見出し画像

【羽子田チカ】色んな事を知っていく度、君の心に触れる旅【きみとメモリー】

 今回は個人Vtuber 羽子田チカさんのオリジナル曲『きみとメモリー』を聴いて、思ったことや考えたことを書いていきます。前回の記事と同様に私が「羽子田チカ」というファンタジーフィクションの一編を読んだ感想だと思っていただければ幸いです。そして個人的なお願いですが、できれば自分でこの曲を聴いて思ったことをどこかに絞り出してからこの記事を読んでほしいと思っています。

『きみとメモリー』を読み込む

 まずは曲だけで読み解いてみます。つまり羽子田チカさんを知らない状態で聴いたと仮定したときの感想です。Vtuber であろうが歌は歌で完結してると思って読みたいですからね。

『色んな事を知っていく度~手と足がほら、なぜ?動かない』
 考えてたりして、とあるので過去の事であると分かります。色んな事を知る、つまり大人になる、社会で生きる過程で「自分は何故生きるのか」という問いを自分の中に抱えていたことを明かしています。

 その後、目の前が見えないと言っています。色んなことを知った結果、はっきりとした道、正解が分からなくなったということでしょうか。目の前が見えなくても身体を動かそうとするのですが、身体は自分の意思に反して動かないというのが、歌詞の『なぜ?』から分かります。

『隣りにいる君と夢を見てた僕の確かな声が~ひとりぼっちで踊りたい』
 正しい道が見えず、動けず夜に泣いてしまう『僕』ですが『隣りにいる君』と『夢を見てた僕の確かな声』によって助けられます。『ひとりぼっちで踊りたい』の心境をこれだ、と決めつけるのは非常に難しいです。それでも、先程まで生きる意味がわからず動けなかった『僕』が『踊りたい』と思うのですから、『君』と『夢を見てた僕の確かな声』というのは『僕』にとって恐怖から解き放ってくれるものであることが分かります。ここでひとりぼっちなのはあくまでも「隣にいる君」の隣、とは物理的な距離ではなく精神的な距離であることを示していると思います。また、歌声もひとりぼっちで踊りたいの語尾は上がり調子です。決意みたいな力強さを感じます。

『君の心と触れるたびに~飛び越えていくの』
 サビの構造は1、2、ラスサビと似ていますが、1番は隣にいる君の心に触れることで恐怖から奮い立つことができる。そして、自分の身体を縛り付ける鎖を振り切って前を向いて歩くことができる、という感じでしょうか。

『色んなことを背負い込んで~また行き止まり』
 
さて、1番で恐怖を振り切った『僕』ですが、2番では色んなことを背負い込み、転んで落ち込んでしまいます。過去の自分が抱いた夢に向かって歩いてみるのですが、すぐに行き止まりが行く手を阻みます。『壊れていく』というのは、自分の中で大切だと思っていた夢が向かってみると案外簡単に挫折してしまう、というあっけなさが現れている表現だと感じました。1番とは違って世間に対しての恐怖ではなく、夢に向かって歩くことで自分の不甲斐なさ、力不足が明確に見えてしまって落ち込んでいる、ということだと思います。

『隣りにいる君と~ひとりぼっちで踊りたい』
 1番とほぼおなじ歌詞です。変わらずに『隣にいる君』と『夢を見てた僕の確かな声』は変わらず今の『僕』を励ましてくれます。1番と違うのは『君』と『声』の役割が「恐怖からの開放」ではなく、「夢に向かって歩く背中を押す」という意味になっている点です。ですから、ここでの『ひとりぼっちで踊りたい』は「挫折してもそれでも踊りたい」という気持ちでしょうか。歌声も一番と同様に上がり調子です。また、2番全体を通してここまで夢が壊れているにも関わらず、声の雰囲気は1番よりもしっかりとしたものであることから、『君』と『夢』は『僕』にとっての指針、絶大な影響力を持つものであることがはっきりと分かります。

『僕の心に刻むメモリー~胸が痛いよ』
 ここからガラッと変わります。これまで恐怖と挫折から救ってくれた『君』のことを『僕』は心に刻んでいます。そして、『尊き日々がいつまでも続くような気がしていた』とあるように『君』と『僕』の生活に終わりが来たことが分かります。これまで心の支えとなっていた『君』の消失に『僕』は悲しみます。声の調子もこれまでにないくらい悲痛な叫びになっています。今までのようには飛び越えていけないんですね。

『隣にいない君と夢が覚めた僕の新しい声を~君の声が聞こえない』
さて、サビでも大きな変化が現れます。今まで隣にいた『君』はいなくなります。そして、それとは別に『夢が覚めた僕の新しい声』とあります。今までは昔、夢を見たときの思いを支えに歩いてきたわけですが、その結果、新しい声を手に入れているわけです。ここで『夢から覚めた』ではなく『夢が覚めた』と表現していることに注目します。これは今まで靄がかった夢であったのが『君』のおかげではっきりとしたものになった、眠った時に見る「夢」のように曖昧なものがはっきりとした『夢』になったということだと思います。冷めた、ではなく『目覚めた』というわけです。
 しかし、ここで『僕』は迷うわけです。『夢』を見つけたけれど、その立役者である『君』は『僕』の隣からいなくなってしまった。はっきりとは示されていませんが『君』を追うか、『夢』を追うか、という2つの選択肢があったのではないかと思います。これまでにないピンチですが、今まで助けてくれた『君』の声は聞こえてきません。しかし、最後の『聞こえない』のフレーズは少し前の『胸が痛いよ』のフレーズより悲しく聞こえません。

『君の心と触れるたびに~飛び越えてくの』
 
いなくなった『君』ですが、君の心は『僕』の心に既に刻まれています。そのおかげで、また鼓動が揺らすことが出来ます。つまり、また歩き始める決心がついたわけです。もし、『僕』にとって『君』が全てであれば、『君』を探して『僕』も居なくなっていたかもしれません。しかし、『夢』に向かって歩くことを応援していたのは、紛れもなく『君の心』であったわけです。だから、また『僕』は振り返らないように、『君』がいなくなった方向を見ることなく『夢』に向かって歩きます。
 それでも、刻まれたメモリーを思い出すたびに心は揺れ動きます。しかし、『僕』は既に選んだ分かれ道に戻ることなく、『君』がいなくなった寂しさを飛び越えていこうとします。最後の『飛び越えてくの』もどこか遠くに向けられたような祈りのように聞こえます。いなくなった『君』に向けた「飛び越えていくよ」というメッセージであったかもしれないと思いました。

『きみとメモリー』を読み込んでみて

 上の長ったらしい文章はあくまでも私が曲を物語になぞらえて「こういう話なんじゃないか」という妄想です。ですが、それにしたってなんて綺麗で切なくて時間の流れが圧縮された素晴らしい物語でしょうか。何度も読むことによってその時の『僕』の気持ちが深堀りされていくようです。一回目に読んだ時は『君』の変化に目が行きがちですが、しっかりと目を通すことで『僕』の夢も変化していることに気付くことができます。正解はないとは思いますが、読み込むことで『きみとメモリー』という物語が私の中に刻み込まれたような気がします。また、ここでの変化が「モッツァレラ▲トライ▼クッキング」の強いメッセージ性にも影響を及ぼしているのではないかと思います。

『君』と『僕』

 ここから先はVtuber という要素を踏まえての考察です。羽子田チカさんをよく知らない方も分かるように書こうと思ったのですが、1年以上のTwitterを掘り返して引用しているうちに涙が止まらなくなったので詳細は省きます。分からないところはご自身で調べたほうが良いですよ、折角ですし。

 まず、『君』は狛犬なつくさんで、『僕』は羽子田チカさんでしょう。そして、1番はおそらくデビュー前のことでしょう。最初から羽子田さんとなつくさんは一緒でした。視聴者としては「なんでなつくさんと羽子田さんがこんなに仲がいいのか」については詳しくはわかりませんが、二人の間には誰かが割って入ることができないものを感じます。二人の関係がよく分かるTwitterでの絡みを一つ引用します。

 さて、この絡みが2018年の12月で、3月くらいまでは羽子田さんとなつくさんの絡みは独特の距離感で続きます。しかし、5月になると狛犬なつくさんのつぶやく回数が減っていきます。羽子田さんが生放送で言うことには、住む場所が変わったせいで、今までどおりに会うのが難しくなってしまったようでした。とは言えこの時はノベルゲームの制作を行っていたため、それもあって浮上する回数が減っていたのだと思います。ノベルゲーム自体は体験版が今年の9月に公開されています。現在もバリバリ制作中だそうなので楽しみですね。

 時系列は前後しますが、8/15は羽子田さんの誕生日ということで歌ってみたが投稿されています。

 正直なところ、このガーネットを聴くまで、狛犬なつくさんは羽子田チカさんのお友達で羽子田チカさんの世界観には登場しない、と思っていました。しかし、ガーネットの中で何度もなつくさんの姿が見受けられます。しかも、概要欄には『ずっとあなたを知っていた』というコメントと羽子田チカさんの失われた記憶が蘇るたびに付けられているハッシュタグ『#チカのかけら』があります。動画の中の羽子田さんは高校生の格好をしています。つまり、高校生の時から狛犬なつくは羽子田チカを見ていたということが分かります。

 しかし、思い返してみれば羽子田チカさんがVtuber になったのも狛犬なつくに誘われてと一番最初のツイートで言っていますし(文面では「知り合い」と表現されている)、最初の歌ってみたであるカガリビトも狛犬なつくのリクエストでした。想像以上に羽子田チカと狛犬なつくには深いつながりがあったのだと思います。

そして、9月19日には羽子田さんは以下のつぶやきをします。

 ここにでてくる『ごーるでんめんばー』とは狛犬なつく、非モテ商事の二人との集まりのことを指しています。この時点で非モテ商事の二人は引退していました。しかし、狛犬なつくさんはTwitterの浮上頻度は下がっていたものの引退や休止宣言などはありませんでした。ですがその後、狛犬なつくさんが、以下のつぶやきをツイートしました。

 このツイートを最後に狛犬なつくさんは現在(2019/10/28)も新規ツイートはありません。

 そんな中で投稿されたのが「きみとメモリー」です。

 ライザ陛下もそりゃ泣くわ。ましてや羽子田さんと仲がよく、狛犬なつくさんとも生放送をしていたことがあるのでなおさらでしょう。ガーネットのときも泣いてましたし。

 正直ここまで書いていて『君』が狛犬なつくさんなのは私の妄想なんだろうなとも思いました。『きみとメモリー』の動画の中には狛犬なつくさんは登場しませんしね。しかし、『きみとメモリー』の投稿日が決まった10/25日のつぶやきで以下のようなものがありました。

 ここまで長々と読んでくれた方なら察していただけると思いますが、『きみとメモリー』そのものです。

ここの画像は「正夢デェト」「ガーネット」「ハロ/ハワユ」をTwitterで投稿した際に使われたイラストですね。一枚目二枚目はなつくさんがいますが、三枚目、目覚めた朝に狛犬なつくの姿はないんですね。歌詞の流れが完全に一致しています。これを見て私は『君』は狛犬なつくさんだろうと思いました。

最後に

 この記事を読まれた方の中で「わたしそうは思わない、こう思った」というのが強くある人がいましたら、文章でも動画でも絵でもなんでもいいので頭の中のものを形にすることをおすすめします。理由は他の既に書いている記事やこれから書いていく記事でも触れていきますが、私がこういう記事を書くのは「私はこの物語を読んで、このように受け取ったよ」と示すためというのが大きな理由です。

 なぜこんな事を羽子田チカさんのオリジナル曲の感想で長々と書いているかというと、表題の「君の心に触れる旅」の通り、『きみとメモリー』は羽子田チカさんの心に触れる曲であると感じたからです。『モッツァレラ▲トライ▼クッキング』は羽子田さん自身が読み手である私達に届けたいメッセージ、つまりカギカッコのついた「口に出して言ったこと」をテーマにした曲でした。

 しかし、『きみとメモリー』は読み手に対する明確「メッセージ」はありません。地の文、文脈、もしくは物語そのものといった一言では表現出来ないものの発露であると思います。なので、この曲の感想を話そうと思っても霧がかった様になり、「最高……」といったように語彙が溶けるのだと思います。なので、ぜひ、みなさんもこれから続く羽子田チカの物語を読み進んでほしいと思います。そうしたら、もっと言葉にできることも増えていくと思います。次の新曲『メイム』もありますしね。私は正直、次の曲が怖いです。いえ、楽しみです。

長々とお付き合いありがとうございました。羽子田チカさんのチャンネル登録とTwitterフォローがお済みでない方は下記リンクからどうぞ。
 私はこんな感じのレビューを書いたり、Vの音楽をまとめていますので良ければnoteとTwitterのフォローをお願いします。

羽子田チカ

永井かたり




蛇足

 正直なところ、後半を書くかどうか悩みました。引退や休止を俯瞰して見る、ということは一見して薄情な視点であると思われても仕方がないと自分自身で思うからです。引退や無期限の休止はアニメキャラではないVtuber にとってエンタメや物語として読むにはカロリーが高すぎる面があるからです。Vtuber というジャンルにおいては引退する時には多くの人を巻き込んで大きな感情のうねりを生みます。それを上っ面だけ眺めて「エモじゃん……」とつぶやくのはものすごく軽薄に思えます。わたしもこれだけ書いてきましたが到底二人の関係性を全て汲んで、歌詞と対応させられているとは思いません。思っていないから長くなったんですが。

 とにかく、非常に構造としても難しいのですが、羽子田チカさんが『きみとメモリー』のことを自身そのものと表現していたので、読者としてしっかりと向き合ってみた結果がこの記事です。羽子田チカが物語として、『きみとメモリー』を産んだように、私も『きみとメモリー』と羽子田チカというファンタジーフィクションを読むものとして真摯に向き合ったつもりです。プレミア公開終わってすぐに書き始めて、現在朝の5時半です。延々と聴きながら、書き起こした歌詞と二人のTwitterを睨みながらこの記事を書きました。なんとか書き終えられてよかったです。これからの創作も心より楽しみにしています。以上、蛇足の蛇足でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?