天才が側に居た

ろきちゃんの高校は地元のかなり狭い範囲では、名のある進学校だった。だけど、いわゆる自称進学校と呼ばれる典型のような学校ではあった。毎週課題が課せられ、長期休みにはかなりの量の宿題が課される。とりあえず目標だけでも上を目指せ、と言われる。卒業した後にSNSなどで「自称進学校あるある」みたいなツイートを見て、笑いはしないが、あぁあったなぁと思ったのを覚えている。それでも、実際の成績は思ったように残せていなかった、と感じる。もちろん、成績よりも行きたい学校を見つけることの方が大事だろうけど、山大に行くよりも東北大に行けるなら行ったほうがいいし、東北大に行くよりも東大に行けるなら行ったほうがいい。進学校として名が通っている以上、その土壌は整備しておくべきだと思う。

ただ、これも一種の「自称進学校あるある」だと思うが、こういう学校に限って、近いからここにした、というめちゃくちゃな天才が4年に1人くらい現れる。ろきちゃんの学年の理系に、その天才はいた。最終的には、高2にして東大模試で全国1桁位に入り、そのまま東大に合格した。進研模試で偏差値109とか取ってたのを覚えている。うん。めちゃくちゃコンプレックスだった。元々、もう少しレベルの高い高校に入学したかったし、承認欲求がエグい、ろきちゃんにとって、地元のその高校で成績1位を取ることは、朝飯前にしておかなければならなかった。しかし、そのタスクの難易度は彼のせいで一気に上がってしまった。感覚的に、同じ時間でろきちゃんが1個覚えてるうちに、彼は5個ぐらい覚えていく。それでもって、勉強が好きらしくとんでもない勉強量をこなしていたという。やればやるほど、差が開いていく感覚。今思えば、高校入学当時が、1番彼に近かったんじゃないかなと思う。

やってもやっても追いつかない。いつか、とんでもない偏差値を叩き出してチヤホヤされたい、部活で活躍できなかったろきちゃんにとって、蜘蛛の糸のような願いだった。やっぱり、ろきちゃんは凡人なんだなと思うのが、模試の度に今回こそいける!と思ってしまうところだ。そんな心意気で臨んで、前回の模試とほぼ同じような偏差値の書いてある紙が返ってくる。ホントに情けない。やっぱり、あの人には追いつけない。努力だけじゃ絶対にどうしようもないぐらいの差が、彼とろきちゃんの間にあることは、明白だった。悲しいくらいに。

そんな天才だが、性格に4つぐらい難があってくれれば、支離滅裂に罵ることができた。でも、話しかければ喋ってくれるし、勉強教えてくれるし、そして、少しだけカッコいい。同期のキモトウトサみたいなのが、その天才なら、いっそのこと諦めることができたかもしれない。でも、諦めるにしては、プライドが傷つき過ぎる、人としても完成した天才彼の前では、ろきちゃんはジタバタし続けることしかできなかった。彼は一切、ろきちゃんをライバル視とか、意識したりとかしてないにも関わらず。

高校を卒業して5年。彼の名を聞かなくなった年月とイコールだ。あれはなんだったんだろうと思う。天才のように、ろきちゃんのプライドだけボロボロにして、去っていった。もちろん、もう意識も何も彼には向かない。でもこれだけは言える。ろきちゃんはまだ天才に憧れている。何かの天才ではないかと、まだ自分を信じている。だから、今日もお菓子のドーナツを食べながら、ルービックキューブを傍に置いて、パソコンのキーボードを変な打ち方でカタカタしている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?