見出し画像

オリジナル短編小説 【賢いリーダーの旅人〜小さな旅人シリーズ03〜】

作:羽柴花蓮
ココナラ:https://coconala.com/users/3192051

+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+

 あの日、女子大生が相談に来た日から、何日かたった。相変わらず、屋敷ははちゃめちゃである。亜理愛と万里有はともかく、一姫が問題児だった。いや、高いプライドと高級志向にマーガレットは音を上げそうになっていた。マーガレットも庶民から言えばそうとう高級志向だが、一姫の場合はどこぞの王女級であった。そして、朝五時から、剣の鍛錬と言っては大樹と竹刀を持って素振りをする。そのかけ声がまたうるさいのだ。他のメンバーは迷惑を被っていた。
「さっさと大樹とくっつけばいいのに。一姫も頑固だから。大樹も本気出してないし」
「そうなの? 万里有」
「そうよ。いつも剣道の試合して大樹が負けるのよ。そのたびに本気出してないって一姫は泣いているわ。侮られてる、って。大樹もわざと負けてるの見え見えだし。一姫が負けた日が大樹との道が決まるわね」
 朝の迷惑を被った一人として分析し尽くしている万里有にマーガレットは驚く。
「万里有は大樹と一姫が一緒になってもいいと・・・?」
「そりゃそうよ。私は征希が好きなんだもの。お兄ちゃんなんていらないわ。あとは亜理愛と大河ね。あっちも想っているのにどちらも朴念仁なんだから」
「亜理愛は好きだわ。好みがあうし」
 そこでマーガレットは朝食の準備を思い出したようだった。最初は分担制といっていたが、そのような事ができるメンバーではなかった。万里有と大河がかうろじて出来たぐらいだった。その万里有も自立心が燃えてマーガレットの助手として日頃から台所に立っていた。
「さぁ。朝はなににしようかしら」
「フレンチトーストー」
「また。それ? 飽きないの?」
「うん。甘くておいしいからおやつの食べる量が減るの。乙女にはいいダイエット法だわ」
「そこまで言うなら・・・。他の人に文句言われても知らないから」
「大丈夫。だったら作ればー? って返すから」
 たくましい万里有である。心臓に毛が生えているとでも言おうか。あの楚々とした初対面が懐かしい。

 大河達は、大学に行きながらそれぞれの会社にも出勤している勤労学生だ。一姫や亜理愛、万里有はまたばらばらの大学だ。亜理愛と万里有は一緒で学年も一緒だが、一姫は違う上に学年が二つ違う。この年下というのもプライドを傷つけているのだろう。マーガレットは学校というものに慣れていない。いつしか祖母と暮らしていた、という具合である。だからこの朝のバタバタは気に入らないのだが、学生の朝は忙しいのである。見送ってやっとひと息つける。
 それから今日の客用の紅茶を準備しだす。最近は亜理愛が前もって茶葉を選んでくれている。無類の紅茶好きというは本当で、季節ごとにと、この間大量の配達があった。紅茶選びもマーガレットの気晴らしでもあったのだが、まぁ、おとなしい亜理愛の主張できる場所としてそっとしていた。だが、ルームシェアとはこういうものだろうか。どんどん自分のペースが崩れてくる。万里有一人なら仲良く出来そうだったのに、と少しいじけている最近である。まぁ、あの六人の恋愛を収めるにはこれしか方法がなかったのだが。
 なので、祖母のコレクションの銀食器を磨きながら、一人の時間を過ごす。万里有はどういった要領を得たのか午後には帰ってきてマーガレットとリーディングする時間を確保していた。
 そして、今日も客が来る頃になると万里有は帰宅していた。

 看板の辺りで女子高生がうろうろしている。万里有と同じ状態のようだ。チャイムに手が伸びそうで伸びない。持ち金が少なければ確かにためらうだろう。万里有は扉を開ける。マーガレットは万里有が客を連れてくるのを見越してもうお茶の準備だ。
「お嬢さん。何かお悩み? 恋の占いはできないけど人生のお話なら聞くわよ」
 にっこり万里有は笑う。いつの日か、マーガレットは万里有の笑顔を天使の微笑みだ、と言っていた。この笑顔にあらがえる者はそうそういない。一姫を除いて。
「お金あまりないんですけど」
「あ。ここ、無料。でもあやしい団体じゃないから。趣味で占いやってるだけなの」
 それなら、と制服姿の女子高生が屋敷に入った。
 廊下からテラス席に案内する。すでにマーガレットが紅茶をグラスに注いでいた。
「どうぞ。暑かったでしょう? まずは涼んでから。私はマーガレット。この屋敷ではマギー。こちらはマリーよ」
「日本人・・・ですよね?」
 ええ、とマーガレットは頷く。
「ここのルールなの。みんなが話しやすいように名前を作るのよ。もっとも元々マーガレットは本名ですし。海外で生れたの」
 へ~、と悩みも忘れてこのミステリアスな屋敷の主人を見つめている。
「今日のフレーバーティーはベルガモットをいれたアーグルレイより、もっと爽やかなレモンとみかんを入れたアイスティーなの。それを楽しんでね」
 にっこり、とマーガレットが微笑む。こっちの方が天使の微笑みだと言いたいが、ここはマーガレットの流れで行こうと思う万里有である。
「あ。おいしい」
 女子高生が一口飲んで言う。
「でしょう? 紅茶はいくらでもあるから何杯飲んでも大丈夫よ」
 万里有が言いながらグラスを口に運ぶ。流石、財閥令嬢というところか。その仕草は優美である。しばらく、心地よい静寂が流れる。万里有はこの時間が一番安らいでいた。不意にマーガレットが女子高生を見た。
「お名前は?」
「あ。青木晴美です」
「そんなに緊張しなくても大丈夫。その小さな胸を痛めている事は何かしら?」
 マーガレットがカードデッキを出してくる。
「これは人生を旅に例えたオラクルカード。祖母の遺品なの。これであなたの背中をほんの少し押すことができるわ」
 実は、と晴美が話し出す。生徒会に尊敬するな先輩がいて生徒会に自分も入ってみたいと思っているが、会長に立候補するのか、他の役員に立候補するべきなのか迷っている、らしい。その尊敬する立派な先輩の手助けをしたい、と晴美は言った。
「では、カードで見てみましょうね」
 カードのシャッフルが始まる。そしていつものように弧を描いて並べる。
「気になるカードはあるかしら? カードに触れずに気になるカードを教えて」
 晴美は万里有がそうだったようにカードをガン見する。なかなか決まらなかったが、ようやく一枚のカードの所で指が止まった。
「これ。これをお願いします」
 カードをめくる。「Wise leader」とあった。
「賢い指導者、ね。あなたは世を照らす灯台。あなたには生まれつきのリーダーの素質があるわ。生徒会長に立候補しても無事その役目を果たすでしょう。でも忘れないで。いつも自分の人生は自分で決めると。他人に決めさせないで。あなたはあなたの人生に主導権を握っていいの。他人をなだめてしてまですることはないわ。生徒会長でもいいけど、自分の心に素直になってその尊敬する先輩を支えてもいいのよ」
 マーガレットの柔らかい声を聞いていた晴美は自然と明るい表情になっていた。自分の気持ちが固まったようだ。
「マギーさん。ありがとう。自分の気持ちがわかりました。生徒会長に立候補します。尊敬する先輩を助けるのに側に着いていてもいいけど、導いていきたい。これって傲慢な考えなの?」
「いえ、立派な指導者の心よ」
「そうね。あなたならちゃんと導けるわ。私も生徒会にいたことがあったけど、楽しかったわ。いつも生徒会室で馬鹿らしいことして副会長がリーダーだったわ。懐かしいわね。あの頃が」
 万里有の瞳が遠くを見る。こんな跡取り騒動に巻き込まれていなければもっと楽しい学生人生を送っていただろうに。これも生まれ育った環境がなせる技か。マーガレットはからになっていた万里有のグラスに紅茶をそそぐ。
「マギー、ありがとう。いいわね。学生って」
「あなたもまだ大学生でしょ? 卒論書かなきゃいけないって言っていたじゃないの」
「そうなのよね。もうゼミにはいったから帰りが遅くなるかも。図書館で資料を集めるから。本屋も通わないと言い資料を見つけられないし。でも、ここの生活が好きだから、卒業できなくてもいいわ」
「マリー!」
「はいはい。ちゃんと、卒業しますよー。晴美ちゃん、紅茶はいかが?」
「いただきます」
「もう。すぐ矛先をかえる」
 マーガレットが珍しく頬を膨らませる。それを万里有は指でつついて人間風船をやぶる。仲の良い二人に晴美は姉妹かと思う。
「姉妹なんですか? マギーとマリーは」
 いいえ、と万里有は言う。
「居候人なの。ここでリーディングを覚えて私もマギーみたいになりたいの」
「そうなんですね。でも、お二人ともそっくり」
「何が?」
 言われた当人二人が同時に言う。
「ほら、今のハモリ具合もだし、雰囲気も似てますし。顔はそっくりじゃないけど、やっぱ似てる」
 そう言ってころころ、笑う。悩み解消で笑ってくれるのはいいのだが、やはり、箸が転げても笑う年頃なのか。本人達はまったく違うと感じている故に不思議である。
 そこへ、先日の客、晴乃の声がした。
「晴美!」
「おねぇちゃん!」
 晴美が晴乃に近づく。
「そっちが姉妹?!」
 万里有が驚く。
「よく似た雰囲気はそちらですね」
 マーガレットも頷く。
「晴美、悩み事あったの?」
 晴乃が優しく問う。
「もう解決したわ。お姉ちゃんの方が大変じゃないの?」
「答えは出たから」
「そう」
「ねぇ、晴乃を見つけたの私なんだけど」
 一姫がそれとなく匂わせて言う。
 わかりました、と言ってマーガレットが立ち上がる。
「マギー?」
「グラスをもってくるわ。お茶会ね」
「やった!」
 一姫が子供のように喜んでいる。いつも邪魔扱いしていた事が一姫は気にかかっていたのか、と万里有は思う。神経が図太いと思っていたが、以外に繊細なのかもしれない。今頃思っても過去の行動は消えないが。早く、大河と結ばれてくれて欲しいものである。そうすれば、片方は片付く。征希ムコ養子計画を発動し始めた万里有だった。

 でも、やっぱり、駆け落ちよねー。

ここから先は

334字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?