Tinderで本気で友達を作ろうとしてみた話(恋愛をするとかしないとか)
タイトルの通りである。Tinderのことは皆すでにご存知だと思う。要するにまあまあ悪名高いマッチングアプリである。恋人探しの他にも友達探しなど、他のマッチングアプリよりもフランクに気軽に使えるとされている。どう悪名高いかというと、言ってしまえばセックスしたい人がびっくりするほど集まっているのである。だから「本気で真面目に恋人を探したいならTinderはやめたほうがいい」と言う人も多いし、それは私も概ね同意する。そんなTinderで、本気で友達を探してみることにした。「友達も見つかるよ!」というのがTinderの名目なわけであるが、果たして本当に友達を見つけることはできるのか、身をもって実験してみることにした。別に友達がいなくて困っているわけではない。人数はそれほど多くないかもしれないが、幸い私は良い友達に恵まれている。ただ、これだけ「ヤリモクばっかり」と言われるTinderで本当に良い友達を見つけることができたらそれはすごく面白いことだというような気がしたのだ。せっかくなのでその挑戦の記録を残してみる。
2年だか3年ほど前、Tinderを恋人探しのツールとして使っていた時期があった。もちろん恋愛がしたくてやっていた。他のアプリも使ってみたことがある。しかし最近になってふと、私はあまり恋愛とか性的接触が好きではないのだということに気が付いた。というか薄々気付いていたのだけれど、ようやくそれを認めることができた。恋愛をしなければいけないし、それが「普通の人間」であることだと思い込んでいた。「まだ本当に好きになれる人に出会えていないだけ」だと思っていた。しかし、何がきっかけというのでもないが、別に無理して世間一般で言うところの教科書通りの「恋愛」をしなくても構わないのだという考えがすとんと心の中に落ちてきた。それで、とても楽になった。
アロマンティック、アセクシュアルという言葉はもともと知っていた。でも自分はそうではないと思っていた。今も実際のところ、自分がアロマンティック・アセクシュアルだと確信しているわけではない。恋愛感情とかそれに似た感情がまったくないわけではない。だから今のところ私は、自分のことをバイ/デミロマンティック・デミセクシュアルだと定義している。今のところは。
そういうわけでTinderである。なぜ他のアプリではなくTinderなのかというと、Tinderは、
①同性・異性の両方とマッチングできる。(少なくともシステム上は)
②距離が近い人が優先的に表示される。どれくらいの精度か怪しいが、一応距離でソートできるシステムもある。
③真剣な恋活・婚活だけでなく友達探し(という名目でのセックスフレンド探しの人が多いが)も許されている。
というような特徴がある。withとかpairsで「恋愛する気ないんですけど、友達探してま〜す」とか言ってると、真剣に恋愛しようとしている他のユーザーからしたら「なんだこいつ」となって迷惑極まりない感じがしたので大手のアプリの中で言ったら必然的にTinderになってしまう。
しかしTinderである。既に書いたが、Tinderはセックスしたい人が本当にびっくりするほど集まっている。プロフィールからそれとわかる人はいいのだが厄介なのが「飲み友募集!」とか書いている人で、飲み友募集って書いてあるから飲みながら楽しくおしゃべりできるかと思いきやマッチした途端一言目に「ヤリモクです」と打ってきたりする。了解です、さようなら。「飲み友募集」は字義通りに受け取ってはいけないことを私はTinderで学んだ。
ちなみにこちらはプロフィールに、恋愛目的ではない旨・友達を募集している旨を明記しておく。恋愛目的ではないと明記しているのだから、誰に何と言われようが、「その気がない」ことを後から責められても困ります、という予防線である。それでもとにかくセックスがしたい人はやってくる。中には純粋に私に恋愛の相手として興味があってやってくる方もいただろう。でも私は本当にTinderで恋愛をする気がないので、話しかけてきてくれる人をなるべく丁重にさばいていき、その中で本当にこの人ならば友達になれるかもしれないという人を見つけ出す。目的だけ合致していても、肝心のうまが合わなければどうしようもない。人間の相性というのは難しいもので、ほんの一つの言葉選びでも何か違うなと思うときがある。合っていなかったらしょうがないので、ごめんなさいと思いながらそっとマッチを解除したりする。きっと私以外にも誰か良い相手がいるよ。
話が飛躍するが、結果的に友達、もしくは友達になれそうな人は3人見つかった。1人目は東京で英語の先生をしているイギリス人のGさん。彼は今のところ日本語はほとんど喋れないのでコミュニケーションツールは英語である。先生をやっているからか日本人を相手にしているからか、彼の英語は文面上でも丁寧で読みやすい。ただ見事なブリティッシュ・アクセントはちょっと聴き取りに努力を要する。とても知的で誠実な人だ。2人目はIT関係の仕事をしているSさん。たいへんな読書家で、月に10冊本を読むらしい。私も本が好きだけれどあまり読むのが速くないのでたいして量は読めない。彼の最初の印象は、長めに丁寧に言葉を紡いでくれる人だということだった。インターネット上で人と会うとき、なんとなくだけれどきちんとセンテンスを紡ぐことのできる人は信頼が置ける人の割合が高い気がする。3人目は美大出身で、エンジニアをしていたけれど辞めてクリエイティブの仕事をするために今はアルバイトをしながらポートフォリオを作っているというTさん。彼はとても陽気で明るい人だ。会って飲んだときになぜかMBTIの話題になって、ネット上で有名な心理テストをその場でやってもらったのだが、「これが本物の陽キャの思考か…!」と内心慄いた。私はあまり陽気なタイプではないけれど、彼とは話しやすくてぽんぽん言葉が出てくる。
Sさんとは立川のグリーンスプリングスの噴水の前で缶酎ハイを飲みながらセクシュアリティとか恋愛とかの話をした。同性に惹かれることもあるけれど、同時に恋愛や性的接触があまり好きではないこと。彼は人間同士の関係について、「友達とか恋人と決めるのではなくて、お互いがお互いにとって良い関係を築いていけたらいい」と言った。「セックスするかどうかがそんなに重要なのかな?」と言う私に、「そんなに重要じゃないと思うよ」と言ってくれた。
残念ながら、同性とは出会えていない。体感として、Tinderで女性が女性と出会うのはけっこう難しい。場所にもよると思うがそもそも母数が女性のほうが圧倒的に少ないし、マッチ率もあまり高くない。女性とマッチしようと思ったら表示されるのを女性のみに設定しておいたほうがいいだろう。(それでも男性ほどマッチしないけど)
素敵な3人の友達と会えたのだから、ぼちぼちこの挑戦は成功と言ってもいいかもしれない。セクハラ紛いの発言をしてくるヤバい人がいっぱいいるTinderだけれど、中には良い人もいる。Tinderで友達や恋人を探したいと思っている人は、安全に気をつけながら一度チャレンジしてみるのもありなのではないでしょうか。ただそこそこ不快な思いをすることもあります、正直。変なのは通報しようね。(通報しないでマッチ解除してしまったこともあるので、自戒も込めて。)
最近ネット上で見かけたのだけれど、フィギュアスケートの選手の方がジェンダークィアだと告白したらしい。カミングアウトするかしないかは本当に微妙な問題で、私も特に隠してはいないつもりだけれど、そういうことを常に顔に書いて歩いているわけではないし、なんとなくマジョリティのふりをしてしまうことも多い。マジョリティだと思っていてもあるとき「いや、やっぱりそうじゃないな」と思うことだってある。デミセクシュアルとかアセクシュアルとかも含め、そういう人を定義する言葉が自分に当てはまると感じるかどうかも揺れがある。定義したっていいけど、しなくてもいいのだと思う。ただわたしが、最も心地よい形で生きていけたら。ただあなたとわたしが、最も心地よい関係を模索しながら共生できたらと思う。