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ダン・ペン&スプーナー・オールダム コンサートレビュー(ビルボードライブ大阪、2023年9月30日、1stステージ)

去る9月30日、ダン・ペン&スプーナー・オールダムのビルボードライブ大阪でのコンサートに行ってきた。前回2019年3月から4年半ぶりの来日だ。

ダン・ペンの音楽とは

60年代後半に隆盛を極めたサザンソウルは、プロデューサーやバックミュージシャンなど、実は多くの白人によって支えられていたわけだが、ダン・ペンもそんな白人のひとり。ソングライターとして大いに貢献した人だ。アレサ・フランクリンの「Do Right Woman, Do Right Man」(バラード版「Respect」とも言うべき名曲)やジェイムズ・カー「The Dark End of the Street」のほか、パーシー・スレッジオーティス・レディングスウィートインスピレーションズなどに曲を提供してきた。

1973年に初のソロアルバム『Nobody's Fool』を発表するものの、当時はほとんど話題にもならかったようで、私も長年原盤LPを探しているが、流通量も少なかったようで入手は難しい状況(再発はされているが)。そんなわけで、ダン・ペンは決して表舞台に立つようなタイプの人ではなかったのだが、なぜか日本には熱心なファンが多いようで、前回2019年の公演でも日本の観客が彼とスプーナーを温かく迎え入れていた様子が印象的だった。

かく言う私も、以前からソングライターとしては名前こそ知っていたものの、ダンの歌に触れたのは94年に彼がマッスルショールズの旧友たちをバックに従えて録音したセルフカバー集的なセカンドアルバム『Do Right Man』が最初。そこでの彼の男っぽくも渋いヴォーカルに惹きつけられ、さらに、ソングライティングパートナーでもある、盟友スプーナー・オールダム(key, vo.)と二人きりでの1999年のアコースティックライヴ盤『Moments From This Theatre』でのレイドバックした雰囲気にすっかり魅了され、かなり熱心なファンになっていた。

『Do Right Man』(1994年)
『Moments From This Theatre』(1999年)

白人がしかもアコースティックギターを手に歌うこの種の音楽をなんとカテゴライズするのかは難しいところだ。近年の言葉で言えば、やはり「アメリカーナ」とか「ルーツミュージック」となるのだろうが、ダン・ペンの場合、ゴスペルの要素は色濃いが、カントリーミュージックの要素はあまり目立たない。南部出身だからと言って「サザンロック」ではないし、「スワンプロック」だとある程度時代性や地域性(70年代初頭のカリフォルニア産の印象)が絡んできてしまう。かと言って、「ブルーアイドソウル」と言うともっと都会的なイメージがする。白人・黒人にこだわらなくてもよければ、やはり「サザンソウル」、そして、スプーナー・オールダムと二人だけの時のようなアコースティックセッティングの場合は、「アコースティック・サザンソウル」あるいは「アコースティック・マッスルショールズ・サウンド」とでも呼ぶべきだろうか。

80歳を超えての来日公演

前回2019年の来日時、ダンは既に77歳。おそらく見納めになるかなと思っていたのだが、何と御年81歳での再来日(スプーナーはひとつ年下の80歳)。ダンの最近の写真は老け感ありありだし、日本へのフライトだけでもしんどいのではと思う年齢。本当に大丈夫だろうかという気持ちでライブ会場に向かったのだが、迎える客席の方も壮年紳士淑女でほぼ満員だった。

客席が暗くなり、マネージャーとおぼしき男性の勢いの良い紹介の後、通常の客先横からではなく、ステージ裏のカーテンの袖から現れた二人。痩せ身のスプーナーは猫背ぎみながらもまだ軽快な足取りだが、太めのダンは杖を突いての登場。すっかり白髪、そして老眼鏡と、前回以上に老けた印象は否めない。マネージャー氏に座らせてもらうような感じで椅子に腰掛けたダンが「I'm Your Puppet」のイントロを爪弾き始める。アルバム『Moments From This Theatre』、そして前回の来日公演と同じオープニングだ。ダンのフィンガーピッキングは、フレットが十分に押さえ切れていないのか、時折ミュート音になってしまっている。しかし、次の瞬間、歌い出した彼の声は、以前と変わらぬ張りのあるもの。今の容姿からは想像できないくらいだ。(下の映像は、『Moments From This Theatre』と同じ1999年当時のもの)

2曲目は、黒人女性ヴォーカルグループ、スウィートインスピレーションズの68年のヒット「Sweet Inspiration」。2曲目の選曲もかのライブアルバム、そして前回の来日公演と同じ。おそらく、コンサートの始まりの流れは長年ほぼ定番になっているのだろう。ダンの張りのあるヴォーカルに、スプーナーのワーリッツァーピアノと絶妙のハーモニーヴォーカルが加わる。目を瞑って聞けば、まさにアルバム『Moments From This Theatre』の世界がそのまま再現されていると言ってもいいだろう。徐々に脂が乗ってきた感じのダンは、時折曲の初めにその曲のエピソードなどを語ってくれるが、南部訛りのお爺さんの喋り方なのでよく聞き取れない。ただ、数多くのアーティストにカバーされている名曲「The Dark End of the Street」を歌い始める前には、「この曲は、ジェイムズ・カーの歌が一番。彼がここにいてくれたらいいのに」と言うライブアルバムと同じ紹介をしていた。(下の映像は2010年代前半のものか)

スプーナーのワーリッツァーの音も、熟練職人の趣き。結構適当に弾いているように見えるのだが、ダンのヴォーカルやギターの抑揚に絶妙に絡んでくる。ワーリッツァーと言えば、かつてはレイ・チャールズ、近年ではノラ・ジョーンズが有名だが、ダン・ペン&スプーナー・オールダムの音楽はノラ・ジョーンズの音楽とも相性が良いだろうなとふと思った。尊敬するミュージシャンとのコラボレーションも多いノラ・ジョーンズだが、ダン・ペンと共演しても面白いだろうと思う。

アレサ・フランクリンのために書いた「Do Right Woman, Do Right Man」、ジャニス・ジョプリンが取り上げた「Woman Left Lonely」などの名曲が続く。女性のプライドや寂しさ、女心を歌ったこういった曲を書くダン・ペンの観察力/描写力は演歌の作曲家にも匹敵するところ。

コンサートも終盤になってくると、ダンは譜面台の上にあるファイルをペラペラとめくりながら、次は何を歌おうかという感じでだいぶリラックスした雰囲気。2019年の時にも感じたのだが、親戚の家に招かれ、リビングルームで親類や友人たちのために余興で歌ってくれているかのようなアットホーム感に満ちている。実際、客席最前列右端の席にはダンの奥さんと思しき高齢のご婦人や親類縁者のような人も座っていた。

近作としては2020年にソロ・スタジオ新作『Living On Mercy』を発表しているダンだが、今回はそこからの曲はなく、前回同様ほぼ『Moments From This Theatre』に準じた選曲。最後の曲も、同作でアンコール前のラストに入っていた、しみじみとした佳曲「I'm Living Good」だった。前回は2回のアンコールに応えてくれたダン&スプーナーだったが、今回アンコールはなし。それでも16曲を歌ってくれたのだから、80過ぎの老人にしてはすごいことだと思う。今回こそ本当に見納めだろうと考えると少し淋しい気持ちにはなったが、それも含めていろいろな意味で感慨深いコンサートだった。

LivePhoto📸】 9/30(Sat) 『Dan Penn & Spooner Oldham』 伝説的ソングライター・デュオ、ダン・ペン&...

Posted by Billboard Live OSAKA on Saturday, September 30, 2023

Setlist: 9/30/2023 (Billboard Live Osaka, 1st stage)

  1. I'm Your Puppet

  2. Sweet Inspiration

  3. The Letter [a cappella]

  4. Cry Like a Baby

  5. Do Right Woman, Do Right Man

  6. I Met Her in Church

  7. Lonely Woman Makes Good Lovers

  8. You Left the Water Running

  9. The Dark End of the Street

  10. Out of Left Field

  11. Nobody's Fool

  12. Woman Left Lonely

  13. Hello Memphis

  14. Come On Over

  15. [Unknown gospel tune]

  16. I’m Living Good

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