女装した話 2023/03/08
・一般人で女装したことがある人はなかなか居ないんじゃないかなと思ったので筆を取ります。
そんな面白い話じゃないけど。
高校生のころ、学校祭のステージでチャイナドレスを着て女装をした話。
・今より10年以上前、僕が高校2年生のころ。
小さなド田舎の高校に通っていた。
夏に例年通り学校祭が開催されることになり、生徒会が決めたプログラムに沿って人員が配置されることに。
ホームルームの時間で担当する係が決められた。
クラス毎の出し物、生徒会企画、カラオケ大会、教室での出店などなど、まあ普通の高校の学校祭と変わらないだろう。
目立つのが嫌いな僕はクラスの出し物の映像制作の方に立候補した。
ド田舎なのでクラスの人数は20人ほど。
1人1つの担当だと手が足りないので何個も係を掛け持ちする空気になっていた。
・順調に人員配置が決まっていったが、一つだけ誰も手を挙げないものがあった。
生徒会企画の『男装・女装コンテスト』の欄。
今のご時世じゃいろいろ言われそうな企画だけど、まあ10年以上前の話なので。
男装の方は目立ちたがり屋の女子が即座に立候補していたが、女装の方は一向に誰もやりたがらない。
結局、他の係が全て決まったあとも女装の欄は空欄のまま。
誰かが立候補しないとホームルームも終われない。
だからと言って誰も立候補しようとしない。
イケメンが居れば女子からの需要や推薦もあっただろうに、残念ながらクラスには芋っころばかり。
「お、俺、やってもいいよ」
静まり返った教室に弱々しく響く声。
クラス全員で声の方向に振り向くと、普段クラスで一言も声を発さないようなヒョロガリくんが顔を真っ赤にして立っていた。
彼はまあ今風に言うと陰キャ中の陰キャ。
特に誰からも嫌われている訳では無いし、陰キャグループの中ではまあそこそこ楽しそうに過ごしているような印象。
学年でただ1人剣道部に所属していて、部活仲間もいない。
あまり話したことはないけど、まあ優しい人だよね…。というイメージをクラス全員が持っていたと思う。
聞いた話だと弟も妹も何人もいる大家族の長男だそうで。
持ち前の責任感で勇気を出してこの重苦しい空気をうち払ってれたのかな。
・その声にクラスはヒソヒソとどよめき
「あ……、ま、まあやってくれるなら……」
「誰かに言わされてんじゃないの?」
「あいつ女装させたらイジメとか言われるだろ」
「というか女装姿見たくないんだけど」
と否定的な小声がチラホラと聞こえてきた。
せっかく彼が勇気を出して、みんなの犠牲になろうとしているのに。
ひとまず彼が女装をする運びになり、ホームルームは重苦しい空気のまま閉じられた。
・彼の勇気に当てられたのか、陰口に腹が立ったのか、僕は居てもたってもいられなくて。
ホームルーム直後に彼の席まで走った。
「ねえ、ほんとに女装やりたかった?」
「いやいや、できることならやりたくないけど……
でも誰かがやらないといけないし、みんながやりたくないなら……」
「そんな無理してステージ立ったらさ、せっかくの学校祭なのに嫌な思い出にならない?」
「俺はもともと楽しみにしてないし……
てか去年もやったからもうどうでもいいよ」
(あっ、そういえばやってたな……)
それで思い出した。
同じような理由で1年の時も立候補したのだろう。
特に交友関係の無い彼は特に化粧もせず学校にあった予備の女子の制服を着てステージに出たんだっけ。
ネタに振り切る訳でもなくて、すごい空気になってたな……。
このままじゃ誰も得をしない。
彼も嫌々だし、見てる方もつらい。
生徒会側からも「あのクラスやる気のあるやついないの?」と思われるだろう。
「ちょっと相談なんだけど、俺が代わりに女装やっていい?実はちょっとやってみたかったんだけどなかなか言い出せなくてさ」
勢いで言ってしまった。
女装なんて全く興味もない。
ただ彼の自己犠牲心が痛ましくて。
それに彼よりかは女装に向いている自信があったし。
「え、大丈夫なの?」
「無理言ってごめんね、多分まだ大丈夫だと思う!」
と何の根拠もない返事をしてその場を離れた。
・学級委員長、担任の先生、その他周りの人達に事情を説明した。
すんなりと、というかむしろ好意的に事が進んだ。
まあ彼がやるよりはマシだと誰もが思ってくれたのだろう。
ギャルっぽい女友達に化粧も頼んだ。
案外ノリノリでやってくれることに。
自分がそこそこの交友関係を持っていて良かったと心から感じた。
・残るは当日の衣装の手配。
背の高い女子から制服なり借りるとして、流石にカツラは被った方がいいかな。
ド田舎にドン・キホーテなどの店はなく、今ほど簡単に通販も使えなかった。
そこで旭川で一人暮らしをしている姉に事情を説明し、カツラを買って送って貰うことにした。
姉から届いた荷物の中には、黒髪ロングのカツラと頼んでもいないのに真っ赤でド派手なチャイナドレスが入っていた。
家の中だし1回着てみるか……。
母が爆笑した。
う、うん。いける。いけるだろ。やるしかない。
・そして学校祭前日、男子特有の謎のノリを発動して男友達みんなで脚の毛を剃った。
その時はその場のノリを装ったけど、実際はチャイナドレスのスリットから脚が見えるから。
しっかりツルツルにしてから臨んだ。
・学校祭当日。
念入りに髭を剃り、なんなら脚の毛をもう一度剃った。
化粧をお願いした女子を呼び出し、控え室で化粧をしてもらった。
ホットビューラー?っていうのかな、アチアチの器具を目の5mm先に持ってこられてまつ毛を挟まれて恐怖した記憶がある。
当時の写真は恥ずかしくて撮っていないが、割と女子の反応は良かった。
(チヤホヤされて嬉しかった)
・『男装・女装コンテスト』の時間が近付き、20分前くらいに体育館のステージ横の器具庫にサッと侵入。
チャイナドレスとタオル、カツラを持っていて化粧もバチバチでめちゃくちゃ怪しかっただろうけど案外すんなり入れた。
器具庫でチャイナドレスとカツラを装着。(化粧をした女子にお団子作ってもらった)
胸にタオルを詰めて準備完了。
出演者のスタンバイは発表5分前だったが、まだ10分くらい時間がある。
ふと鏡を見ると、何とも言えない気持ちが湧いてきた。
「あれ、意外と……」
バチバチに化粧をしてもらい、顔から女子の匂いがする。
胸にタオルを詰めて作った膨らみを整えようと胸を触ると、なんかいけないことをしているような気持ちになってドキドキする。
スリットからパンツが見えると良くないので太ももの横の部分をセロテープで巻き、図らずとも少しもっこりするような形になっていたこともあってますます変な気持ちになる。
緊張と恥ずかしくも変な感情がぐちゃぐちゃになってパニックになった。
落ち着け、落ち着け。
これから人前に出るんだぞ。平常心を保て。
自分に言い聞かせて深呼吸をし続けた。
・スタンバイの時間になり、出演者がステージ裏に集められた。
去年の優勝者の3年生の先輩(チャライケメン)が勝つだろうと言われていたが、その先輩に舞台裏で会った途端に舌打ちと肩パンをされた。
俺、何かしちゃいましたかね?
(この時点で勝利を確信した)
・企画が始まり、1年生のクラスから出演者がステージに出ていく。
まあ1年生は制服を交換した程度。
まばらな拍手と微妙な空気になってた。
そして自分のクラスの番。
思い切ってステージに立つと、黄色い悲鳴とは言い難いような、ギャー!というような、歓声に近いような反応だった。
手応えを感じて、少し前に出て脚を伸ばしスリットを指でなぞるアレ(伝われ)をやると
「ヒュ~!!」
みたいな反応が貰えて嬉しかった。
(ちなみに女子の方はサッカー部のユニフォームを借りて、それはそれで可愛かった)
1年生の無難な仮装からのギャップで十分ステージが沸いた。
これはもらったな。
3年生のチャライケメンの先輩の番はそこそこ盛り上がったが、ちょっと俺のインパクトが強すぎてな……。ごめんな……。な
・結果発表は満場一致で自分のクラスが優勝した。
司会の先輩に一言求められて
「なんかいけないことをしている気分です」
と正直に答えた。
ステージを降りた後、吹奏楽部の先輩に写真を撮られまくった。(それはそれで嬉しい)
その揉みくちゃの後にイケメン好青年の先輩に
「めっちゃ可愛いね」
って言われながらスリットをペロッと捲られたのが1番ドキッとした。
・正義感というか責任感というか勢いでやってしまった女装だけど、思ったより良かったかもしれない。
個人的に女装をやることはないだろうけど、こういう思い出話ができるようになったから結果オーライかな。
特にオチもない話で申し訳ない。
青春の女装の経験談でした。
いらん写真
高校入試のとき、親が持たせてくれた弁当にこのジュースが入っていた。
お茶を入れてくれよ。
とはいえ頭を使った後にクソ甘いジュースは助かる。甘いもの好きだし。
ニコニコしながら飲んでいたら、他校の女子から
「入試でミルキー飲んでたヤバいやつ」
って呼ばれるようになった。
高校卒業まで一部の人からは「ミルキー」って呼ばれてた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?