記事一覧
ドリームハイツ(15)
再帰するサスペンス。これは神話である。人物は皆ひかりを浴びて佇んでいて、ねこは炬燵でまるくなる。大通りには黄色いくるましか走れない。下水道の安寧秩序。律法は忘れ去られ、駄洒落だけが流行る世間の荒波を、いまひとりの聖者が正義を求めて歩みを進める。
縮れた頭髪は禿げ上がり、頬は白い無精髭にまみれ、身体には古布を巻き付けただけで裸足の足下。いかにも聖者然としたその姿かたちはまるでコスプレ。しかし予断
ドリームハイツ(14)
泥臭いサスペンス。王は王宮のベランダに据えられた籐椅子に腰をかけ、アイス・ティーで一息つきながら、兵士たちが洗濯物を大量に干しているのを眺めている。
「今日は厚手のものもよく乾きそうだな」
平和な昼のひととき。王宮には緩やかな時間が流れている。兵士が侍女の誰かに卑猥な冗談でも言ったのだろう、馬鹿笑いする男女の声が物干し台から聞こえてくる。
「天気の話はもう良いだよ。で、王ちゃんはなんと見る
ドリームハイツ(番外)
【前回までのあらすじ】
不注意、あるいは見間違い。かつてはそのように処理されてきた事柄が、すべて可能である世界。
数字の1を7と読み間違えた結果、私の出した見積もり金額は正しくなかったとされた。
しかし7であることもまた正しいとすることがいまの私には可能である。
かつて神は自らがもたらした秩序によって、不自由に苦しめられた。人間だけが自由であることを許されていて、神はいつでも正しくなくては
ドリームハイツ(13)
十人並みのサスペンス。言語郎は反重力装置の電源を入れて宙に浮かぶ。部屋中に散らばる神をこれ以上粉々にしないように気づかいながら、玄関を出て空を飛ぶ。特に行くあてはなかったが、自らの眼前で発現した奇跡の意味を咀嚼するために、彼はあの部屋にとどまることが出来なかったのだ。
初夏の快晴。人々は言語郎のつくった反重力装置を片手に空中をたゆたい、路の上は混雑していた。言語郎はたったいま起きた驚天動地の大
ドリームハイツ(12)
曖昧なるサスペンス。言語郎は六十歳になり、この地方に住む人々の平均寿命をはるかに超える年齢を迎えていた。
偉大なる発明の功績に免じた特赦を受け、牢から出され自宅に戻ることができた彼は、その後も自身の発明である反重力装置の改良を続けた。わずか数年で小型化、低コスト化が可能となり、もはや民家の扉のような大きな木材を必要とせず安価で量産できるようになった反重力装置は、たちまち人々の間に普及した。装置
ドリームハイツ(11)
沈降するサスペンス。
「するとその重力とやらが人々と神を対立させていると」
「そうだ。我々と神が真の共存を果たすためにはまず重力そのものを操作せねばなんねんだ」
若き王が地下牢の言語郎を足繁く訪ねるようになって、間もなく一年が過ぎようとしていた。
初めて王宮の地下へと下りたあの夏の日、若き王は自らの心中にわき起こる恐怖に戦いた。地下の暗さは外界に照りつける夏の陽光が入り込むことを頑として
ドリームハイツ(10)
秘匿されたサスペンス。言語郎はそれから十年の間、王宮の地下牢に幽閉された。神たるコーン・フレークを踏み割った者は年齢性別問わず全てこれを死罪とする、というこの地方の法律が、結果的に彼の身を極刑から守ったことになる。言語郎の罪はコーン・フレークに水をかけてふやけさせたことであり、彼は決してそれを踏み割りはしなかったのだから。王宮の裁判官たちは前代未聞のこの犯罪に対する処罰の決定に思い悩み、結論が出
もっとみるドリームハイツ(9)
顕在化するサスペンス。これは神話である。人物は皆ひかりを浴びて佇んでいて、ねこは炬燵でまるくなる。大通りには黄色いくるましか走れない。下水道の安寧秩序。律法は忘れ去られ、駄洒落だけが流行る世間の荒波を、いまひとりの聖者が正義を求めて歩みを進める。
縮れた頭髪は禿げ上がり、頬は白い無精髭にまみれ、身体には古布を巻き付けただけで裸足の足下。いかにも聖者然としたその姿かたちはまるでコスプレ。しかし予