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詩集『熱帯』  チェンライ最果てホテル

タイの最奥、ゴールデン・トライアングルへの旅。バンコックから飛行機でチェンライに入り、茶色く濁った、滔々たる大河メナムのほとりにある、白壁の美しい、リゾート・ホテルに宿をとる。

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チェンライ最果てホテル

熱帯の立ちこめるような暑さをなだめるように 
濃い漆黒の宵闇のなか霧雨は音もなく降り募り         
ビルマから流れてくる茶色い河の流れに面した         
ガラス張りのリゾート・ホテルのレストランで         
盛装したディナーの客たちがテーブルにつくと         
やがてタイ人のピアニストが弾き語りを始める

オレはテーブルの上に地図を広げ中国茶を飲み         
ここがゴールデントライアングルここがメコン         
ここが国境の町メーサイと居場所を指でなぞる         
チェンライ北の最果てホテル 夜八時 やがて         
ゆっくりと昔フランク・シナトラが歌った古歌         
ストレンジャーズ・イン・ザ・ナイトが流れて         
オレは否応なく昔 別れた人のことを思い出す

幸せにしてるだろうかもちろんそんなわけない         
いまも美しい女でいるだろうかそんなわけない         
美貌は年齢とともに衰えていくものなのだから         
オレの身体に刻まれた歳月の所作を思えば          
こんなにも醜く形を崩し年老いたオレを見れば         
彼女の行く末だって大概わかろうというものだ 
奇跡はなく精神も年老いて形を崩すのだろうか
         
そう確かにそうだったその旅の過去からの問い         
青春の夢はどうした                     
熱い約束はどうした                     
変らぬ愛はどうした
                    
日々の果てにたどり着いたアジアの最果ての地で        
すべての終わった青春とあらゆる破られた約束と        
壊れた愛とまだ幽かに残る未練のために           
短い時を割いてこころは悲しみ オレはひとり旅        
この旅の続きをと そっと小声でつぶやいてみる

夜明けの湖 01

美しい朝。朝霧が立ちこめ、世界は幻想そのもののように美しかった。


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