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バックライトtoオールライト:矢井田瞳「オールライト」全曲レコメンド

ヤイコ(矢井田瞳さん)が昔から好きで、これまで音源を聴いてきたし、たぶんライヴにもかなり行っている方だと思う。

そして最近、9/7にニューアルバム「オールライト」がリリースされたので、アルバムのレビューというか、1ファンなりのレコメンド(ファン記事)を書きたいと思う。

…で、アイデアとしてヤイコの過去の作品や活動から全曲を照らしてみようかと。

01.さらりさら

2022年の井村屋「あずきバー」のCMソングとして採用されている。

「さらりさら」という風を連想する擬音がタイトルになっていて爽やかなオープニング。軽やかで明るく、リラックスできる曲想からは『Chapter02』『マワルソラ』からはじまる2005年のアルバム「Here today-gone Tomorrow」 のような印象もある。

曲はじまりは上物の音数多くなく、主にドラムスとベースのシンプルなリズムで進んでいく。部分部分では短い裏メロや和音がさりげなく添えられていて、朝露に光が反射するような短いピアノのイントロが、曲の中で度々リフレインするのが象徴的。鍵盤やギター、コーラスも曲の進行に寄り添うようなアレンジであるが、最後はそれぞれの輪郭が鮮明化したバンドアンサンブルになっていて、さわやか/自然で開かれている導入ながら、終わりには充実感があり、次の曲への期待に繋がる。

02.オールライト

アルバムタイトルの曲。とはいえ、こちらは「励まし」のニュアンスで送られているタイトルであるように思う。落ち着きのあるアコースティックな響きのメロはじまりに対して、サビでは密度感のある響きの充実が美しい。特にギターパートはエフェクトのかかり方、ドラムスは力強くシンバル多めなど、高揚感も増してあり対照的。

音楽家として20年を越えて、たくさんの曲想や歌詞を扱ってきているヤイコではあるが、「元気が出るから」「応援歌として」聞いているファンの存在は多いと思うし、ファン以外のマスの視点でも、そのパブリックイメージを求められている機会は度々あったと思う。

アルバム前作「Sharing」のうち、『あなたのSTORY』では、産経新聞のプロジェクトにより、SNSを通じた募集があり、その歌詞は一般の方々から寄せられたストーリーの断片を用いて書かれている。

前々作であり、セルフカヴァー、リアレンジの要素もあるアルバム「KEEP GOING」収録の『Cheer for you』は、2019年9月23日に発表された東京都 TEAM BEYONDによる 障がい者スポーツ普及啓発映像「FIND YOUR HERO」の新曲として提供されている。

過去にも「励まし」を歌った曲として、他に思いつくタイトルは、 『DON'T CRY』『MY LIFE IS MY MESSAGE~はじまりの靴音~』『Simple is Best』『SURVIVE-生き残れ-』『siren』『STARTLiNE』『Go my way』『i can fly』『Dizzy Dive』『Buzzstyle』『贅沢な世界』『Life's Like A Love Song』など、明るい/力強い/勇気が出る/前向きな印象、なぐさめられる/落ち着かせられる/気持ちが晴れるような曲想や、歌詞に直接的なメッセージ性のある曲が多い。

CMや番組のタイアップ、提供曲となる曲が多い理由の一つとして、このような「誰かの励ましになる」要素は確実にあると思う。

たとえば、2006年リリース「IT'A NEW DAY」収録の『STARTLiNE』では、イントロからの軽快でアッパーなギターリフ、『Go my way』では、全体的にアップテンポで前進していく。どちらの歌詞にも、ある種の挫折や停滞、ためらいや戸惑いが書かれてはいるが、最終的には進んでいく決意が歌われる。『オールライト』しかり。

『Go my way』は高高-takataka-とのアンサンブルでリアレンジされて2020年にもリリースされており、MVも新しいものがある。

ところで、ここまで書いてきたイメージとは別に、筆者は『オールライト』「panodrama」収録の『よりどころ』的な高揚を見出していてかなり気に入っている。メロ~サビにかけて音圧や音数が密かに高まっていって、実はすごくエモい末広がりな曲になってるとこ。

アルバム「オールライト」の流れの中では、後半の楽曲の方がわかりやすく攻めてるように聞こえるけど、「励まし」や「癒し」「元気になる」要素とは別に、ライヴで楽しみな曲だと思う。

『オールライト』はアルバム曲であり、MVなどはなく、またタイアップ曲のような位置づけでもないものの、ヤイコに備わっている音楽性を端的に示す1曲だと思える。

03.花のような君に

女性的な恋の歌として、yuiの『CHE.R.RY』のような曲を意識しているのではと想像。

いかにもな煽りドラムスはじまりや、弾き語りしやすそうに聞こえるアコギのリフとメロディーラインもとてもポップ。そしてエフェクト強めのヴォーカルやコーラスなども多彩に取り入れていると思う。

キラキラした、あるいはキュートな印象のヤイコの曲はたとえば、『Girl's Talk』『もしものうた』『ドキドキのつぼみ』『I Love Youの形』『恋の魔法瓶』などがあるが、どちらかと言えば『B'coz I Love You』『My Sweet Darlin'』『アンダンテ』のようにパワフルで思想的には極端/シックな方向に振り切れているもの、あるいは、『一人ジェンガ』のような独特な気だるさ、『この恋はもうしまってしまおう』の悲哀といった楽曲のイメージの方が先行していて、同時代/同年代のミュージシャンであればaiko『ボーイフレンド』(2000年)や大塚愛『さくらんぼ』(2003年)的な意味でのポップなイメージはあまり持たれてこなかったようにも思う。

2000年にリリースされたaiko『ボーイフレンド』と2003年にリリースされた大塚愛『さくらんぼ』

音楽の面白さや魅力は、ひとえにそのフィクション(虚構性)にあるように思う。ヤイコやリスナーの実際の年齢や恋愛事情、ライフスタイルや思想を越えて、歌や曲を通じて共有・共感されるイメージは、ある時にはなされていなかったものであったとしても、現在であればこそ、かえって響くものとして生み出され、改めて愛されることがあるように思う。

yuiのように自分の影響を受けつつ、異なるイメージや評価を持ったミュージシャンへのリスペクトと、逆にヤイコが受けた影響、そのように築かれた自身へのアンサーとして、ラブソング形式の「今」「現在」を聞くことができるのではないだろうか。

またこのような視点から、アルバム「オールライト」全ての楽曲には、ヤイコなりのユーモアや意趣返しの要素を見出だすことができる作品だとも思っている。

yuiとは2018年にプロデューサーの武部聡志さんのピアノ伴奏で『LOOK BACK AGAIN』を共演していたり、最近でも弾き語りライヴツアー【Guitar To Uta】の福岡公演で『CHE.R.RY』をカヴァーしている。

『花のような君に』は主に関西圏において、創建による「ルナシティ青葉はつが野」のTVCMに採用されている。

04.ずっとそばで見守っているよ

こちらは2021年の井村屋「あずきバー」のCMソングとして採用されている。『さらりさら』と併せて2年連続。

ギターロック要素が強まる一曲で、デビュー以来ソロ名義でありつつ、多くのレコーディングやライヴを(ロック)バンドのアンサンブルと共に実践してきたし、アルバム「AIR/COOK/SKY」「YAIKO ROCKS」のアナグラムであり、そのタイトルを冠したツアーでは地方都市も含めた50公演をやっていたりと、単に「そういう時代だった」とか「ヤイコは当時売れていて、今より人気があった」といった話では片付かない、ロックなスタイル・スピリットは今も健在だと思う。

とはいえ、間奏後からエンディングにかけては、ツリーチャイム(ウィンドチャイム/バーチャイム)と思われるパーカッションが使われていおり、全体像としてのバンドサウンドとは質感の違う、一瞬はっとするような時間を演出していたりと、一つの曲の中でのストーリーや気分に展開を与えるアイデアも。

今回アルバムレコーディングに参加している西川進(Gt.)、鶴谷崇(Key.)、FIRE(Ba.)、水野雅昭(Dr.)らとは、既に予定されているアルバムリリースツアー「オールライト」にも同メンバーで臨むことが発言(告知)されている。レコーディング作品のリリースからライヴ演奏へと、地続きなモチベーションの高さとパフォーマンスが期待できる。


05.オンナジコトノクリカエシ

ヒステリックなシンセでノイジーに始まるオープニング。どことなく、インスタライヴでAdoの『うっせぇわ』を(サビだけ)カヴァーしていたことを思い出す。

MVがリリックビデオであることやアニメ調のイラストでデザインされたものであること、ハードロックやパンク、ヘヴィメタル風の様式で作られており、サビが「オンナジコトノクリカエシ」であり、「うっせぇわ」と同じくシンプルで覚えやすく、耳に残ること。

歌詞こそ『うっせぇわ』ほど攻撃的でないものの、サイケデリックで、全体的にちょっと変なテンションの高揚といった類似を挙げられる。たぶん今回のこの曲は割と意識して寄せてる部分もあるのではとも思う。

ヤイコは時折【Instagram】で弾き語りなどのライヴをやることがある。(アーカイブスが残されているわけではないが、)Adoの『うっせぇわ』もカヴァーしていたりと、現在までに共演や交流はなかったとしても、他ミュージシャンからの影響や共感を示している機会も多い。

06.shadow/alone

ピアノロックの横ノリ裏メロの並走と、ギターロックの縦ノリ刻み感覚の同居が心地よい一曲。アルバムの中では憂愁、ブルーな要素が強い曲想ながらも、内には情熱が籠っている。

『月を見ていた』『37℃』と近いシリアスな世界観は、これまた重要なヤイコの一面で、影のある、ダウナーな部分にもリアリティーがあるからこそ、明るさやポップな側面が表裏一体で説得力を持つように思う。

そしてヤイコには「ギター」のイメージが大きいと思うが、作曲段階ではピアノ作曲と思われるものや、ロックバンド的な曲だがピアノアレンジが印象的な曲もかなり多い。

『My Sweet Darlin'』と双璧をなす」と言っても過言でない名曲『Over The Distance』は、ピアノリフが美しいし、『未完成のメロディ』『Life's like A Love Song』『この恋はもうしまってしまおう』『雨の降る街』なども基本的にはピアノありきの曲のように思う。

映画音楽の作曲家でもある岩代太郎のピアノ伴奏や、東京フィルのオケをバックにソロで歌えるのは、そもそも多声を聞き分けながら自然に歌えるからだと思うし、やはり歌手への楽曲提供やテレビの音楽番組、ジャズ畑でも活躍されてる塩谷哲をはじめとする編成での、クリックやドラムスにあたるリズム隊のいない編成(ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、コントラバス)で歌えるのも、そういった一面に由来しているように思う。

岩代太郎との共著としてのクレジットで混声二部合唱のための『南風の花』が楽譜出版されている(こういうのがあるとは知らなかった…)。2016年に開催された岩代太郎生誕50周年記念コンサートでは、東京フィルをバックにヤイコが歌う機会を聞くことができて感無量だったし、岩代さんピアノ伴奏の『Over The Distance』という、それもまたレアなシーンさえあった。2020年には藤原いくろう指揮・音楽監修のもと、大阪交響楽団との共演も実現しているようだ。

過去にも3拍子にアレンジされた『硝子の少年』(作詞:松本隆、作曲:山下達郎)や、塩谷さんが作曲されて岩崎宏美さんに提供されている『窓』のカヴァーなど、ごく限定的な機会であるものの、かなり幅のある曲想を扱っている。

07.Everybody needs a smile

「ヤイコといえば『My Sweet Darlin'』」という人はきっと多いと思うし、今でもライヴの定番曲だ。最近の記事で「デタラメな英語」であると語っているが、歌/歌詞は多くの場合において、文法としての正しさよりもメロディとの相性、ハマり(気持ち良さ)が重要だと思う。

きっと『I Like』とか、もしかすると『チェイン』(この英語訳はクレジットあり)や、フランス語を使った『馬と人参』にもそういうところ(メロディとの相性優先)はあるのかもしれないなと思う。

1stアルバム「daiya-monde」収録の『I Like』『My Sweet Darlin'』は英語歌詞始だからこそのメロディーラインが印象的な曲であり、『I Like』『How?』は、当時のヤイコが英国で活躍していたことも示唆するかのように「UK mix」として収録されている。「AIR/COOK/SKY」収録の『チェイン』も英語歌詞はじまりで、日本語歌詞と交互に入れ替わるメロディーラインの発音や質感、質量のニュアンスがユニークかつ美しい。『馬と人参』は当時シングルリリースされた『モノクロレター』のいわゆるカップリング曲であるが、中間部にフランス語が採用されており、ライヴでも何度かセットリスト入りするなどこれもヤイコらしいニュアンスの曲だと思う。

で、今回すべて英語歌詞で作られた『Everybody needs a smile』は、ECCジュニアのCMソングとして提供されているということだから、割と英語の精度(ネイティブが聞いても伝わる、正確であること)についてはハードルあったのではないかと思ったりする。

そしてその観点からは、ヤイコがこれまで英語歌詞でカヴァーしてきたたくさんの曲が思い出される。

2005年、キリンビール「やわらか」のCMとしてのみ公開(テレビ放送)されていた『You Are My Sunshine』のカヴァー。オリジナルはJimmie Davis。1939年にリリースされたヒット曲。すべて英語歌詞。

『Nothing Compares 2 You』は2016年に亡くなったPrinceの作品。元来、アメリカで多くのバンド(ミュージシャン)にカヴァーされてきた楽曲。1990年にSinéad O'Connor(シネイド・オコナー)によるカヴァーがヒットしたのが有名曲となる発端のようだが、ヤイコ版はピアノがリードするバラード感強めのアレンジとなっている。2011年にリリースされたベスト盤にも収録されている。(すべて英語歌詞)

fleming&john『I'm So Small』のカヴァーは、デビュー後、初期の頃にライヴで歌われていたものの、音源化されていない。ライヴDVDとして映像化されたものに残っている他、ライヴではごく稀にセット入りすることもあった。小さいながらもパワフルでスクリーミング要素ある曲。デビューしてしばらくは、このようなカヴァー作品からヤイコのイメージが作られていた部分も多くあったのではと思う。(すべて英語歌詞)

ヤイコは影響を受けたミュージシャンに洋楽ミュージシャンも多く挙げているし、フランス留学やイギリスへ度々渡英していたから、ネイティブな英語(外国語)の発音に触れる機会を多く経験してきている人だと思う。

また、はじめて曲作りをしたのがアラニス・モリセットの『Hand In My Pocket』(『Head Over Feet』だっけ?)を弾き語りしてたらいきなり違うメロディーが浮かんだというのだから、英語歌詞はある意味でヤイコのルーツであるとこじつけることもできる。

そして、ごく短い期間の話ではあるものの、イギリスではインディーズデビューし、クラブツアーを実現していた来歴もある。

さらに、オリジナルのメロディーラインは保ちつつ、自身が歌うものとして、よりニュアンスを洗練させるかのように、日本語歌詞へと変えてカヴァーをしている曲もいくつかある。他言語の発音や抑揚、イントネーション、細やかなニュアンスの違い、その響きから得られるインスピレーションをより深く(再)解釈/構築し発信するヤイコのスタイルは、音楽家としての個性的な一面であると思う。

Tracy Chapmanの『fast Car』は本来すべて英語歌詞だが、逆に日本語歌詞へ訳してメロディーラインへ落とし込んでいる(シングル『アンダンテ』にカップリング収録)。他にBoo Hewerdineの『BELL BOOK AND CANDLE』カヴァーでは、タイトルにも邦題『ベルと本とキャンドル』をあてている(シングル『一人ジェンガ』にカップリング収録)。どちらの曲もレコーディングもライヴ演奏もある程度の回数行われていて、「ヤイコの曲」と言えるような位置づけかと。

ところで、『Everybody Needs A Smile』の音源には、子供の声で、掛け合いのように英語歌詞を歌うヴォーカルパートが収録されている。

過去のコンサートでは子供(いわゆる未就学児童)も入場可として、公演中子供を静かにさせることができなかったとしてもお母さんや家族が気遣う必要のない環境を提案・実践していたりと(※2014年「昼のオトノハ vol.1 ~おやことやいこ~」と題し、初の試みである "親子で楽しむライブ" を開催した旨が、Yamahaのアーティストページに記載あり。)子供にも参加や体験が可能な催しに積極的な音楽家だと思う。

11月に大阪で開催が予定されているイベントでは、『Everybody Needs A Smile』を一緒に歌う子供の参加も募られている。

08.LOVESiCK

発売から数日アルバムを聴いていて、最初は『駒沢公園』が一番好きかなと思ったけれど、実はこの曲が一番好きかもしれない。

マーチングの雰囲気で行進していく曲。ハーモニカで参加されている倉井夏樹さんの豊かな音色がほんとに素晴らしい。

ライヴでもたくさんのハーモニカを持ち変えて、リアルタイムに多彩な表現をされている。(2021年、ビルボード横浜での公演をライヴ配信で鑑賞することができた。また聞きたいし、次は是非会場で聞きたい。)

音源ならではの多重録音のマジックもあって、まるでヴァイオリンやチェロのアンサンブルが加わっているかのようなハーモニーは、サビではエレキギターのような高揚もあり、リズム隊として裏打ちにもハーモニカが奏でられていたりと、特別に煌めくアレンジとなっている。

他方では、2013年のアルバム「123456」収録の『地平線と君と僕』に似たメロディーラインや歌詞を聞き出すこともでき、特にこの曲は、あてがわれた歌詞とその響き、発声のニュアンスが過去から現在形のモチーフへとアップデートされているような印象を感じる。

『LOVE SiCK』というタイトルは単純に直訳すると「恋患い」だが、自分の曲にも関わらず(であればこそ)「暗い」とか「怖い」と表現している過去曲と比べると、一見、柔らかで幸福感があり、浮足立つような気持ちを前に出した仕上がりになっているように思う。

ビルも道路も世界も一思いに壊れてもいい だってそのほうがあなたを見つけやすいでしょ

『My Sweet Darlin'』から歌詞の一部を抜粋

いつまでもそばにおいてね 死ぬまで好きと言って

『B'coz I Love You』から歌詞の一部を抜粋

に、対して、

君の心にそっと入って 未来ごと盗み出したいな なんてね、馬鹿みたい
君の心にすっと入って 邪魔なもの壊しちゃいたいな なんてね、サイコね

『LOVESiCK』から歌詞の一部を抜粋

破壊的で病んだ想像を、「なんてね、」と妄想で終わらせるあたりが大人なのか、それとも今なお続くサイコ感なのかはさておき、このような部分からも、過去に作った自分の作品に微笑みかけているような想像ができる。可愛いくも聞こえるけど、トランシーで中毒性のある曲。

「Keep Going」にちなんだインタビューでは、『B'coz I Love You』を振り返って「怨念系」と語っているw

09.駒沢公園

この曲は、TBS系列「ひるおび」9月エンディングテーマとして採用されている。

優しさもある曲ではあるが、オルガンのように響き渡る鍵盤には緊張感もあり、将来への期待と不安の両面、そして最も身近でありながら、他者として成長していく存在への眼差し。

駒沢公園は、東京にあるかなり面積の広い公園であるが、ヤイコの生活圏の一つである。9月11日に放送されたニコ生放送では、ドライブで駒沢公園へ行き、短い時間ながら公園を楽しむ様子なども放送された。

関西出身のミュージシャンとして来歴を語られる時期も多かった(今でもルーツであることは間違いない)ヤイコではあるが、今では人生の半分以上を東京で生活していることになると語る場面もあり、東京の地理(場所)の曲名ができることが、ヤイコにとって自然になったのだろうなと思う。(過去の作品の歌詞では、『恋の魔法瓶』に「何度歩いても覚えられない下北沢」といったフレーズがある。)

ところで、アルバム「AIR/COOK/SKY」には『マザー』という曲がある。タイトルだけでなく、歌詞の中にも「マザー(お母さん)」というワードがあって、語りかけるように歌われる。

じっとこらえるの何を言われても そんな自分が今は嫌いでも また道は開ける マザー そう教えてくれた 甘い方へ行かないように

『マザー』から歌詞の一部を抜粋

また同アルバムの『ママとテディ』は、ママとテディベア(ぬいぐるみ)、そして子供との三角関係を、視点を往復しながらパンキッシュかつ哀愁溢れるナンバーとしたもの。

捨てられないの涙ながらに手に入れたはずのテディベア 捨てたらいいの 私笑うまた会える日まで

『ママとテディ』から歌詞の一部を抜粋

ヤイコが尊敬する人には、実際に共演しており、先輩ミュージシャンにあたる山口洋さんや、フランソワーズ・サガン(作家)といった歴史的・社会的に著名な人物と並んで「母」が挙げられている。

『駒沢公園』では、ヤイコは母へ問いかける側から、母として問いかけられる側になっている。

『マザー』『ママとテディ』が直接的に自分の母をモチーフにしているのか、もっと普遍的な「マザー(母)」の概念に由来してあるのかはわからないが、『駒沢公園』はヤイコ自身の娘さんとの体験に由来している。

その意味では、今までで一番パーソナリティーが反映された曲だと思うし、今のヤイコだから表現できるリアリティーに違いない。

10.Speechless

アコギ弾き語り始まり。優しく、シンプルなアンサンブルでエンディングが飾られる。

ヤイコは、ミュージックシーンにおける本人や楽曲の位置づけであるとか、批評的なレビューで語られる機会が少ないと思うし、筆者としてもそれでいいと思う。

ただ、単純に活動歴が長いミュージシャンは、余程のファンでも体系的、あるいは長期の時間軸でその魅力を語るのが難しいし、経年変化の魅力と変わらずある魅力を両立して語るのも難しいことだと思う。

何より、音楽を聴いたりして何か感じたり、豊かさを享受するときに、予備知識のある/ないが必ずしも重要とは限らないと思う。「今」「現在」の話と過去を紐づけられたからといって、それが正しさや本質に迫っているかは別の話だったりもする。

・・・とはいえ、ファンとして筆者なりにオールライトについて書いてみた。

ヤイコはSNSに割と積極的で、Twitterやインスタ、TikTokなどアカウントがあり、それぞれのプラットフォームの特徴を活かして告知やライヴ、ファンとのコミュニケーションをとることも。

2021年のインタビュー記事。20周年にちなんで自身の過去を大きく振り返っている。

ニューアルバム「オールライト」に関連したインタビュー記事。

2020年にファンからの質問へ回答したもの。過去にも似た質問やほぼ同じ問いかけが存在したなとも思うものあれば、活動歴が長いだけにでもこれは「今の答え方」だなと思うような回答もあるし、それだけ幅広い層がヤイコとその音楽へと興味・関心を抱いている。

レコーディング参加メンバーのHP。


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