起こさせてくれる鳴き声。いや、イメージ引き出しすぎかもしれないけど。
とにかくフクロウはすき。

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