いっせーのーで③

夜の街を歩くのが嫌いじゃない。夥しいほどの数の、これからの夜の時間を謳歌し、明日の英気を養おうとする人々が闊歩している、繁華街。そんな街を横断するのが嫌いじゃない。少し残業をして、帰りが遅くなろうものなら、人としての、少なくとも、社会人としての形を留めることができないほどに、酒に、モノに、人に、酔ってしまっている人々でごった返すことになる。

別にそのことに対する価値判断をしたいわけじゃない。下に見てるわけでもないし、むしろ、今となっては羨ましくさえある。そういう、夜の街で騒ぎ散らし、わけわかんなくなるまで仲間たちと時間を過ごすことは、誰にでもある程度等しく起こりうるのが大学生活だと思っていたし、そのために人よりも余計に受験生であった。しかし、結局は、それすらも自分で掴みにいかなければいけない、代物だった。努力せねば、その地位までいけぬ、小さな資本主義だった。サークルに所属せずに、一匹狼を気取っていた、ろきちゃんが生き抜けるわけもなかった。

この時間の繁華街を歩いていると、色んな人がいる。相当イライラしてるのだろうか。早歩きで自分の歩く道を絶対に他人に譲ろうとしない人。インスタライブだかポコチャだか、なにか分からないが、スマホの画面を自分の方に向けていっぱい喋っている人。明らかに電話ではない様相で。高校生カップル。いいな。極めて青春という感じがする。夢を追いかけているのだろうか。路上で漫才をしてるお笑いコンビ?かな。片方はスキンヘッドで、片方は東大大学院進学予定と書いてある。へぇそんなお笑い芸人もいるんだ。こんだけ色んな人がいるんだ。その割には、世界は、いちどでもミスを犯してしまった人に厳しすぎる気がする。

それじゃあ、みんなはこの多様性のどこに所属してるんだろうか。幼稚園の年少から一緒で、ろきちゃんが大学受験に失敗した時、駆けつけてくれた、あいつは?高校の部活一緒で、背番号をもらえるかもらえないかの当落上にろきちゃんと共に立ち、切磋琢磨したわけではないが、変な団結力を持ってしまった、あいつは?浪人してた頃、唯一喋ってくれた、あの娘は?

そのうち死ぬんだろうか。そのぐらいに思考回路が渦巻いている。色んなことに想いを巡らせられる。惨めな思いなんかいっぱいした、と思っている。親の優しさすらも辛い。もし、自分に子供がいたら、尻の軽いサークルに入れ!と言うし、今からでも、やり直せるなら、ろきちゃんはそうする。同じようなモノクロのスーツに身を包み、同じように機械的な毎日を過ごすのが嫌だ。そんなベタなことは思わない。でも、嫌だ。なんか嫌だ。どっかで何かを落としてきた気がして、この日常が嫌だ。

そんなことを考えながら、歩いていたら、繁華街を抜け、見知らぬ土地に辿り着いていた。

「いつかの忘れ物を取りにい区」…?

これが現実だろうが、なんだろうが別にいい。入ってしまえ。衝動に焦がれ、一歩踏み出した先に広がっていたのは、なんてことはない、よく見慣れた実家の風景だった。

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