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ローカルな熊野古道。|熊野古道・紀伊路 【前編】


こんにちは。ロス・カミーノスです。


以前、和歌山県中部の日高エリアに住んでいたので、2016年に熊野古道の紀伊路を歩きました。

熊野の入り口・田辺と京都を結ぶ紀伊路は世界遺産の登録範囲ではないものの、熊野詣における非常に重要な道。

当時書いていたブログを元にその体験を振り返ってみようと思います。



◆熊野古道・紀伊路


平安時代以降、紀伊路は熊野参詣の正式なルートとして認識され、天皇や貴族の参詣にしたがって多くの人々が歩きました。

山や川が多く、決して通行は容易ではありませんでしたが、そうした困難を乗り越えて参詣することに意義が見出されていたのです。

しかし、熊野詣の主たる担い手が武士や農民にシフトすると、困難な紀伊路は避けられるようになります。

その後も生活の道として沿道の住民に利用されてきましたが、近代になって自動車用の幹線道路が整備されると、紀伊路の機能は少しずつ失われていきました。

今回は、和歌山県広川町と日高町の境にある鹿ヶ瀬(ししがせ)峠から、御坊市の塩屋(しおや)王子に至る約19kmの行程をご紹介します。



◆紀伊路最大の難所・鹿ヶ瀬峠


日高地方における紀伊路は、紀伊路最大の難所と言われる鹿ヶ瀬峠から始まります。標高約350mのこの峠を越えることは容易ではなく、参詣者をもてなすための茶屋や旅籠がたくさんあったと言われています。

峠を少し下ると、全長503mの石畳の道があります。ここは紀伊路に現存する石畳で最長のもので、古道の雰囲気を味わいながら進むことができます。

少し歩くと、江戸時代に宿場として栄えた金魚茶屋跡があります。鹿ヶ瀬峠を越えてきた旅人のために、金魚を飼って旅情を慰めていたことからこの名前が付いたそうです。



◆高家王子(内原王子神社)


出発してから約2時間、日高町萩原にある内原王子神社に到着しました。ここは紀伊路の高家王子にあたると考えられ、立派な社殿が現存する王子社の一つです。

中世の紀伊路では、「九十九王子」と総称される神社群が組織され、参詣者の守護を祈願する儀式が行われました。しかしその多くは衰退してしまい、鹿ヶ瀬峠と高家王子の間にある3つの王子(沓掛王子、馬留王子、内ノ畑王子)も場所を示す石碑と説明文だけが残っています。

今回歩いたルートには、「熊野古道→」という道標が至る所に設置されていました。また道を歩いていると、住民の方が話しかけてくれて、古くから古道と密接に関わってきた日高町の人々の暮らしを感じられました。



◆岩内王子へ

高家王子から5kmほど歩くと、日高エリアの中心地・御坊市に入ります。

御坊市の熊野古道は、まちの発展に伴い多くが県道や市道になってしまい、あまり古道の雰囲気を感じることはできません。

高家王子以降の4つの王子(善童子王子、愛徳山王子、海士王子、岩内王子)も、小さな祠しか残っていないものや、場所を示す石碑だけがあるという状態でした。

さらに、善童子王子から海士王子までは比較的近いところにあるのですが、海士王子から岩内王子まではなんと徒歩70分の道のり。道標や案内板を頼りに進むしかないので、地図がないと少し厳しいかもしれません。

また全体的に車の量も多く、狭い道を歩く際は注意が必要です。苦労して辿り着いた岩内王子も、コミュニティセンターの一角に石碑があるだけでした。

御坊市の紀伊路の旅、なかなか大変です。



◆塩屋王子


岩内王子から歩くこと2.6km。いくつものアップダウンを経て、のどかな山間の集落を抜けると、塩屋王子神社に到着します。

塩屋王子は、王子社の中で最初につくられた「七王子」の一つという格式高い社で、立派な社殿が現存しています。

日高川の流れが海に入る塩屋地区は美しい景観で知られ、困難な紀伊路を歩いてきた参詣者たちは海を眺めながら、この地でしばし休憩をとっていたそうです。

境内の一角には、鎌倉時代に後鳥羽院が熊野詣に向かう途中、行在所を設けた「御所ノ芝」が史跡として残っています。天皇や貴族の参詣の際には、歌会が開かれたこともあったということです。

また塩屋王子は、主神である天照大神の神像が美しいところから、「美人王子」という呼び名で信仰をあつめてきました。

現在では塩屋王子にお参りすると美しい子どもを授かるとされ、若い夫婦や女性の参拝が盛んだそうです。

ちなみに神社の向いにあるお店で「美人王子絵馬」なるものが販売されているそうなので、興味のある方は是非。



◆日高と紀伊路

日高町の紀伊路は、古道の雰囲気が残る道が多かったですが、御坊市の紀伊路は、民家や田んぼ、畑の間を通り抜ける道が多いです。

そうしたのどかな道を歩いていると、色々な出会いがあります。今回も、トンボやチョウ、カミキリムシ、ムカデ、カメ、カニ、カエル、フナなど、様々な生き物に出会いました。

一番驚いたのが、紀伊路をキジが横断していたことです。別にダジャレを言いたいわけではありませんが、生まれて初めて野生のキジに出会いました。

やはり熊野古道は、自動車用の幹線道路から離れた所、昔ながらの暮らしや自然が残る場所にあるのだと感じました。


後編に続きます。


紀伊路のルートやマップについては、和歌山県の観光PRサイトをご覧ください。

https://www.wakayama-kanko.or.jp/plan-your-trip/model-courses/route-map/kiiji/