見出し画像

この世界をあなたに

前置き

VRChatで行われた、第3回VRメモフラワークショップというイベントを題材に執筆した作品となります。

本文

 もう、紅葉も赤く色づく頃。
 いつも通っている学園から帰り、制服を脱いでいつもの黒衣に着替えて街を行く私。どこか、焦点の合わない目をしている私は、旅行代理店のパンフレットを眺めていた。私のいるところはここではないという思いが胸をよぎる。どこか、遠いところに旅立ちたい。どこかに、きっと私を待っている誰かがいる……。

「なーに、辛気くさい表情してるんだよ……もっと、表情出せよ……この俺みたいにさ」
 そんな私に声をかけてくれたのは、違うクラスのうぃーさん。ピンク色の髪をさっとかき上げて前に現れた彼女は、赤い瞳で私を突き刺すように見つめてくる。
「そんなうぃーさんも、カッコよいですよ」
 ただ色だけが違う少女、hanumaさんも私を誘うように近寄ってくる。でも、こんな私が……彼女たちといてよいのだろうか?
「このかわいい俺を見なよ。喜怒哀楽豊かで、他とは違うという特別感……虜になるぞ」
 他とは違うという感触……それは私も感じていた。でも、私の「違う」は劣等感……。こんな輝かしい彼女たちの隣に、私はいられるわけがない……。

「……そうだ、もしよければ、いっしょに行かないか? 透き通る空に、蒼い海。きっと心が楽になるぞ。このチケットを、手にして、な……」
 そんなうぃーさんが私に手渡してくれたのは、世界旅行のチケット。
「もしよかったら、るいざも私たちといっしょに行こう?」
 hanumaさんもいっしょに誘う。恐る恐る手を差し出した私の手には、素晴らしい南の島の景色が書かれたチケットが握られていた。うぃーさんはそのチケットをもぎると、周りの景色は急に変わっていく……。

 私たち3人は、気がつくとチケットに描かれていた南の島に立っていた。波の音は、私の心を洗っていく。いっしょに旅に来たことが、私の心をほぐしていく……。
「……な、外の世界にも、いいものがあるだろ?」
 イタズラ好きそうな目で見つめるうぃーさんの表情は、ホントまぶしかった……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?