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【マンガ業界Newsまとめ】クールジャパン再起動で10年後に海外20兆円市場へ、『セクシー田中さん』調査報告2社出揃い など|6/9-156

マンガ業界ニュースの週1まとめです。
マンガ・アニメの業界カンファレンスIMARTを主催するMANGA総研代表の筆者が、マンガ・Webtoon関連のニュースを、ビジネス系を中心に、短時間でチェックしていただけるようにまとめています。

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「クールジャパン再起動」 政府、5年ぶり改定20兆円規模へ

政府のクールジャパン戦略が5年ぶりに改訂されました。
先日政府が発表した、海外のエンタメ市場規模約5兆円に対して、これを2033年までに4倍の20兆円に引き上げるという目標があるようです。

首相官邸の知的財産戦略本部から、その骨子が出ています。

ざっとまとめると、
・海外向けの作品流通と、海賊版対策を2本建てにして展開
・それにともなうクリエイター支援なども実施
・インバウンド観光客への取組もその範疇
・農産物ほか、様々な分野に渡ってその範囲とする

また、各戦略分野ごとに、アニメ、ゲーム、マンガといったところで課題などが書かれていました。マンガ部分を抜粋します。

(3)マンガ(出版)
マンガ(出版)は、スマートフォンの普及により電子コミックの売上が大きく増加し、今後も 拡大傾向と見込まれている。海外展開は約 3,200 億円(2022 年)であり、近年はアニメ人気と相 まって海外における日本マンガの人気はさらに高まっている。 才能ある作家の多様性、それを支える編集者等のプロデューサーによるクリエイション、マン ガ雑誌や出版社の独自アプリなど作品を世に出す場の多様性が日本の強みである。 海外では、デジタル(電子)ではなく紙ベースのものが多く(人気が高く)、現地出版社へのラ イセンスアウトの形式が多いため、海外で出版されるものは、アニメ化された作品かつライセン スアウトのノウハウを持つ大手出版社の作品が多数を占めている。その際、現地版の発刊にタイ ムラグが生じるため、海賊版が横行する原因になっている。 今後は、様々なデジタルの流通チャネルの出現に対応するため、出版社による組織的なマネジ メントのみならず、個人の作家が創作活動に専念できるよう、外部のプロデューサー等がサポー トする形態を選択することができるオープンなエコシステムの形成が課題である。

2024 年6月4日 知的財産戦略本部「新たなクールジャパン戦略」より

(超訳)
・国内では電子コミックが伸びたが、海外では紙が多い。海賊版に気を付け速やかに展開する
・個人作家が創作活動に専念するための、プロデューサー(P)がサポートするエコシステムをつくる

とのこと。Pうんぬんは、昔から繰り返されて言われてきていることで、確かに漫画では個人クリエイターが台頭していることは事実なんですけども、現時点で、マンガのC2C市場はほぼアダルトですし、大丈夫かなと思う所もあります。

ただ、Kindleインディーズなど、非アダルトの個人作家の萌芽も出始めておりますので、そのあたりでしょうか。まだPの介在する余地はみいだせてはいませんが。

とにかく、海外流通強化については正論で、私もIMARTや調査事業では頑張って貢献していきたいなと思っています。


『セクシー田中さん』調査報告関連

【小学館】特別調査委員会による調査報告書公表および映像化指針策定のお知らせ

【日本テレビ】「セクシー田中さん」 原作者が亡くなったこと受け小学館が調査報告書を公表

先週、日本テレビから出た調査報告に対して、小学館側も調査報告を出しました。2つ目の記事では、小学館の報告に対する日テレのコメントもあります。

小学館側の報告書も90ページにおよび、そのうえで、映像化にあたっての指針として今後の方針を出しています。

両社からの報告書が出たということで、様々な論点の記事が出ています。

2つの報告書を読むと、小学館は作家サイドに立ち、作家の思いも含めて執拗に日テレサイドに伝えていたようですが、日テレ側はそこに対して「その認識が無い」と回答し続けており、小学館の報告書でいうところのプロデューサーY氏の差配や情報伝達が焦点になっているように見えます。

当初、ネットに不満を出していた映像側脚本家の方については、理由もわからず唐突にダメ出しされるという、こちらもつらい立場だったやもという見方も垣間見えました。

ただ個人的には、様々に読み込むと、Y氏が一人で何かコントロールしていたというよりは、映像制作側にY氏も含めた複数人の会議体があり、その会議体が今回の諸々をコントロール・調整した結果が、今回の事態のように個人的には読み取れてしまいました。

小学館報告書86ページ「窓口の一本化という観点」に以下の記述がありました。

【略】しかし、プロデューサーの対応が頑なで現場 レベルで解決できない場合には、小学館窓口として責任ある者が指定され、こ の人物が対応し、場合によっては上級レベルでの解決を目指すべくルール作り をしておくことが望ましい。

特別調査委員会による調査報告書(小学館)

これを見ると、悔恨の残滓のようなものを感じます。現場だけでは難しいことになった際に、現場より上のレイヤーに働きかける余地があったのやもと。

他にも、ここ数週間の記事には様々な問題・課題が出されていますが、事実関係がここまでということになるのであれば、既に動いているであろう作家のご遺族へのケアや、速やかに同じことが繰り返されない対策をと思っています。


国内News

祥伝社の「フィール・ヤング」の編集部を担っていたシュークリーム社が、「OUR FEEL」という新レーベルを、自社サイトで開始とのこと。サイトのビューワは「はてな」です。

新連載や読切などにヤマシタトモコさん、はるな檸檬さん、いくえみ綾さんなど、強い作家さんのお名前も見えます。同社は少し前にfromREDという自社オリジナルレーベルも開始しており、これで2つ目のレーベルということになりましょうか。


ComicFestaのウェイブ社が、海外向けコミック・アニメ配信サービス『Coolmic(クールミック)』と『Mangadon(マンガドン)』を運営開始です。成人向けの同人アニメを、ブランディングしながら輸出を目指していくというところでしょうか。これは積極的な施策ですね。

概要を見ると、CoolMicのほうは英語圏向け、Mangadonのほうは仏語圏向けと棲み分けているようです。なるほど。


マンガや動画のプロモーションに強いXが、アダルトコンテンツの条件付き公開ポリシーを緩めたりしています。

一方で、海外向けアダルトは決済面で不安が多いのですが、海外では海外のルールに抵触しない成人向けなら、問題無く流通できるなど、日本とは違う事情も少しずつ見えてきており、そのあたりは実務にも反映してくる感じでしょうか。


小学館決算です。3期連続の1000億円超えで、いずれもわずかに増収減益です。デジタル収入と版権収入は伸ばしましたが、コミックスとしては若干の減とのこと。


漫画家協会理事の森川ジョージさんなどが都議などに働きかけていた「不健全図書」の名称問題。今週の都議会で質問として上り、検討の俎上にのぼる可能性が出来ていました。

この「不健全図書」という名称ゆえに、作品販売に際して広範に歯止めがかかるケースに対して、名称変更でこれを緩和しようというもので、これを機に名称や作品選定プロセスなどにももう少し踏み込めるかなと。


メロンブックスが、沖縄店などで深夜に無人営業で実験したものを、熊谷市では24時間無人営業という形で出店とのこと。成人チェックも入店時に出来そうですし、エリアに複数のお店をこの形でおけそうですね。なるほど。


これは、KADOKAWAの方がお気の毒としか思えないですね。KADOKAWA社に対して、特定の企業への怨恨みたいなことがあると思えず、なんなのでしょうか。


Kindelインディーズのクリエイター向け分配金が、月間1億2千万円になりました。2年前のスター当初の10倍ほどとのこと。シンプルに、良く読まれてるんでしょうね。トップ作家、ぬこー様ちゃんもポストしています。


今週のWebtoon新規参入・新たな動き

先週オープンしたジャンプTOONですが、フーモア社からも3タイトルリリースがあったようです。



2週前に連載開始したHykeComicとアミューズ共同制作作品ですが、ドラマ化が早くも決定とのこと。流石の座組ですね。


data.aiによると、LINEマンガがゲームも含めた全アプリで売上1位となったとのこと。近年このポジションはピッコマが1位でしたが、『入学傭兵』『神血救世主』など、日韓の作品がともに好調ということが影響している様子。


ローチしたばかりのジャンプTOONのインタビュー記事です。三輪編集長による「ジャンプという名前にひっぱられないようにした」というコメントもあり、じっくり作品を育てていく姿勢が強調されています。


ここ最近の石橋さんのxコラム、また面白いです。


海外News

*:ここから外国語記事を紹介します。自動翻訳などもご利用ください。

タイトル訳:ネイバーウェブトゥーン、ナスダック進出拍車… 米SEC証券申告書の提出

タイトル訳:ウェブトゥーンが新規株式公開を申請
目論見書は売上高、損失、収入源、ユーザーを明らかにする

WEBTOONのNASDAQ(ニューヨーク株式市場)への上場申請が、とにかく日英韓様々なところでニュースになっていました。内容的には先週から大きく進捗は無いのですが、とにかく注目度が高いですね。


タイトル訳:日本でManhwaがマンガを超え、国内最高の収益を誇るアプリがそれを証明

日本のLINEマンガの人は思ってもないことを、メディアが書いちゃった感がある記事。カナダのメディアとのこと。こうした記事も上場株価への材料となると思います。


カカオピッコマ側でも、上場に関する記事が出ています。NAVER側の状況次第では、こちらも近いのかもしれませんね。


タイトル訳:カカオ、市場を読み損ねて欧州ウェブトゥーンプラットフォームを閉鎖へ

ピッコマ仏の閉鎖自体は既報ですが、細かい所やNAVERの欧州での動きなどにも触れている記事です。


タイトル訳:韓国の配給会社によるウェブトゥーンがアイズナー賞の最優秀ウェブコミック部門のノミネート作品の大半を占める

アイズナー賞の2024年ノミネート作品が発表されていたようです。
これでも、実質的にBEST WEBCOMICが韓国Webtoon勢の賞で、BEST U.S. EDITION OF INTERNATIONAL MATERIAL—ASIAというアジア部門が日本のコミックみたいになってるようですね。ジャンプ+連載の作品でも、米国では紙のマンガとしてジャンルされるのかもですね。


タイトル訳: アニメNYCとジャパン・ソサエティがアメリカ漫画賞を設立

アニメNYCで漫画賞作るんですね。


タイトル訳:集英社のマンガプラスが3000万ダウンロード突破を記念して限定キャンペーンを実施

海外向けMANGA Plus by SHUEISHAのアプリDL数が3000万DL突破。キャンペーン開始とのこと。副編集長の籾山さんからも以下のポストがです。


米国、アラバマ州バーミンガム(アイアンシティ)と、ピッツバーグでのコミコンも開催ですね。


フランスの書店の賞に、日本の猫マンガ。「保護猫」という考え方が、フランスでは珍しいんだとか。


AI・画像生成関連

日本翻訳者協会が、AIによる漫画翻訳への懸念を表明しました。曰く。

AI翻訳は、作品の価値の毀損や、専門家の技能を軽視している。他。

これは、先月発表のあったAI翻訳ベンチャーが官民で資金調達したことにたいする懸念と言うことだと思います。リリース上は特定してないので、一応ここでも実名は控えます。

これは色々読み取れるのですが、ひとまずまだ議論がかみ合ってないように思います。恐らく、協会から関係各所への連絡や打診はなかったのではと推測される投げかけかなと。

2本目の記事にもあるように、そもそもの発端は、現在の日本マンガを海外に届ける体制づくりが急務という課題があると思います。まずは、落ち着いて、未来のためにしっかりコミュニケーションを取って欲しいなと思いました。


2024年上半期時点の生成AIという感じの綺麗にまとまった特集でした。
過去彼見れば、凄い進捗でしょうし、未来に振り返れば「この時はこんなかんじだったのね~」というくらいに、色々まとまってると思います。


先日文化庁が示した、データ学習だけだと、権利侵害にならないという意見を、改めて政府から出していますね。

先日の文化庁審議会では、享受的/非享受的という概念が線引きになっており、このあたりが今後も議論されるかなと思いますが、今はまだその前段というところですね。


タイトル:漫画が爆速で完成する…韓国発「ウェブトゥーン」 生成AIで作画アシスト 目指すは「漫画界のネトフリ」

韓国のWebtoonの現場で、AIを使ってネットフリックスを目指しておりますという記事。指定された著作権を持つ版権データで画像を作成し、あくまでそれを1作品の中でのみ使用するということで、享受的ではあるが、元データに問題が無いというスタンスですね。最近、この形は良く聞くようになりました。


今週のセール・キャンペーン・新人賞、取組等

これ、大きいですね。6/11まで

「第2回新潟文学賞・新潟漫画賞」の応募先メールアドレス


記事のみ紹介

感じ入ってしまいました。感動的ですけど、危なくもあり


告知関連

配信アーカイブ:「電子書籍ストア等で相次ぐクレカ決済停止問題 ~情報法制と消費者保護法制の観点から解決策を探る~」
講師:境真良

6/8にうぐいすリボンさんが配信したアーカイブです。


漫画家等向け税務講習会、インボイス対応もあるそうです。


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