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らるらーらるーららるるらーるーらー

頭の中で歌声が鳴り止まなくて、詞のない歌に言葉はかき消されてしまうから、わたしは眠るしかないのだと緩やかに冬に閉じ込められています。

そういえば、冬の海をまだ見ていない。
そうして今日も生かされているのだとわかる。
呼吸は意識すると途端にぎこちなく、それでも冬の中では肺の形までわかるくらいに自分を確かめられている。吐く息が白いと安心するじゃないですか。

南天の実がぽろぽろこぼれて、あ、と声になる前に何もかも手遅れになるのを知ってしまっている今を、誰かが成長だと揶揄するので、惰性で泣いたふりをしました。本当に何もかもが手遅れだと知っているから。

降り積もった真っ白な雪に手を押し付ければ自分の形なんてすぐわかるし、わたしはあなたの形を永遠には覚えていられないし、だからちっとも遠慮なんていらないって、本当はそれだけ言いたかった。
それなのに、いつだって正しさだけを頼りにしてきたから、言い訳みたいじゃん、って口を噤むのが癖になってて、終いには声が掠れる感覚だって忘れてゆく。
春になったら雪は溶けるのだから、跡なんて幾らでも残し合えばよかった。それでもあなたは永遠なんて言葉を今日も容易く囁くのでしょうね。

写真はこの季節のネムノキです。


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