漫画業界Newsまとめ番外編:「マンガ雑誌や出版社ごとにデジタル原稿のサイズが違う話」『重版出来』18巻より
今回はマンガ業界Newsまとめ番外編です。
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業界ネタがとにかく沢山出てくる『重版出来』ですが、18巻104話(百四刷)「クリエイト!」から次話の「マンガを描く!夢を描く!」にかけて業界News的に面白い題材があったので、変則レビューの体で取り上げさせていただきます。
本記事は、お話の主たる筋にはあまり触れないのですが、若干のネタバレが含まれます。ここからはご了承の上ご覧ください。
CLIP STUDIO PAINTプリセットと媒体別原稿用紙
この104話「クリエイト!」では、バイブスで始まった新連載、野口カズ先生の『探偵は踊れない』が面白かったのは良かったんだけども、刷り上がった雑誌の掲載原稿のスケールが合ってないんじゃないかという、作家の鋭い勘から来る違和感から始まります。
本編はこのあと、作中の漫画家の中で圧倒的シェアを誇る作画ソフト、クリエ・スタジオについて、かなり細かいところまで切り込んで2話に渡りお話が進みます。このクリエ・スタジオとはご存じCLIP STUDIO PAINT の作中名ですね。
クリスタ公式Twitterからも『重版出来』に取材協力したとお知らせが出てました。
さて、本話もとても良いお話しでしたので、ぜひ単行本を読んでいただければと思うのですが、お話のギミックの中に、出版社・雑誌ごとの原稿用紙サイズが違うというエピソードが出てきました。これはなんでそんな不便なことになってるの?と思うところですよね。
これは実は紙の原稿の時代からの名残で、雑誌・媒体ごとに指定の原稿用紙のサイズがあって、昔はそれをもらって作家が原稿を描いていた時代があったのですね。(今も一部そうですが)
ひな姫先生のツイートにある原稿用紙がボンボンとは、また趣があります。
そして本編ではその流れから、デジタル作画で各社指定の原稿用紙サイズのプリセットファイルの話に及んでいます。つまり、出版社や雑誌・媒体によって指定する標準原稿用紙のサイズが違うので、それを知らないままデジタル制作の作業をしていると、掲載時のサイズが違って見えてしまうこともあるということですね。
それで実際どうなっているかというと、クリスタを使用してる商業漫画家さんには常識だとは思いますが、各社の原稿サイズに合わせたプリセットがクリスタに導入されています。漫画家さんには間違いなく便利ですよね。
このプリセット、各社の導入タイミングを追うと以下。
集英社 2018年12月のセルシスリリース
講談社 2019年7月のセルシスリリース
小学館・KADOKAWA 2021年5月のセルシスリリース
ということで、小集講角と主要出版社の原稿用紙が順次入っていっているのが判ります。小学館が2021年5月に導入とありますが、ちょうど今回の重版出来18巻の月スピ掲載時あたりとなんとなく近い感じですかね。
私の記憶が正しければ、大手出版社で最初にプリセットを準備したのが集英社だったと思います。そして、この集英社の記事を見てみると、以下のようにあります。
こう見ると、同じ集英社の中でも原稿サイズに種類があり、しかも少年誌と少女誌が雑多に混ざるなど、不思議な感じになっていますね。
これも、もともと紙の時代は各社が入稿時に最終形態のサイズを同じにすべく足並みをそろえるということに、あまりメリットが無いままバラバラで進んで来たことが起源ではないかと言われています。(人によって、色んな理由を言う人がいますが、だいたいそれらしいので、どれも理由のひとつであったのでしょう)
デジタル時代になる前から、既に印刷会社もバラバラな状況に十分対応できるようになっていて、制作側がほぼデジタルになった今、なんで統一してないんだっけ?という感じになっちゃったような、あんまり大きな理由はなかったような雰囲気ではあります。むしろデジタル化後でも足並みを揃えて統一する作業が大変だったのでしょう。
ちなみに、今のクリスタのプリセット設定を見るとこんな感じです。
上記でリリースされた大手4社のほかに、Webtoonというのがいくつかありますね。(参考:原稿プリセットの表示法)この画像を提供してくれた漫画家さん、実はこのプリセットの対象になる出版社で連載中なのですが、この存在を知らなかったそうです。一人の連載作家にこのプリセットを知ってもらっただけでも、とても有意義でしたw
また、これこそ余談なのですが、この作品制作フォーマットが各社で違うということについて、2015年ころに経済産業省が電子書籍の流通に不便があるのではないかということで「マンガ制作・流通技術ガイド」というものが作ろうとして、有識者会議を行ったり各社ヒアリングを行うなどしたこともありました。
「マンガ制作・流通技術ガイド」報告書
調査報告結果をまとめるまでにとどまったようです。その統一フォーマットが技術的、運用的に妥当かどうかとか、統一するまで指導的な立場になる団体や個人がいなかったなど、色々課題はあったのだろうと思います。
どの媒体が最初に原稿プリセットを開始したか?
さて、ところで、こうした媒体や出版社の中で、一番最初にクリスタにプリセットの原稿サイズを入れたのはどこかご存じでしょうか。
実は、一番早かったのは意外にもあのcomicoなのです。2015年の頃です。
当時のcomicoは、まだ日本に馴染みの無かった縦スクロールカラーマンガを普及するために、あの手この手と様々な努力をしていました。このプリセット導入に伴い、当時の人気作品『ミイラの飼い方』とコラボした限定PKGクリスタを販売したり。
日本初の縦スクロールカラーマンガ教本をcomicoとして発刊したのもこの頃です。
今やもうWebtoon真っ盛りですっかり縦カラーもスタンダードになりつつありますが、当時まだWebtoonという言い方はまだまだマイナーでした。そんな時代もあったのねというお話でした。
実は、この教本の制作に関わった方の中には、今のWebtoon界隈での大ヒット作品に関わっている人もいたりするのですが、2022年版などの新しい教本がまた出て欲しいですね。Webtoonのトレンドは動きが早いので、本にするには難しいというのが悩みなようなのですが。
ちなみに、先の図1を見ると現在はcomicoという指定フォーマットはもうなくて、Webtoonで複数種類が準備されてる状態ですね。縦カラー改めWebtoonは一般化したということなのでしょう。
業界の裏方たちの努力に胸熱!
comicoにせよ、集英社ほか各社にせよ、色んな裏方の人たちがコツコツ努力してこのプリセットのフォーマットをクリスタ側と調整するなどされてきました。こうした地道な作業を業界の裏方たちが一生懸命やってきたことのうえに、今のマンガ業界があると考えると胸熱ですね。
作品本編では、このプリセットの話から、現場で漫画家たちがどんな風に作画ソフトを使っているか?クリエ・スタジオを提供する企業の中にも、実は元漫画家志望の人がいたりして、熱い思いで製品を作ったりユーザー対応したりしているなどのお話が、松田奈緒子先生の柔らかで繊細な筆致で繰り広げられています。
ちなみに、実際にクリップスタジオを提供しているセルシス社の中にも、元漫画家志望だったスタッフの方がいたりするのも本当です。熱い。
マンガ業界Newsまとめを読んでくださっている方の中にも読者は多いと思うのですが、『重版出来』には、マンガにせよWebtoonにせよ、業界に関わる人にとっては教科書と言えるくらい、丹念に取材されたエピソードがてんこ盛りに続いておりますので、必須課題として是非ご覧いただければと思います。
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個人的に、以下のセルシス社による漫画家のデジタル制作についての実態調査アンケートのお手伝いをしてます。クリスタがいかに漫画家に普及してるか?という話なのですが、初めて調査を行った5年前の2017年で70%超、今や90%を超えますという結果になっています。
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普段は毎週末更新ペースで「マンガ業界Newsまとめ」を書いています。たまに別途特集を書きます。マガジンかTwitterのフォロー、よろしくお願いします!
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