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【スーツ考】心躍る スーツ・ライフ

今シーズンからワードローブに加わったダークネイビーのオーダースーツがこれまで愛用してきた既成のスーツたちをどこか流行遅れを感じさせる代物に変えてしまった。適正サイズだと信じて疑わなかったジャケットのウエスト周りはあきらかにオーバーサイズに映り、スリムシルエットが売りだったトラウザーズの太もも裏側の生地は今や余裕で掴めてしまう。そんないいことずくめのように思えるオーダースーツだが、気になるところがないわけではない。


1.気になる点『生地の素材』

特に気になる点としてはトラウザーズにシワがつきやすいこと。ベーシックモデルとはいえ、素材はウール100%の国産で、しっかりとした打込みから耐久性にも優れた生地というのは見た目にもわかる。だから、ただ単に使用環境が合わないだけだとは思う。僕の場合、朝出勤して一度自分のデスクに着けば、昼食とトイレに立つ時以外はほぼ椅子に座ったままなのだからシワになるのも当然だろう。これが普段あまりスーツを着る機会がなく、冠婚葬祭や成人式などの式典に出席する際に着用する程度なら十分に満足できるクオリティであることは間違いない。言うなればライトユーザー向けの生地。ちなみにシワは霧吹きで軽く濡らす程度に水を吹きかけ、ハンガーにかけて一晩乾かせばウールが持つ水分で膨らむ特性によって概ね取れる。

2.気になる点『生地の色』

ここからは嗜好によるところが大きいからあくまでも個人の主観。そういった前提で次に気になる点を挙げるとすれば、ダークネイビーの生地を選んだつもりなのに、昼光の下では思いのほか青く見えること。スーツスタイルを紹介するウェブサイトや書籍を見ていると、黒色のスーツはビジネスに不適切という言葉をよく目にする。だが、黒は日本におけるスーツの代名詞のようになっていて、実際に僕の周りでも黒のスーツを身にまとう人は多い。だから、トラディショナルを意識しつつ、一方で職場において悪目立ちしないようにと選んだ色だったが予想以上に青かった。生地見本の明度が実際の仕上がりよりも濃く見えるというのは事前にわかっていたが、この結果を踏まえると自分がイメージする色と視覚からの情報との補正値はもう1段階上げてもいいのかもしれない。

3.気になる点『ディテール』

オーダーメイドでスーツを作るメリットとして今の体にフィットした1着が手に入ることを挙げる人は少なくないが、個人的にはスーツスタイルのスタンダードを踏襲しつつ、その定められたルールの下でシルエットやディテールにこだわることがオーダースーツの醍醐味だと思う。残念ながら前回仕立てたスーツには、心に引っかかる箇所がふたつ残された。ひとつがラペルと呼ばれる下襟の幅、もうひとつが上腕部の袖幅。採寸の際、ジャケットには釦とウエスト位置が高めのブリティッシュ・スタイルのハウスモデルを選び、体のラインに合わせてウエストをさらに少しだけ絞るよう要望したがラペルと袖幅には特に言及しなかった。結果的に前述のパーツは標準仕様で仕上げられたが、鏡の前に立つといずれのディテールもイメージしていたものより若干太く映る。

4.NEW SUIT

新たに発注したオーダースーツが仕上がったと平日の午後にテーラーから連絡があったので早速受け取りに行った。その店のスタッフの方がおっしゃるには、少し明るいくらいの紺色が今のネイビースーツのトレンドだそうだが、僕としては室内の照明の下でも限りなく黒に見える濃紺のスーツを今回は仕立てたかった。黒により近く、より深みのある青。それでいて自然光の下では青みがかかっているのがわかる。そんな色をバンチブックに収められた生地の中に求めた。見直したのは生地の色だけではない。素材の国産ウール100%は変わらないが、伸縮性や防シワ性が高められた生地へとアップグレードした。シルエットやディテールは前回のスーツを踏襲。但し、袖幅は少し細く、ラペルは5ミリ短くしてもらった。

5.最後に

1着目のオーダースーツで100点満点の物を手に入れることは難しい。おそらくは2着目、3着目と仕立てる中で完成度が上がっていくのだと思う。確かに新しいスーツは前回作ったスーツの私的な懸念点を概ね解消するものとなった。しかしながら、それほど身長が高くない僕の体型にそもそもVゾーンの浅い英国調のトラディショナルなスーツが似合うのか?という疑問は残る。試しにジャケット前裾の一番下のボタンの少し上あたりの生地を掴み、やや深めのVゾーンを擬似的に作り出して鏡の前に立つと、縦長でスッキリとした印象を受けた。たぶん、このシルエットに近いイタリアン・スタイルのスーツのほうが自分の体型には合っているのだと思うが、僕が着たいのはあくまでも見た目の印象がカチッとしていて重厚感を感じるVゾーン浅めのブリティッシュ・スタイルのスーツなのである。趣味か実利か。これが3着目に与えられた課題。




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