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ドゥービーブラザーズ コンサートレビュー(2023年4月25日 大阪フェスティバルホール)

前回2017年4月の来日からちょうど6年、ドゥービーブラザーズの大阪公演(2日目)に行ってきた。今回は2021年から続く「50th Annivesary Tour」の一環としての来日。このツアーの最大の目玉は、マイケル・マクドナルドが正式メンバーとして参加していることだ。

マイケルは、ゲストという形であれば、96年の『Wildlife Concert』や2010年のアルバム『World Gone Crazy』にも顔を出していたが、フルタイムのツアー参加で、しかもトム・ジョンストンと同じステージに立つとなれば、トムが体調を崩した後、短期間復帰した76年頃のツアー以来ということになるはず。元々タイプの異なる音楽性を持つふたりが同じステージでどんな音を聞かせてくれるのか、マイケルがどういう形でどの程度フィーチャーされるのか、興味6割・怖さ4割という気持ち。そんなわけで、このツアーのセットリストや情報は敢えてできるだけシャットアウトして当日を迎えた。

ほぼ定刻の夜7時。ホールが暗くなり、まずはマイケル・マクドナルドがひとりで現れる。おもむろにゴスペルタッチのエレクトロニックピアノを奏で始めるマイケル。彼のソロパフォーマンスで厳かに始める粋な計らいか?と思いきや、すぐにパット・シモンズとジョン・マクフィーが登場し、パットのアコースティック・フィンガーピッキングにジョンのドブロが絡むおなじみのイントロ展開。そして、一瞬の静寂の後、リズムセクションが一斉に加わり、71年のデビューアルバムのオープニング曲「Nobody」(2010年の『World Gone Crazy』でも再演)が始まった。小気味良いアコースティックギターのカッティングにパワフルなリズムセクションが加わり、そこに分厚ヴォーカルハーモニーが重なるという、ドゥービーサウンドの真骨頂。他のバンドにはできそうでできないこのサウンドにいつもながらゾクっとしてしまう。

続く2曲目は、75年のアルバム『Stampede』からのスマッシュ「Take Me In Your Arms」──ホランド-ドジャー-ホランド作のモータウンカバーで、81年にドゥービーが来日した際のインタビューでマイケルが「一番好きなドゥービーの曲」に挙げていた作品だ。81年に見た来日公演でもマイケルがリードヴォーカルを取っていたと記憶しているが、今回はジョン・コーワン、マイケル、トムが順にリードヴォーカルを取る構成。なるほど、一見全くタイプの異なるように見えるトムとマイケルだが、ことR&Bに関しては、アプローチこそ異なるものの、共通したバックボーンを持っている。今回の共演ではその共通項を押し出してくるのか──そんなふうに思ったところで、続く3曲目のイントロ。マイクのキーボードがニューオリンズのセカンドラインのリズムを刻み始める。リトルフィートを思わせるうねりの中、始まったのはアルバム『Minute By Minute』のオープニングを飾るマイクの作品「Here To Love You」。70年代末から80年代初めにかけて多くのAOR系アーティストがこぞって模倣したマイケル・マクドナルド独特のリズムスタイルを象徴する1曲だ。とはいえ、このリズムはニューオリンズのセカンドラインがベースになっているわけで、今回は、より泥臭い演奏でそのルーツを鮮明にし、オリジナルバンドの南部志向との融合を図ったかと一瞬納得。ただ、洗練されたレコードのバージョンを聞きなれている耳には演奏が少し粗く感じられる上、肝心のマイクの声が気張りすぎていて苦しそう。(下の動画は、YouTubeにアップされていた当日の演奏)


このマイケルの「気張りすぎ」感は、残念ながら最後まで続くことになった。単に歳のせいで声が出にくくなってしまっているのか、それとも彼の曲がバンドの音に合わないのか……  実際、今回のリズムセクションの音は、前回2017年に比べて少しドタバタしている印象があった。会場全体のPAシステムの問題か、あるいはたまたま前から9列目の左端という大型スピーカーに近い席だったせいか、低音が響きすぎており、マイケルがそれに負けじとがなっているように映った。そのせいか、バンド全体の音にもグルーヴ感があまり感じられなかった。3人のギタリストはそれぞれ素晴らしい演奏を披露していたので、問題があるとすればリズムセクションかと思うが、2017年から変わっているのは、マーク・キニョーネスというパーカショ二ストが加わったことと、キーボードがビル・ペインからマイケル・マクドナルドになったこと。

確かにパーカショ二ストが叩く低音の打楽器がやたらと心臓に響いたのだが、全体のまとまりという点に関して言えば、やはりメンバーとしてのマイケル・マクドナルドの参加が少し苦しいのではと感じてしまった。彼のキーボード云々というよりも、マイクの曲になるとバタつき感が出て、流れが停滞してしまうのだ。1981年に私が初めてドゥービーを見た時には、マイクの曲とトムやパットの作品が意外にも見事に共存しているのに感動した覚えがあるが(ちなみにその時の「Listen To The Music」のリードヴォーカルは、故キース・ヌードセンだった)、今回はマイク自身の声が苦しそうなせいもあるが、全体に彼の曲の良さが活かされていないように思えた。元々けんか別れしたわけではないだけに、トムとパット中心の再結成後のドゥービーにマイクがいかに馴染むか──そこに期待していた分、残念に思えた。パット・シモンズにしても、前回に比べると少し発声がキツそうだった。74歳という年齢を考えれば、ある程度仕方ないことだろう。そこへいくとパットと同い年のトム・ジョンストンは相変わらずパワフルで、70年代の全盛期にドラッグの影響下で途中リタイアしたとは思えないほど溌剌としていた。

パット・シモンズ(左)とトム・ジョンストン(右)

バンドの音に関しては、往年の曲よりも2021年に出た最新アルバム『Liberté』からの曲の方が安定していたように思える。中でもトム作の「Don't Ya Mess With Me」は、彼らしい粘っこいヴォーカルが際立ち、今回のライブでその良さを再認識できた。とはいえ、やはりバンドとして溢れ出てくるものが感じられなかったのは事実だ。手を抜いているわけではないだろうが、プロらしく「こなしている」──そんなふうに感じられた。2021年からずっとこの50周年記念リユニオンツアーを続けているドゥービー。来日前にはオーストラリアツアーもこなしており、日本でも7都市(計8公演)を回っている。年齢も考慮すれば、多少「おざなり」になってしまうのもやむを得ないところ。さらに、前回も感じたのだが、マーク・ルッソのサックスはやはりドゥービーの音には合わない。そもそも「South City Midnight Lady」や「Black Water」のようなアコースティックな曲にサックスの音が合わないこともあるが、それでもコーネリアス・バンパスがサックスを吹いていた時はさほど違和感は感じなかったし、もっと前のタワー・オブ・パワーやメンフィスホーンズのホーンセクションは効果的に機能していたのだが、ルッソのサックスはまるでお囃子の合いの手のようで、本人や彼のファンには申し訳ないが、ほとんどの場合、曲の邪魔をしているように聞こえてしまう。

マーク・ルッソ(左から2人目)かつてはタワー・オブ・パワーやケニー・ロギンズのバンドにも在籍。

私は初期ドゥービーのファンにありがちな「アンチ・マクドナルド派」ではないが、今回感じたのは、マイケルにはやはりソロとして自分の好きな音楽をじっくりやってもらい、たまにドゥービーにゲスト参加してもらうくらいの方がいいのでは、ということ。ドゥービーをリアルタイムで知った時にすでにマイケル時代だったこともあって、私自身は前期の音も後期の音も別の次元で大好きなのだが、だからこそ余計マイケルには、直近のソロ作『Wide Open』の前半数曲のような彼らしい音を追求してほしいと思ってしまう。次回は、あわよくばビルボードライブのような小さめの会場で、弾き語りでじっくりと歌ってほしい。

この日のコンサートでバンドの高揚感が最も感じられた曲は、中ほどに演奏された「Clear As Driven Snow」(『The Captain And Me』からの作品)。アコースティックで始まり、後半になるにつれて音が分厚くなっていく、ドゥービーらしさ全開の曲だ。前回の来日公演でも演奏されていたが、ヒット曲ではないこういった曲をセットリストに継続して入れているというのは、やはり本人たちが演奏していて楽しいからではないだろうか。プレーヤー自身が演奏を楽しんでいるかどうかの空気感というのは、やはり聞いている者に伝わる。鬼籍に入る元メンバーたちも多い中、彼らがこの先どのくらい演奏を続けてくれるか分からないが、大規模なツアーであまり無理をすることなく、本人たちが心底楽しめる程度の頻度と規模で音楽を続けていってほしい。


[セットリスト]

  1. Nobody

  2. Take Me In Your Arms

  3. Here To Love You

  4. Dependin' On You

  5. Rockin' Down The Highway

  6. Easy

  7. South City Midnight Lady

  8. Clear As Driven Snow

  9. It Keeps You Runnin'

  10. Another Park, Another Sunday

  11. Eyes Of Silver

  12. Better Days

  13. Don't Ya Mess With Me

  14. Real Love

  15. World Gone Crazy

  16. Minute By Minute

  17. Without You

  18. Jesus Is Just Alright

  19. What A Fool Believes

  20. Long Train Runnin'

  21. China Grove
    [Encore]

  22. Black Water

  23. Takin' It To The Street

  24. Listen To The Music

[バンドメンバー]
Tom Johnston (Gu., Vo.)
Patrick Simmons (Gu., Vo.)
John McFee (Gu., Steel, Fiddle, Harmonica, Vo.)
Michael McDonald (Key, Vo.)

[ツアーバンドメンバー]
John Cowan (Ba., Vo.)
Marc Russo (Sax)
Ed Toth (Dr.)
Marc Quiñones (Per.)

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