いっせーのーで②

なんとか、ギリギリに内定をもらったこの会社で働き始めて、1年半が経過した。最初こそ、もっとこうあるべきだ!もっとここをこうしたら良くなる!とか思っていたが、今は情熱とか欲望とかいったものはない。ただ、会社が終わる1700を目掛けて、パソコンを動かしている。いつか、加納部長のように、情熱的で後輩に慕われるような人間になることができるのだろうか。
「ろきちゃん、会議の資料作っといて」
加納部長の太い声が響く。加納部長は学生時代、どんな生活を送っていたのだろうか。やっぱり、男女入り混じったバカでかいサークルに所属していて、19ぐらいの頃から酒とかタバコを嗜むようになったのだろうか。少なくとも、サークルに所属せず、男3人ぐらいで固まってるだけの学生生活を送っていたそんなことを考えていたら、あっという間に、午前が終わってしまっていた。

「下で待ってるわ」
こういう言葉もろきちゃんに向けられたものではもちろん、ない。彼らはスーツに身を包み、午後からの仕事に身が入るよう、どっかの飲食店でご飯を食べに行くのだ。そんなのは、社会人になれば、当たり前のことだと思っていたが、やっぱり、何人かでご飯を食べに行ける人と、1人でご飯を食べに行ける人と、1人でコンビニで買ったご飯を食べる人に分かれてしまうものだ。高校生が仲良し同士で机をくっつけて弁当を食べたり、1人で弁当を食べたりするのと同じだ。結局、背格好と肩書きが変わっただけで、人は、人の社会はそう大きく変わらない。なかなか、社会の中での自分のポジションを変えたりすることはできない。

珍しく、昼休憩に外に出てみようか。そういう時間だから、かなり多くの人が街に出歩いている。何だろう、この感覚。懐かしさ。そっか。浪人してた時のあの街に、どこか重ね合わせているのだろう。浪人してるせいで、今会社で同期と呼ばれる人のほとんどが1個年下である。そんなの社会に入れば、いや、大学生の時ですら、なんてことはないのだ。しかし、あの1年が無ければ、なんて考えてしまうことは常だ。浪人の時のあの子は、一体何をしてるのだろうか。元気にしているだろうか。そんなことを考えていたら、結局いつものコンビニで買い物して、会社に足が向いていた。

さ、仕事仕事。

パソコンに向かって、仕事をしていると、声を掛けられた。
「ろきちゃんさん、これって大丈夫ですかね?」
部下の星野君だ。彼は優秀で、いろんな仕事を任せられている。きっと、学生時代は人間関係も勉強も部活みたいなことも器用にやりこなしていたんだろう。
「完璧じゃないですか。問題ないと思います」
「ありがとうございます」
業務連絡みたいな会話を何個か交わしていたら、1700だ。

「お疲れ様です」
よほどのことがない限り、ほとんどの社員が定時で帰路に立つ。今日も無事に…。気怠く始まった1日から解放されようとしている。気怠さからの解放感と、今日もまた、同じ1日だったという、ちょっとした後悔に苛まれて、中央交通連盟「金輪際ごめんなさい」を聴きながら、同じように来た道を戻っていく。

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