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オリジナル短編小説 【自分の道を選ぶ旅人〜小さな旅人シリーズ01〜】

作:羽柴花蓮
ココナラ:https://coconala.com/users/3192051

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 万里有は迷っていた。この小さな占い館に入るかどうか。料金体系も何をするのも書いていない。ただ、「あなたの道を後押しします」とだけ書かれていた。
 万里有はいま、人生の岐路に立っていた。どっちの道を選べばわからず、それ以外の道も見当たらず、自分がなかった。この道を後押しする、という言葉に非常に惹かれたのだ。
「どうかしましたか?」
 後ろから優しい柔らかい声がして万里有は飛び上がりそうになった。
「ああ。道に迷われているのですね。ちょっとお茶しながらお話ししましょう」
 さぁ、と女性は扉を開ける。
「あの、お金・・・」
「いりませんよ。ただの道楽ですから」
 ほっとした表情が浮かんでいるのを見て女性はにっこり笑う。
「とって食べるわけではありません。ただのお話し相手になって頂ければそれでいいのです」
 この女性は何者だろうか。お金も取らず、人の後押しばかりしていては人生の無駄ではないか。お金持ちの令嬢なのか?

「ああ。私の名前はマーガレット。気軽にマギーと呼んで下さい」
「外国の方なのですか?」
「いえ、日本人ですが、出身が海外でマーガレットと名付けられたのです。恋占いが上手になるように、と。占い師は父や祖父で、私はただ、その血を引いているだけなんです。さぁ、紅茶を入れますから、どうぞ中へ」
「はぁ・・・」
 いささかスケールの大きい話に恐縮しながら中に入る。占い一族というのはあるんだ、と万里有は思う。
 館は温かみのある可愛らしいデザインだった。テディ・ベアのような甘味のある屋敷ではないが、マーガレットの温厚な性格を引き継いだような館だった。
「祖母の別荘だったのです。私はマーガレットと名付けられましたが、父や祖父のような力はなく、祖母と二人でここに住んでいました。数年前に祖母が亡くなってからは一人で住んでいるのです。広すぎるので譲り渡そうかとも思っているのですが・・・。と中庭で待っていて下さい。今日は日差しのいい日ですから」
 人生の岐路を後押ししてもらうには格好の船出日和だ。春の柔らかな日差しである。万里有はその中庭の白いテーブルの前にちょこん、と座る。なんだかお姫様にでもなった気分だ。
「それならもっと高飛車じゃないとね」
 不思議の国のアリスに出てくるような女王みたいに。
「確か、クビをはねなさいとか言うのよ」
 一人でぶつぶつ言っているとマーガレットが銀のお盆にティーセットをもってくる。重そうなので慌てて行って手を支える。
「ありがとうございます。この陶器類は重くて」
「これ、アンティークっていうやつですか?」
「さぁ。祖母がアンティーク屋さんの奥さんと友人で譲ってもらったとうれしそうに話していましたが」
 げげ。マイセンとか言うんじゃないでしょうね。
「マイ・・・なんとかって祖母は言ってましたが」
 思わずその語句にお盆を放り投げそうになった万里有である。
 気を失いそうなほど心臓に悪いものがここには山ほどある。さっさと帰りたい、と思うもマーガレットを一人に出来ないような気がしてきた。どうやって生活してきたのだろう。この性格で。
「さぁ、座って紅茶を楽しみましょう。今日は日差しのある春にはうってつけのアールグレイのアイスティーです。これならびっくりしないでしょう?」
 
 ぎく。

 万里有には渇いた笑いしかでない。全部お見通しってことか。
「全部解るわけではありません。ただ、万里有さんはお名前のように聖なる方なのか思考が飛んでくるんです」

 どーして名前がわかるのー!?

 最大限の心の叫びがとんで行く。

「あ、鞄に万里有とネームを打ち込んだキーホルダーがあるので」
「そっか」

 そっか、じゃない!

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