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カバ

カバが好きだ。
カバはアホみたいに呑気な顔をしている。
四足は短く寸胴で、おケツはプリプリで、なんかぬらぬらしていて、ちょっとセクシー担当感もある。

実際のカバはめちゃくちゃデカい。
そして強い。顎の力は1トンに相当する。
縄張り意識が強く、自分の縄張りに入ってきた物はなんであれ噛み殺してしまうくらい神経質だ。
縄張りの中で新たなボスが産まれると、先代ボスの子供は殺される。その辺をうろつくオスを殺すこともある。動物を遊びで殺すこともある。アフリカで人間を最も襲っているのはカバだ。

一応雑食だが、主な食べ物は草。
それなのに平気で生き物を殺しにくる。
あのナリで時速40キロくらいで走れるし、水中なら60キロ出せる。
カバは強い肉体を持って生まれた生き物の象徴だ。
まぁカバ的にはただ産まれて生きてるだけだから、んな事言われてもって思うだろうし、可愛いけどね。

生き物が強い肉体に生まれた時、法律は、倫理は必要なのだろうか。
人間がカバの肉体で産まれてきたら、きっと今のような社会ではなかったんじゃないかと思う。
よく権力を手に入れると人は狂うと言うが、あれは擬似的にカバになっているんじゃなかろうか。

40キロで走り、顎の力が1トンあり、縄張り意識が強く、簡単に他の生き物を殺せてしまう力を持ったら、生き物はどうなるのか。きっとカバになるんだと思う。

心身二元論のようなことを言っているが、人が人足り得るのは人の肉体に入っているからで、例えばある日突然カバの肉体に入ったら、きっと生き物に噛み付くようになるだろう。
カバを見る度に、人間の身体で産まれたことに感謝する。

それと同時に、生き物のどうしようもない習性について考える。力を持って狂わないというのは、きっと特殊能力だ。人が人であるというのは、案外難しいことなんだろう。

カバは人から見たら狂っている。ちょっと縄張りに入れば殺すし、遊びで他の生き物を殺すこともある。ほとんど草ばっかり食ってるくせに命をなんだと思ってるんだ!?と思う。
ただ、奴らは強靭な顎を持ち、簡単に生き物を殺せてしまうからなんとも思わないのだ。私たちが蚊を殺すのと一緒だ。蚊は殺せるがゴキブリは殺せない理由は生命力の差だろう。(蚊は手のひらですぐ死ぬが、ゴキブリを殺すのは一苦労だ。向かってきたりする。怖い。)

人間がカバになってしまったら、とんでもない過ちを犯す。
そもそも外的要因(権力や金など)によってカバになっているわけで、身体は人間なのだ。
心が身体を置いていき、先に身体が壊れる。
それに、外的要因は失うことがある。本当のカバだったら顎の力は衰えたとしても無くなりはしない。しかし金や権力、信用は簡単に無くなる。

カバになった人が人に戻る時、それは自分がカバだと気がついた時。山月記が虎であることに気がつき、人間性を取り戻す話であるのと同じ。
カバになっていることに気がついて、初めて根本的な生まれ持った人間性と向き合うことになるんだろう。

世のなんちゃってカバ達が、人間に戻ってくる日を願っている。(戻ったら生きていけないような世界なのかもしれないけど、それは覚悟決めて己の弱さを認めて生きなさい。)

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