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オリジナル短編小説 【未知の領域にいる旅人〜小さな旅人シリーズ06〜】

作:羽柴花蓮
ココナラ:https://coconala.com/users/3192051

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「一姫、まだいたの?」
 思わず万里有は一姫の愛称、姫を忘れて本名で言った。
「まだ、って事はないでしょう? 私も勘当寸前なんだもの」
「じゃ」
 万里有と亜理愛が手を取り合って二人で言う。
「駆け落ち?」
「な、わけないでしょう!」
 二人の言葉に思わず真っ赤になって反論する一姫である。その一姫の頭を寄せて大樹が言う。
「私の姫をいじめないでくれ」
「大樹・・・」
「姫、と呼んでもいいか?」
「ええ。みんなそう呼ぶもの」
 二人見つめ合ってあまーい世界を堪能しているので、万里有はその馬鹿かっぷるを放り出して、自分のカードデッキを見る。
「リーディングねぇ・・・。自分の未来はわからないのかしら。私に誰かおムコさん頂戴」
「いるじゃないの」
 やっと二人の世界から戻ってきた一姫が言う。
「大河がまだいるじゃない」
 ぶー、と万里有は腕で罰を作る。
「大河もいらないわ。どこかに皇子様落ちてないかしら?」
「俺! 俺は?」
「征希。いたの」
 冷たい恋人である。一応、征希と結婚すると言ってるものの、最近どうも違うような気がしてきている今日この頃である。
「万里有~」
「だから、マリー! そう呼ばないと返事しないからね」
「わかった。ま・・・マリー」
「よろしい」
 そう言って征希の頭をなでる。
「もうちょっと、身長があればねぇ」
「成長ドリンク飲んでいるから、すぐに追いつく!」
「そーいう問題じゃないのよ」
「じゃ! どーいう問題なんだ?!」
 征希もイライラしてきたようだ。万里有があまりものらりくらりとしているものだから、周りはいつケンカに発展するかと避難モードである。
「問題点は自分で見つけて。一目惚れするぐらい格好いい男になってよ」
 そう言って万里有はカードを持って一階のテラス席へと向かった。
「なんだよー。俺と結婚したいって言ってたくせに」
「自分の内面を見つめ始めたマリーよ。きっとあなたにふさわしい女性になるわ。そのためにも征希も素敵な男性にならないとね」
 マーガレットがにっこり笑う。まるで万里有が笑ったように見えて征希は怒りをおさめる。あの笑顔がくせ者なのだ。万里有とマーレットは生き別れた姉妹のようにそっくりになってきた。運命共同体とも言えるように。別に、本人達は違うことを認識しているが仕草が似てきたのだ。マーガレットは視力が悪く、メガネをかけている。それと髪の色がやや明るい。それ以外はそっくりだった。
 その日の午後を過ぎた頃だろうか。雷鳴が聞こえてくる。雨の匂いがした。
「洗濯物取り込まなきゃ」
 万里有が洗濯物を干してある中庭へすっ飛んでいく。
「あ。マリー。洗濯物。雨降りそうだから」
 中庭で相変わらず剣の鍛錬を行っていた一姫と大樹が屋敷に戻ってくる。一姫はようやくニックネームに慣れたようだ。
「それで、全部?!」
「全部よ」
「ありがとう。ひめー。大好きよ」
 思いっきり抱きつきかけた。
「ちょっと! 洗濯物が落ちる!!」
 一姫の叫びでおっとと、と動きを止める。
「相変わらずだな。少しは持て」
 ばさっと洗濯物を渡される。
「大樹の意地悪」
「私の一姫に飛びつこうとするからだ。私でさえしていないのに」
「あ。焼き餅だー」
 と。
からかっている内に、雷が中庭に落ちた。小さな悲鳴を上げた一姫だったが、洗濯物は死守していた。
「とりあえず。中に入りましょ」
 三人で入りきったところでザーッと豪雨が降ってきた。
「あら。今日、ゲリラ雷雨の予報出てたかしら?」
「マリー、そこでずぶぬれのお客様がいたから屋敷に通したわ。マギーがリーディングするって」
 亜理愛がやってくる。万里有は洗濯物を全部、亜理愛の両腕に落とす。
「ちょっと!」
「洗濯物よろしく! お客様の様子見てくる!!」
 そう言ってまた違う部屋へと突進していく。
「万里有、らしいわ」
「だから、マリー」
 ふっと本名で呼んだ一姫に亜理愛が指摘する。
「そうね。マリー、よね。さて、洗濯物の始末をつけないと」
 一姫達はまた別の部屋へと入っていったのであった。

「お客様、入ってよろしいですか?」
 小さな客間に通したと聞いて万里有はノックする。はい、と小さな声が聞こえて万里有は入った。
「これは代わりのお着替えです。洗濯しますから。それと髪はこのドライヤーをお使い下さい」
「すみません」
 小さく謝る女性客である。小さすぎて聞き損ねるところだった。
「お金取りませんから、安心してください。変な壺も売りませんし」
 万里有が明るく言うと客に小さな安堵の表情が浮かぶ。
「さっき、メガネをかけた方が、お話し相手にとおっしゃったので入ったのですけど、看板に占いのようなことが書いてあったので、どうしようかと思っていたところです。持ち合わせも少ないので」
「気になさらないでお着替え下さい。一旦出ますのであと十分もすればまたお迎えに来ます」
 そう言って万里有は一旦出た。相変わらず、自分も含めてどの客もお金のことを気にする。占いというとそういう事になっていると思うのだ。
「マギー。洗濯物を預かってきたわ。あと少ししたらお迎えに行くわよ。今日は、どこでリーディングを?」
「二階のテラス席に行くわ」
「二階にあるの?!」
 初耳だ。確かに誰も入ったことない部屋がわんさかあった。テラスの一つや二つあってもおかしくはない。
「二階はほぼ住居スペースですものね。気づかなくても仕方ないわね。あるわ、二階にも。眺望がいいのだけど、この雨ではね」
 外から恐ろしいほどの豪雨の雨音が聞こえてくる。一階のテラス席は外のため屋敷内にあるらしい二階のテラスを使うつもりのようだ。
「わかった。また後でね。マギー」
 客の洗濯物をランドリー部屋に持っていく万里有であった。

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