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古川雄輝主役「室温〜夜の音楽〜」ホラーで純愛、夏にぴったり!

古川雄輝が主役の舞台「室温〜夜の音楽〜」を見ました。忘れないうちにと思っているうちに東京公演が終わり、兵庫公演の始まる前にと思っているうちに兵庫公演も終わり、、、。8月が終わる前に、そして上映中の古川雄輝主演映画「ねこ物件」を見る前に、ここに書きとめます!


ケラリーノ・サンドロヴィッチによるホラー・コメディ作品

人間が潜在的に秘めた善と悪、正気と狂気の相反する感情を、恐怖と笑いに織り込んだホラー・コメディ戯曲で、第五回鶴屋南北戯曲賞を受賞した作品です。ケラリーノ・サンドロヴィッチは演劇界の第一線を走り続けていて、東急文化村でも彼の作品が上演される(主役は瀬戸康史)と雑誌で見ました。
2001年の初演はサンドロヴィッチ自身が演出も手がけ、音楽はたまが担当したそうです(たま好きだったのに知らなかった)。
この度は古川雄輝が主演、数々の話題作を世に送り出した奇才・河原雅彦の手による新演出版、そして音楽は浜野さんの在日ファンクで上演されました。

主役ぽくないようで後でじわる古川くんの主役

主役なのに、出てこないんですよ、最初。
というか、舞台装置やバンド演奏、キナリ父やそのファン、警察官、タクシーの運転手、たちの話に圧倒され、舞台があったまったところで、主役登場、なのです。

登場人物それぞれがディープでダークなストーリーを持っていて、さらに在日ファンクの演奏が入り、主役がぶっとびそうな内容です。

でも、核心の部分は、間宮のストーリーであり、古川くんが演じたからこそ成立したのではないかと思います。

登場人物を変な順に並べたら、間宮は人殺しだけど、一番最後になっちゃうような、まともな人なのではないでしょうか、あの中では。


ホラー・コメディなのに純愛

焼け崩れる屋敷の中で、赤いドレスを着たサオリと間宮が抱き合うシーンが盛り上がりました。

サオリを抱きしめる古川くんの腕や大きな手がセクシーというか、美しくて。

間宮たちが犯した殺人事件は凶悪なんだけど、純愛だなあと思わせるシーンでした。


一軒家に濃い奴らが閉じ込められた暑苦しさよ

夏。夜に嵐で出るに出られず、しかも停電になって暗いだけじゃなく冷房も使えなくなってしまって。さぞや暑いでしょうねえ。

「室温」とはこの暑苦しさのことを指しているのでしょうか。

極限状態みたいな、暑さによる狂気。何が起きてもおかしくないという感じ?

でも実際のところ、客席は涼しくて快適で、クールに鑑賞しました。

そういうところも今回の演出ポイントだったのですよね。

とすると、暑苦しさと同時に、ぞっとする寒々しさが漂っている作品、といえるかもしれません。

狭い芝居小屋にチョー満員、うだる熱さの中で観るってのもなんかいいなと思ったのですが(完全にノスタルジー)、まあ密は避けなければならないですし。

今になって思ったのですけど、アーカイブ配信のとき、1回くらいは冷房なしで観ればよかったですか?


演奏者が舞台に現れて演奏するところにゾクゾク

舞台は2層構造で、バンド演奏は基本、上の部分で展開されます。それが後半、警官とキナリが追いかけっこする前後だったと思うのですが、1階部分のいろんなところから演奏者が出てきながら演奏するのです。それがとてもゾクゾクでした。

ミュージカル映画「オール・ザット・ジャズ」で、幻の美女が現れるたびに、演出家に徐々に近づいてくる、それは演出家に近づく死を象徴している、というようなことを思い出しました。

あるいは、ビョーク主演の映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」で突然音楽が始まるみたいな。

芝居と音楽の絶妙な融合感を味わいました。


幽霊がもっと出てきたらよかったのに

近所の死んだばかりのおじいさんの霊、殺された小学生、霊が見えるタクシー運転手、ジェントルさんなどの話が盛り込まれていました。

でも、幽霊より、人間のほうが怖かった。さすがホラー・コメディです。

もっと幽霊が出てきたらよかったのにと思いました。

サオリと間宮の純愛ラストを裏付けるべく、サオリの出番がもう少しあったらうれしかった気がします。ちょっとダサいですか?


舞台は多層構造

室温の舞台装置が素敵でした。

前述したとおり、2層構造なんですが、透かして使うことも映像を映すこともできる紗の幕が上がると3層とも言えるような多層構造で。

間宮やキナリがいる1階グランドフロアが「現世」、バンドが演奏したり、ジェントルさんが出てくる2階が、成仏できない人が滞留する「あの世とこの世の間」、上がっているときの紗の幕の層が「あの世」ってふうに思いました。

最後は学生服姿の間宮とサオリのにこやかな姿が幕に映し出されました。


劇場、リアル配信、アーカイブそれぞれの楽しさ

「夜の音楽」だから、やっぱりほんとは夜に見たかった。そして、そのあとはどこか居酒屋でも入って、「面白かったねえ」とか話したかった。昔ふうの芝居鑑賞のお楽しみです。

でも今回はマチネ、リアル配信、アーカイブ配信にしてみました。それぞれを体験できてよかったです。

舞台は生身の役者さん、舞台空間、舞台と席の距離感などが感じられてやっぱりいいです。

久しぶりの舞台鑑賞だったので、舞台上でタバコを吸ったり、燭台に火を灯しているのに驚きました。変だけど、この演出はなんかリアルでどきどきしました。

火の魔力ですね。

リアル配信は家にいながらにして舞台を観られてすっごい便利だと思いました。それに古川くんがよく見える!

アーカイブ配信はセリフが聞き取れないところとか、気に入ったところを何度もリピートできて素晴らしいです。


「クラクションをパッパカパッパカ」

古川くん間宮で素敵だったのはラストの抱擁シーンですが、2幕めの最初、友達、じゃない、囚人?仲間のアネキの話をするところも印象深かったです。タバコをスパスパ吸いながら、調子に乗ってジェスチャーも大ぶりに「後ろの車がクラクションをパッパカパッパカ鳴らして~」とやるところ。

私も「パッパカパッパカ」使いたいです。

1幕めの長井短さんとのシーン、話を聞かれたと思い、あせって電話を切っちゃうところもかわいかったです。マンガちっくで楽しかった。

   ☆   ☆   ☆

舞台で古川くんが演じるのを見ることができてよかったです。また舞台やってほしいです。

また本作品を見て、サンドロヴィッチさんのことも知ったので、機会があればまた見たいと思います。

「室温~夜の音楽~」は夏の夜の出来事であり、夏の夜の出来事の芝居といえば、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」です。当然、意識して作られているのではないかと思うのです。これを機会に読んでみたいと思います。


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