いっせーのーで⑥

「あの!久しぶり!」
「あ!クラス一緒なんだ」
「そうだね。よろしく」
「よろしく」

週1回で色んな授業が組み込まれている。空いてる時間も意外とあって、自習なりで時間を有効活用させなきゃいけない。

もう入寮して、1ヶ月ほどにもなる。寮での生活に慣れたとはいっても、なかなかにキツかったりする。風呂トイレは共同。風呂は8時までに入らないと、閉まってしまう。一応、1人部屋ではあるが、めちゃくちゃに狭い。ベットとか、勉強机とか、軽いクローゼットが置かれていて、それ以外は、散らかってるとかではなく、足の踏み場がない。もちろん、テレビをなければ、Wi-Fiもない。娯楽に手が届く環境ではなく、いいから勉強をしろ!ということなのだろう。

1回経験している、今日の繰り返しを過ごしているはずなのに、あの時と同じだ。寮の中で友達ができない。あれから6年くらい経っているのに、結局は、そう簡単に人間は変わることなどできないのだろう。周りはどんどん結束を固め始める。あぁなんとも惨めだ。今の会社のポジションとあまり変わらないじゃないか。

結局、予備校でも喋れるのはあの子だけだ。
「おはよう」
「おはよう」
「あのさ、社会の選択科目、何取ってる?」
「日本史と倫政かな」
「私さぁ、日本史と地理とってたんだけど、地理やめて倫政にしようかなって…」

「どう思う?」
さすがに重すぎる。選択科目なんてめちゃくちゃ大事だ。もちろん、ろきちゃんの意見なんて参考程度だろうが、にしてもこの上なく、慎重に言葉を発さなければならない。でも、多分、地理の勉強辞めたいんだろうな、と思う。

彼女は小説を読むのが好きだ。いつも、何か読んでいる。
「最近、なんか面白い小説ある?」
「あー。『夜は短し、歩けよ乙女』って知らない?」
「あっ知ってる」
「あの本書いてる人の小説すごい面白い」
「へー」

その日の予備校終わり、紀伊國屋に行って、作家名で探し、その人の小説を3冊くらい買った。せめて、1週間で感想言えるようにしよう。

成績が上がり始めた。どんだけめちゃくちゃな試験時間の過ごし方をしても、あの時と同じ点数が成績表で返ってくる。どうやら、今どれだけ勉強してもあまり意味はないらしい。この予備校、模試の結果が出る度に成績上位者を貼り出すのだ。2010年代の義務教育からは考えられない。でも、本当に負けたくない、と思える。東大志望の生簀かない奴らにも、そして、彼女にも。

前期の通常講義も終了に差し掛かり、夏期講習の期間が始まる。まぁ、夏休みだけど、課金して講習に参加する的な。クラスに集まることがなくなったので、彼女とはパッタリ会うことがなくなった。倫政の講習。あっ。彼女の後ろ姿。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?