久遠桜

子供の頃から人のいないところを見つけるのが得意だった

かくれんぼの時は建物の裏手にある倉庫が僕の居場所となっていたし、みんなも僕を最後まで見つけられなかったから、得意ということにしていた

隠れることとは違うのだ

似ているようで

S極に集中した砂鉄の一粒一粒に耳をそば立てる

これが気配であると小学生の僕は知ってゆく

S極とN極は似ているのか?とんがり帽子を目深に被ったおじいさんは

10年前からあの桜の木の下で自問している

S極 と N極 は似ているのか

S極にくっついてしまう砂鉄が可哀想だと思った


小学生の僕に与えられたちっぽけな磁石を川底に投げ捨てた

逃げたかった ワケ じゃない

隠れたかった ワケ じゃない

見つけてほしかった ワケ じゃない

千鳥足で夜な夜な川面に浸かってゆく

ここはもう一人だった

そのことを安心していいと誰も教えてくれない


ズボンのポケットに収まりきれなくなって水の波紋を浮遊する

スマートフォンは打ちひしがれて

僕の微細な心拍数はけれど遠くぼやけてみえる灯台の燈を

一つ一つと数えてゆく力はあるようだ


ここはもう僕しか息をしていない


天井に吊らされて可哀想にと

涙も出ないで

私はゆっくり桜の花びらが吹き荒れる下、永遠に飲んでゆく


スクリーンはここで、ここで、いつも、終わる



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