かぐやよ、聞いてくれ
前置き
この作品はFM言ノ葉の「第9回 きっとあなたの1400字」という企画に投稿した作品となります。
本文
月からの、声を待っている。
探査機は、着陸に成功した。しかし、太陽電池パネルが、太陽を捉えなかった。バッテリーが切れると、探査機は活動を停止するのだ。そして、実際に、止まった。また日が当たれば、電源は入るかもしれない。その時に、シグナルを送ってみよう。そう思ったときだ。頭の中に、前世の記憶が蘇ったのだ。
私は、とある女性に恋をしていた。あまりにも、美しく、儚かった。月を見上げて悩む君を、私はどうすることもできなかった。そして、望月の夜、君は月に帰っていった。残されたのは、不老不死の薬だ。不老不死は、人類の夢だ。だが、君は、もういない。ただ、それだけが、つらかった。
「かぐやのいないこの世で、生きろというのか……」
私は駿河の高峰で、その薬を焼くように命じた。いつか、彼女の元に、思いが届くと、信じるほか無かった。そして、私はこの世の営みを終えた。次は、何に生まれ変わるのだろうか……。
私は、再び日本に生まれていた。そして、その世界は、夢のような発展を遂げていた。私は勉学に励み、そして宇宙開発の研究者となっていた。彼女の世界を、垣間見るために。
「とうとう、打ち上げですね、御門さん……」
同僚の声に、私は胸が高鳴っていた。これで、彼女に思いを届けられる。
「五、四、三、二、一、リフト・オフ!!」
ロケットは月を目指して飛んでいた。そして、探査機を、月に送り届けた。かぐやは、私の思いを聞き届けてくれるだろうか……。だが、運命の悪戯で、探査機は停止してしまったのだ。しばらくすれば、また日が当たる。その時に、シグナルを送ってみよう。
「かぐやよ、聞いてくれ! 私の声を、聞いてくれ!!」
私は、思わず叫んでいた。頭に、血が上る。彼女に、声が届いてくれれば……。
「かぐや、かぐや!! お願いだ、シグナルよ、届いてくれ!!」
シグナルを送る。探査機からの返信は、まだ無い。
「太陽は、まだか!? 太陽が当たれば、メッセージは、届く!!」
再度、シグナルを送る。まただ。返信は、無い。
「また、この世界を、独りで生きなければならないのか!!」
キーを勢いよく叩いた後、視界が揺らいでいく……。
「み、御門さん!! だれか、救急車を!!」
薄れ行く意識の中で、声を、聞いた。
「これまでに、私のことを思ってくださったのですね……」
そして、私は病院のベッドで、目を覚ました。
「あの時、興奮して失神して……無事でよかったです、御門さん!!」
私は、気を失ってしまったらしい。
「で、どうだったんだ!? 探査機から、返事は……!?」
そして、私は探査計画の成功を知った。探査機から、返信が返ってきたのだ!!
「あの時聞いた声は、かぐやのだったのか……!!」
同僚が、怪訝な顔をして、私を見ている。
「まさか、帝の生まれ変わりだなんて、言わないですよね、御門さん?」
その、まさかだ。だけど、それを言うわけには、いかない。
「さあ、な……だが、無事、メッセージは、届いたんだ。それで、よいんだ……」
あの時わずかな間、私は彼女と語り合っていた。そして、私の思いは、通じなかった。
「そういえば、御門さん、独身ですよね? 彼女の代わりにはならないかもしれませんが、あなたが、好きです……だから……」
真っ赤になりながら、私は首を縦に振った。目の前の彼女は、私を思っていてくれたのだ。その思いを、受け入れようか……。
(終)
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