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ソーシャルリスニングを活用して購買行動の変化を分析する

今回の記事では、ソーシャルリスニングをマーケティング施策に活用する手法について、ソーシャルメディア・アナリティクスツールBrandwatchと購買プロセスのフレームワーク「5A」を用いて考えてみたいと思います。

▼この記事をざっくり説明すると▼
・ソーシャルリスニングによってクチコミの傾向、関心の高い話題が分かる
・購買プロセスごとにクチコミを収集すると、購買行動の変化が把握できる
・「5A」を用いると「認知」から「推奨」への変化が分かりやすい
・これらは各プロセスごとに適したマーケティング施策を考える上で役立つ


購買プロセスごとにクチコミを収集する

2018年、ミラーレスカメラの日本国内における年間販売台数は、一眼レフカメラをはじめて上回りました。この傾向は加速しており、2020年6月期には、その差は2倍弱に広がっています(2020年6月期の実績、一般社団法人カメラ映像機器工業会公表値)。そのミラーレスカメラの新製品が立て続けに発表され、大きな話題を集めています。

そこで今回は、2020年7月に発売を発表した2機種を対象に、購買プロセスごとのクチコミを分析していきます。

まず一つは、7月9日にキヤノンがオンライン配信イベント「Canon EOS Presentation」において正式発表した「EOS R5」


もう一つは、ソニーが、7月29日に正式発表した「α7S Ⅲ」

ここでは各社公式Twitterアカウントの投稿日(「EOS R5」は7月9日、「α7S Ⅲ」は7月29日)を「正式発表日」とし、分析を行う際の基準日に設定して分析を行っていきます。


「EOS R5」と「α7S Ⅲ」のクチコミ傾向

今回はクチコミの対象をTwitterとし、Twitterの全量データを検索・分析対象とすることが可能なソーシャルメディア・アナリティクスツール「Brandwatch」を使用し、データ収集を行いました。下のグラフは「EOS R5」と「α7S Ⅲ」のツイート件数の日次推移です。

EOS R5とα7sⅢに関係するクチコミ件数の日次推移

7月の1か月間における平均日次ツイート件数は、「EOS R5」が1,144件、「α7S Ⅲ」が181件と、「EOS R5」のほうが多くなっています。

また、グラフのとおり各社の正式発表日(「EOS R5」は7月9日ごろ、「α7S Ⅲ」は7月29日ごろ)にツイートが急増していることが分かります。

6月1日以降の期間で、それぞれのツイートが拡散したタイミングをトレンド方式(※)により算定したところ、次の表のようになりました。「EOS R5」は3回、「α7S Ⅲ」は4回拡散期間を検知しています。

拡散期間表

※トレンド方式の詳しい説明については、以下記事をご参照ください。


「EOS R5」と「α7S Ⅲ」のツイート件数の日次推移と、トレンド方式で算定した拡散期間を照らし合わせると以下のようになります。グラフ内の棒グラフが該当箇所です。

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いずれも正式発表日の前に既に大きな話題になっていたことが分かります。

「EOS R5」は、ヨーロッパでの販売価格を見つけたYouTuberジェットダイスケ(@jetdaisuke)さんが発信した以下ツイートが拡散されました。発表前に「販売価格」に大きな関心が寄せられていたことが分かります。このあたりが「EOS R5」のツイート数が「α7S Ⅲ」よりも多い原因かもしれません。


また、「α7S Ⅲ」は、以下のツイートが話題となりました。ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズの田中健二シニアゼネラルマネジャーのインタビューでの発言を記事にしたものです。こちらは、「発売時期」に関心が集まっていることが分かります。

このように、正式発表前後で、関心の内容が大きく変わっていることが分かります。続いて、購買プロセスごとの話題の特徴を見てみましょう。


購買プロセスのフレームワーク「5A」とは

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購買プロセスのフレームワークは、様々提案されています。そのなかの一例として、今回はフィリップ・コトラーが著書『マーケティング4.0』で提唱した、購買プロセス「5A」の考え方にあてはめてみます。「5A」とは、

購買者は、製品発表などのニュースや広告により商品を認知し(Aware)訴求された(Appeal)商品に対して関心を抱き、知人や識者の意見を調査し(Ask)購買行動を起こす(Act)。そして使用した体験を他者に推奨(Advocate)する

といったプロセスを辿るとしたフレームワークです。

究極の目標は、顧客を認知(Aware)から推奨(Advocate)まで進ませることであるとしています。同時に、各プロセスごとに適したマーケティング手法を考えるべきであるとしています。

今回はこのフレームワークを用いて購買プロセスを分析していきます。


購買プロセスごとの傾向分析

各製品の購買プロセスに関係するツイートの傾向を把握するために、購買プロセスごとに、機種名と一緒に以下の単語が含まれるツイートを再抽出しました。

それぞれの購買プロセスでは、次のようなツイートが抽出対象となるように考慮して検索条件を設定しました。

認知:普段からカメラに強い関心を持っている方々は、正式な発表以前にさまざまなニュースソースから広まっていた噂から認知されることも想定できます。このため、正式発表に反応したツイートだけでなく、リーク情報や噂に反応したツイートも含まれるように考慮。

▼検索条件
キーワード「発表」「噂」「リーク」などを含むツイート
訴求:認知したカメラに関する自身の考えを述べているツイートのうち、特に購買につながる可能性の高い方々のものに絞り込み。

▼検索条件
キーワード「欲しい」「買いたい」「楽しみ」などを含むツイート
調査:購入前に、カメラの詳細を調べていたり、他のカメラと比較検討している状況を示すもの。

▼検索条件
キーワード「検討」「比較」「知りたい」などを含むツイート
行動:実際に購買や予約をした、あるいは購買すると思われるもの。

▼検索条件
キーワード「買った」「予約した」「届いた」などを含むツイート
推奨:実際に各カメラを使用した人が、他者にその体験を伝えるもの。

▼検索条件
キーワード「おすすめ」「気に入った」「使いやすい」などを含むツイート

上記の検索条件で収集した各購買プロセス別のツイート件数の日次推移を以下のグラフに示します。

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それぞれ、正式発表の期日に「認知」プロセスのツイートが多くなっていることが分かります。また、「EOS R5」は7月30日が発売日であったため、再びツイートが増加していることが分かります。7月9日の正式発表日に比べると小さいピークですが、1,000件を超えています。7月29日の「α7S Ⅲ」の正式発表日と同程度のツイート件数があります。

正式発表前後の購買プロセスごとのツイートの割合を見てみましょう。各機種の正式発表(「EOS R5」が7月9日、「α7S Ⅲ」が7月29日)前後の7日間のツイート割合の推移を下のグラフに示します。

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傾向分析から分かること

以上のグラフより、各購買プロセスごとのツイート割合の日次推移を中心に傾向を調べて見ましょう。

・正式発表日の「認知」のツイート割合は「EOS R5」が71%、「α7S Ⅲ」が73%と、ほぼ同じ割合でした。両機種とも、その後の認知の「割合」は着実に減少し、次の「訴求」プロセスに推移していることがうかがえます。また、「認知」プロセスの割合が減少するスピードは「α7S Ⅲ」のほうが若干早かったように見られます。昨今のYouTuberをはじめとする動画撮影をメインで検討している人々の需要にマッチしたためか、「α7S Ⅲ」のほうがより早く「訴求」プロセスにシフトしていることがうかがえます。

・正式発表前日の「訴求」の割合は、「EOS R5」が8%、「α7S Ⅲ」が19%であり、それ以前も概ね「α7S Ⅲ」のほうが高くなっています。7月16日に開設したティザー広告などを見た人々の期待感が正式発表日には、すでに高まっていたことがうかがえます。

・「調査」の割合は、正式発表後の「EOS R5」の増加が目立ちます。その幅広いターゲットに対応したスペックゆえか、さまざまな機種との比較記事が確認できました。こちらもYouTuberの瀬戸弘司(@eguri89)さんのPanasonic「GH5」との画質の違いを呟いたツイートも注目されました。

また、これ以外にも「デジカメ Watch」の記事(「キヤノンに聞いた「EOS R5」「EOS R6」一問一答」)にも関心が集まりました。この記事の質疑の中には、話題となっている動画撮影時の熱暴走に関するキヤノンの考え方を示す内容も含まれており、いっそう関心を集めたと思われます。

・8月4日に「α7S Ⅲ」の「行動」のツイートは115件と急増し、ツイートの割合は40%にまで拡大しています。これは、以下ツイートのように8月4日に販売会社が予約受付の開始を発表したためです。予約受付の告知に呼応して予約をした人々の投稿が数多く寄せられています。順調に予約行動に誘導できていることが確認できます。

なお、「EOS R5」は正式発表直後に、販売会社が予約を受け付けています。正式発表直後は「認知」「訴求」のツイートが極端に増加しているタイミングであるため、「EOS R5」は「行動」のツイートの割合が相対的に少なくなり、急増する状態は確認できませんでしたが、7月9日〜7月11日の3日間で163件発生しています。発売日である7月30日には139件確認されています。

・「推奨」は、「実際に各カメラを使用した人が、他者にその体験を伝えるもの」を抽出すべきですが、ツイートに含まれる文言だけでは本当の購買者とそうでない人の判別がつきません。このため、ツイートの割合ではわずかな割合ですが、販売日より前にも「推奨」に該当するツイートが発生しています。グラフには掲載がありませんが「EOS R5」は、発売日の7月30日に38件もの「推奨」ツイートが発生しています。最もリーチを獲得したのは、以下のツイートでした。このような実際に撮影した方々がその写真(動画)とともに機種の評価を語っています

両機種とも需給状況が非常にタイトになっており、納品を心待ちにしている顧客も大勢います。製品が手元に届いた人が増えていくと、「推奨」ツイート件数も増えていくことが考えられます。


まとめ

今回、生活者の購買行動をツイート内容から可視化する方法を検討しました。その一適用例として、新製品の販売前後のツイート内容を「5A」の購買プロセスに沿って話題の変化を可視化してみました。それぞれのプロセスにおけるツイートの割合の時系列推移を分析することで、次のようなことに活用できることが分かりました。

①購買プロセスごとに施策を着想しやすくなる
本記事では、計測点における各購買プロセスに関係するツイートの割合を算定しました。さらに、その発言をユニークユーザー数ベースで比較し、プロセスごとに存在する人の割合を推計できると考えられます。それぞれの購買プロセスごとに対象者をイメージすることで、どの購買プロセスの方に訴求するものかを定めたマーケティング施策を着想しやすくなります

②施策のKPI設定に役立つ
マーケティング施策を講じた際の各プロセスごとのツイート件数の変化やツイートの割合を計測することで、施策の効果を推計することが考えられます。例えば、施策の目的が商品の認知を高める場合には「認知」のツイート件数を、購買者を増加させる場合には「行動」のツイートの割合をKPIに設定し、進捗を日々計測していくことができるでしょう。

③危機管理にも活用できる
また、例えば、今回の製品に関して望ましくない話題が発生した際に、どのプロセスの人が関心を寄せているかをつかむこともできます。今回の対象商品では、「EOS R5」の動画撮影時の熱暴走の話題があります。下のグラフは、「EOS R5」のツイートのなかで、「熱」を含むものを抽出し、5Aに仕分けしたツイート件数の日次推移を示しています。

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7月9日の正式発表日当日にこの問題を「認知」した人が多く、いったん話題は収束していたものの、7月25日ごろから再燃してきた様子が分かります。また、7月25日の段階では、「調査」や「行動」プロセスの人々が話題にしていることが分かります。リリースを発信する際などに対象とするペルソナを想定する場合、参考することができると考えます

なお、今回はそれぞれの機種で発表から販売までのリードタイムが異なることや、「α7S Ⅲ」が予約開始となった時点で「EOS R5」と比較が可能であることなどの状況を考慮していません。これらの影響分析ができれば、さらに活用のフィールドが広がっていくのではないでしょうか。


次の記事では、ツイートした「人」に着目し、生活者の購買行動の変化から態度変容の原因を分析していきます。


【今回使用した「Brandwatch」の特徴や機能についてはこちら】


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【書いた人】
福田 浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理)

多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。

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