私小説【短編・男の出産】

私が変わるきっかけ、それはいつも男だった。男が私を生み育てた。そのことを私は目ざとく見つけては寄生するように帯同していった。もともとドーリスとしての才能は得て生まれてきた。その才能を生かすことは無意識にも備わっていた。最初に見たものを親と思うことと同じように、だれにも教えられずにこうして私は男に寄生しドーリスとして思うままにふるまい育てられることを喜びとしていった。

ドーリスを知っているだろうか。ある種のニンフェットでありながら、その寄生媒体の死はすなわち自らの死となる、純粋無垢でありながら倒錯的な女のことである。

ドーリスが生き続けることで気を付けるべきは、寄生媒体が死ぬより先に次の寄生媒体をみつけておくことだ。寄生を繰り返し、生まれ死に復活しドーリスは美しさと心を身に着けていく。

決して楽しい日々ではない。それでもそうでないと私は生きていけない。ドーリスだから。私は生涯ドーリスという幼児なのだ。肉食獣をうらやましがる草食獣のように、肉食獣がうらやましがる雑食の獣のように。私はないものねだりをしながらもそれしか食べられない自分を次第に受容していった。その戦いはいつも困難だった。その自分を自分だと受け入れるまでは長い年月がかかった。

自分が何を食べるかをどこかにあてはめてしまったほうが属性を知るほうが人は生きやすい。私は普通に憧れ、その種族に属するために様々なものを食べた。でもうまいものではなかった。

果物も甘くはなかったし、肉もうま味を感じられなった。一緒くたに食べても見た。雑穀と共に。それでもうまくはたかった。吐き出してしまったこともあった。どれだけ叱られたかはわからない。笑われたかはわからない。自分の胃袋を消化酵素を呪った。

様々な食べ物の中で一番自分の消化酵素が適しており、体が健やかになったもの、それが男だった。私の消化酵素はドーリスであるから、難なく咀嚼することができた。

人は食べ物で体を作り上げる。そのことを私たちは生まれたときから無意識にも学んでいる。食の好みは成長過程と共に変わっていく。そんなあたりまえの、ありふれた日常のなかで私はいつも食べたいものがわからなかった。

いよいよ肥えたこの体が何を生み出すか。それはきっとこんなふうに、きらめきとささやきのような、瞬間的な閃光だろう。

被弾してほしい、多くの男の人に。そうして私を血眼になって探してほしい。私はきっとぞっとするほどの、あなた好みの美しさをまとながらあなたを抱いてしまうだろう。なぜなら、私はドーリスであり、あなたが私を生み育てるからだ。

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