2024/03/13

今日の小学生の授業で扱った文章が面白かった。

モノを売る方でも、人が一度買ったもので満足してし まって、もう新しいモノを欲しがらないようでは困る。売り上げを伸ばすためには、買い手をいつも欲求不満、 つまりあれが欲しい、これが欲しいという欲求が十分に満たされていない状態にしておかなければならない。買い手に「あれを買いなさい」、「これが必要です」という広告を流し続けている売り手は、(つまり)、人々に満足や喜びを供給しているように見えて、実は欲求不満をこそばらまいているのだ。

辻 信一「ゆっくりでいいんだよ

ちなみに問題はこの()の中を埋めよ、という問題。
資本主義のエグい仕組みを平易な言葉で説明している素晴らしい文章だと思う。とはいえ、小学生なので一読してすぐに意味がわかるわけではない。なのでその子の中で意味がストンと腹落ちするまでじっくり一緒に読む。
5年生の舞さん(仮名)とこの文章を一緒に読んで、最初に出てきた感想は「意味がわからない」だった。
「売り上げを伸ばすために、ってあるでしょ。どういう意味?」
「お金を稼ぐってこと?」
「そう。お金を稼ぐために、人々の欲求が十分に満たされていない状態にしておかなければならない、ってつまりどういうこと?」
「え、わっる。そうやってお金を稼いでるってこと?そんな悪い人ばっかりなの?最悪。」
「それを資本主義って言うんだよ。欲しくもないのに高機能なカメラ付きの新しいスマホを買っちゃうでしょ。」
「本当に最悪。でもお母さんはそういう悪い人に騙されないために3年は買い替えないようにしてるの。」
いやそれは分割で払ってるから買い替えられないだけだよ、という言葉をグッと堪えてそうなんだね、とだけ答えた。
そもそも塾だって、受験という不安を煽ることで授業料をもらっている側面がある。舞さん君だって騙されている可能性はあるんだよ。

「だから私はお母さんから古いスマホもらったの。iPhone7か8。ちなみに先生のはiPhone15?」
「いや、これはiPhone14が出る1ヶ月前に定価で買ったiPhone13」
「先生かわいそう」
余計なお世話すぎる。

小学5年生でこの文章を読んで、資本主義的欲望のエグさをしっかり読み取れるのはすごいなと思うとともに、自分はこういう瞬間のために講師を続けているな、と思う。
学校の成績がどうとか、受験を通じて成長できたとか、本当はどうでもいい。世界の仕組みを一つ一つ紐解いていく。その過程で、世界の中での自分の存在の足場を作っていく。勉強というのはそういう営みだと思う。その営みの現場に居合わせられることの価値は、何物にも代え難い。

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