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オリジナル短編小説 【プルメリアの物語〜花屋elfeeLPiaシリーズ34〜】

作:羽柴花蓮
ココナラ:https://coconala.com/users/3192051

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 ここに一軒の花屋がある。花屋elfeeLPia、である。妖精の感じられる場所という造語だ。elは妖精のエルフ。feelは感じる。Piaはユートピアからとったピアである。造語であるが、造語でもないのだ。ここには花の妖精が産まれる土地が地下に隠されている。だが、妖精を見て花言葉を成就させている小さな店員、向日葵はまだ、それを知らない。一子相伝。継ぐ人間でないと知らされない。そして店主一樹には娘がいる。彩花という今年、生れた娘である。
だが、一樹は妖精を見て意思疎通の図れる向日葵を跡継ぎに指名している。来年、高校に入れば、アルバイト店員となる。そして、その後、経験を積んだ向日葵に店を渡すのが店主一樹の役割だ。自分も祖父からそうして受け継いだ。一樹を超える程の能力を秘めている向日葵以外に店を継がせること以外には考えられなかった。そう、小学生低学年の時にこの花屋に立ち止まって妖精を見ていたときから。
 車から降りてきた切り花を見て向日葵が歓声を上げた。
「プルメリアだ! いっちゃん、これどうやって手に入れたの?」
 向日葵がプルメリアの花をじっと眺めながら聞く。

 プルメリアはハワイでハイビスカスとともにレイを飾る花によく使われる花だ。だが、その切断したところから毒性の白い液体がでることから市場には余り出回らない。切り花としての需要は少ない。
「秘密。いっちゃんには七つの秘密があるのだ」
「七つもあるの? なさそーだけど?」
 冷めた向日葵の突っ込みに痛い一樹である。確かに裏表のない性格だ。秘密は妖精のこと絡みしかない。それでも威勢の良い態度を取る。
「ひまちゃんなんて賢太君の秘密しかないだろう~」
「それ、言っちゃダメ!!」
 ダン、とまた一樹の片足を踏んづける。
「ひまちゃん。また体重増えたんじゃないの?」
 地雷を一樹は踏んだ。もう一つの足をも踏んづける向日葵である。
「それは、内緒、って言ってるでしょ!!」
 ふん、とそっぽを向いて違う作業に映る。
「ひまちゃん。プルメリアの花を見ないの?」
「忘れてた。珍しいんだよね? これ、どーするの」
「私がアレンジメントして販売するのよ」
「萌衣さん!」
一樹の妻、萌衣が隣の自宅から店に現れた。
「聞いてー。いっちゃんがー」
「賢太君、でしょ?」
「どうして解るの?」
「ひまちゃんが不機嫌になるときは必ず賢太君の事が出ているのよ」
 知らぬ間に萌衣に分析されていた。
「萌衣さんも秘密にしてね」
 小学校高学年の時に海外へと行ってしまった友達以上恋人未満の彼は毎年、約束のシロツメクサの栽培キットを送ってくる。かろうじて接点がつながっている状態である。
「わかってるわよ。プルメリアは市場にあまり出回ってないけど、ハワイ好きは持っていたい花でしょ? アレンジメントなら樹液と触れないから、考えてみたの。これからアレンジメントするからひまちゃんもやってみる?」
「いいの?!」
 向日葵の目が輝く
「何事も経験。受験勉強は今日はメンバーがいないからお休みしましょ」
「わーい。萌衣さん。大好き!!」
 向日葵は小学生の時の様にはしゃぐ。
「あんなひまちゃんを見るのは何年ぶりだろう?」
 一樹が懐かしむ。
「ストレス発散にはいい機会だわ。ねぇ。あやー。一樹さんあやを預かってて」
「ほい。来た。パパのところに来ようなー」
 もう愛娘にメロメロである。こうして萌衣と向日葵のプルメリアとハイビスカスを使ったアレンジメントが出来たものから並び始めたのであった。

 そんなアレンジメントも商品となりだした、ある日。女性客が立ってプルメリアを見つめていた。
「ハワイが好きなんですか?」
 向日葵がそっと話しかける。
「え。まぁ。プルメリアのアレンジメントなんて珍しいから見とれていたのよ」
 ふわ、っとした笑顔の似合う女性だった。肩にはもうプルメリアの精が乗っていた。これをどう導くかが向日葵の腕に架かっている。
「プルメリアの花言葉知ってますか?」
「いいえ、そこまで考えたことがなかったわ」
「『気品』、『恵まれた人』、『日だまり』、『内気な乙女』です。花びら一枚一枚にも意味があるそうです。難しくて覚えられなかったけど。でも、いつかはプルメリアの事たくさん覚えようと思ってるんです」
 向日葵が嬉しそうに話すのを見て女性も心が和む。
「確か恋が叶う話もあるのよね」
「はい。お姉さんは誰かに恋してるんですか?」
 そうね、と思案気に女性は答える。
「あ。私は向日葵。このネームプレートのままです。常連さんはみんな、ひまちゃんって呼んでくれます。お姉さんの名前はなんですか? って個人情報漏洩になるのかしら」
 流石に中学三年生となると知恵がどかどか付いてくる。
「私の名前なんてありきたりよ。明梨っていうの」
「綺麗なお名前ですね。お姉さんってプルメリアの花言葉のように『日だまり』にいるように感じます。とっても優しい雰囲気が伝わってきます」
 明梨は他所でもそう言われることが多い。ぼんやりと歩いてるのだろか、と思うときがある。だが、向日葵が笑顔で言うのを見ているとそれも、悪くはない、と思う。
「よく言われるのよ。日だまりのようだ、って。でも今までそれを嬉しいと思ったことはなかったの。でもひまちゃんに言われるとそんな自分も悪くない、と始めて思ったわ」
「お姉さん。何か悲しい出来事でもあったんですか? 日だまりはとっても言い言葉ですよ。そんな言葉が嫌になるってきっと何かあるんだと思います。ひまは今、スリリングな生活してますけど、何もない日はなにもなくてラッキーだったって思うようにしてます。人から聞いた言葉ですけど、気に入っているんです」
「何もなくてラッキー、ね。深い言葉ね。日だまりの下でぬくぬくとあの人の側にいられればいいのに、ね」
 叶わぬ恋をしてるのだろうか? 明梨の言葉は寂しそうだった。
「ちょっと、待ってて下さい。残っているプルメリアでお姉さん用のアレンジ作ってきます。廃棄用なのでお金もいりませんし」
 向日葵は奥の作業台に突進する。明梨が止める間もなかった。そんな向日葵の心が嬉しかった。
 あっという間に向日葵はプルメリアのアレンジメントを作ってきた。売っているものよりは小さいが、可愛らしいアレンジメントだった。
「これ持って、自信持って下さい。ひまは応援してます。きっと好きな人の側にいられるように、って」
「ひまちゃん・・・」
 明梨が泣く、と向日葵は思った。だが、涙はこぼさなかった。心の中で泣いているのだろか、と向日葵は思った。
「このアレンジメント大事にするわね」
「はい。また来て下さい。ひまは受験勉強してるかもしれませんが」
「あら。大学?」
「いえ。高校です。普通の学校ですけど難しい問題ばかりで。ひまは勉強大嫌いです」
 あは、と明梨が笑う。
「若いときの苦労は買ってでもしろ、って言うわよ。お姉さんはひまちゃんに元気をもらったからまた応援にきてあげる。お姉さん、高校の美術の先生なの」
「すごい! 絵が描けるんですか? ひま、明梨お姉さんの高校に行きたい!」
「それは少し難しいかもね。進学校だから。ひまちゃんのように自由にアルバイトとかできないから」
「残念~」
「じゃ、またね」
「はい。ありがとうございました~」
 明梨の姿が見えなくなるまで向日葵は手を振っていた。

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