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アルミパイプのボードゲーム「AQUA PIPE」:アクアパイプが完成するまで

長年ボードゲーム製作をしていると、得意の素材が出来てきます。LOGY GAMESの得意素材はセラミック(陶磁器タイル)です。それは作り易さだったり、コスト面だったりと、同じ素材を使い続ける理由があります。
しかしながらそれは素材が変われば、また違った発想のボードゲームを作れることも意味しています。

「AQUA PIPE」制作の事の始まりは2023年末にとある懇親会で青梅市で金属パイプ加工を得意としている武州工業の林英夫さんとお会いしたことに始まります。
LOGY GAMESでは2017年に「古代建築賢者の塔」というボードゲームがグッドトイ賞を獲得していますが、お話を伺うと武州工業さんも2015年にアルミパイプを樹脂ジェインとで組み立てる玩具「パイプグラム」でグッドトイ賞を獲得しているとのこと。話が弾み、物つくりや商品化とそれを販売する難しさなどなど、とても興味深い時間を持つことができました。

グッドデザイン賞、グッドトイ賞を獲得したパイプグラム

私はパイプという素材にとても興味を持ったので、パイプの特性について色々と調べていると、パイプは空洞なため多種類のサイズを多重構造で収納することが可能なことに気が付きました。

そこでその特性と金属パイプの曲げ加工技術をフルに活かしたボードゲームが頭に浮かびました。林さんにパイプのボードゲームの商品化についてのアイデアお伝えしたところ、「パイプグラム」の経緯もあり武州工業さんでは自社での商品化は難しいが、LOGY GAMESの商品としての開発企画なら協力します。との返事をいただけました。
パイプという素材で作られたボードゲームはその構造上、他の製品では代用できない世界的にとてもユニークなゲームになります。商品化を断念するのはとても残念なので、プロトタイプ(原型)を作りアメリカのクラウドファンディングkickstarterを使って世界にリリースする企画を立てました。
武州工業さんにはそのキャンペーンの中でアルミパイプの加工技術などを宣伝することを条件に、プロトタイプを作るまでのサンプル提供などの協力をしてもらうことなりました。

ゲームはパイプをつないで水道管を作りを競うゲームです。簡単に言えばボード上にパイプを配置する3目並べ、4目並べです。最初にゲームの説明と必要な部品の図面を描いて、サンプル製作を依頼しました。

最初の図面は6x6=36マスの最大4人でプレーできるゲームを考えていました。

送っていただいたサンプルは3種類の太さのパイプとそれら(2種)をU字に曲げたものです。実際に手に取ってみないとデザインは出来ないものです。手触りや重さなど手に取って初めて分かる質感があります。実際に遊んでもらうゲームにはとても重要なファクターとなります。

最初に送ってもらった各種サイズのパイプと曲げ加工したパイプ

余談ですが、僕は新しい素材と向き合うときは必ず(とは言っても物理的に不可能な時もあるので、可能な限りが正しい言い方)その会社や工場、現場を見に行きます。 そうするとその会社が得意、不得意としているところ、色々な物が見えて来ます。 今回のアルミパイプの会社(武州工業)さんにも行ってます。現場を見ることで何が出来るのかを肌で感じることができました。

実際にアルミパイプのカットと曲げ加工をしている現場

ボードゲームの創作開始


実際のパイプから使用するパイプ駒のサイズとボードを図面化しました。最初の段階ではU字パイプは幅30mmピッチをイメージしていましたが、そのサイズで曲げのための金型必要で20万円以上かかることがわかりました。ただし幅40mmなら既に金型を持っているので、特別な諸費費用はかからずに製作が可能とのことでした。サンプルでいただいた幅40mmピッチのU字パイプでプレーに支障は無かったので、経費節約の意味もあり幅40mmピッチパイプでボード図面も作り直しました。

最初は6x6=36マスの最大4人でプレーできるゲームを考えていました。

パイプ駒の試作


上の図面を元に製作して届いた加工済みのパイプです。赤と青の色塗りまでしていただきました。サンプルなので色は外注に出さずに自社で油性ラッカーにょる手塗りで仕上げたそうです。とても綺麗に仕上がっています。

図面のサイズ通りにカットされた色塗りされたパイプサンプルです。

ここで少し商品化への問題点が見えて来ました。パイプの加工は思った以上に費用がかかることです。単管はまだ良いのですが、U字パイプの加工費が高く、沢山使うと販売価格がとても高価(数万円)になってしまいます。
そこでボードのサイズを4x4=16マスボードの2人プレーゲームです。そうすることにより使用するパイプの数を1/3に減らすことができました。またテストプレーをしていただいた皆さんの感想で多かった、U字パイプの
太さサイズの区別がつきにくいという意見を元に、細いU字パイプの高さを少し高くすることで区別がし易くしました。

パイプサイズの最終図面
指示図面の通りに加工されたパイプ駒

ゲームボードの試作


パイプ駒の製作と同時に配置したパイプ駒が固定されるボードの図面を描き製作もお願いしました。パイプ駒がボードに固定されるようなデザインにした方がプレーヤビリティーが上がると考えたからです。

最初はサンプルなので3Dプリンターでの製作となりました。完成した4x4スペースのボードはこんな感じです。

パイプ駒をボードにグリップできるのでボード上で動きにくくなります。

問題点としては3Dプリンターでの製品製作はコストと仕上がりの面で適当でないことが分かりました。解決案としてプラボードを切削加工による製作を提案いただいたのですが、コスト面と生産ロットの兼ね合いで安価での少量製作が難しいこともわかりました。

実は3Dプリンターでのボードと平行してテストプレー用にタイルボードを製作していました。これで遊んでみるとタイル製の平面ボードでも製品として遜色ないことが分かりました。タイルボードはLOGY GAMESの得意分野です。多品種少量製作が可能です。

20cmタイルで製作したプロトタイプボードげす。

仮のゲーム名としてPIPE LINEとしましたが、もう少し工夫しようと考えて「AQUA PIPEE」としてデザインを修正しました。水道管を繋ぐゲームなので、パイプに水が通るイメージでデザインしました。
タイルボードなら販売に際して色々な工夫やアドオン加工が出来ます。

タイルボードはスタイリッシュで恰好好いです。
和紙をプリントして高級感あるボードに仕立てることもできます。
オプションとしてウッドフレーム加工も追加できます。
ゲームと言うよりオブジェですね。

パイプの色塗り


さて、これで大方の方向性は決まりました。最大の難関は色塗りです。アルミニウムは非鉄金属なので通常の塗装だと剝がれやすく強度的に心配がありました。そこでアルミニウムの塗装で一番最適なアルマイト塗装で見積もりを取ってもらいました。
そうすると実に費用が高いのです。単管1本で600円、U字管1本が1,000円の見積もりでした。1ゲームに単管24本、U字管4本必要なので、塗装費だけで18,400円かかることになります。さすがにこれでは商品として値付けができません。

アルマイト加工による塗装

次に見積もっていただいたのは粉体塗料による焼成塗装です。金属製品の塗装に向いています。塗装費は1/10程度まで落とすことが出来るのですが、それでも高いです。そして効率的に塗装をする装置(治具費)が塗装以外の初期費用として15万円程度かかります。ゲームを100セット作ったとしても1セットにかかる費用は1,500円です。販売をクラウドファンディングのkickstarterを予定していますので、実現する可能性はありますが、リスクは高いです。販売数が少ない場合は費用倒れになる可能性があります。

色々と考えた末、LOGY GAMESの商品としては最初にサンプルでいただいたラッカースプレーによる手作業の塗装で好いのではという結論に落ち着きました。手間はかかりますが、費用は抑えられます。そしてゲーム作家が自分で塗ることににより、作品としての希少性を訴えることができます。
早速テスト用に100円ショップで油性ラッカーを買ってきてテスト塗りをはじめました。色々と試してキャンペーンが始まるまでに腕を上げたいと思っています。

金属製品の塗装は初めてなので試行錯誤が必要です。綺麗に仕上げるためには治具装置を作ることも必要です。手作業の良い所は単純な平面塗りだけでなく、手作業ならではのクリエーターとしてのユニークな塗装を行うことも出来ます。久しぶりに自分自身も創作を楽しもうと思っています。
kickstarterはそれを許してくれるクリエーター向けのプラットフォームなんです。

さて、この塗りの工程は「つづき」として書こうと思います。
色塗りには綺麗に仕上げるための装置(治具)がかかせません。100円ショップでお皿立てを見つけました。一度に複数のパイプの色塗りをするのに便利そうです。

色のバリエーションは7色に決めました。

赤、青、黄、緑、黒、銀、金

今回の目玉は色塗りを作者自ら行うことです。なので量産の色塗りでは決して出来ない、アーティスティックペインティングを試みました。

同じ直径サイズの単管とU字パイプの高さが同じに見えるように工夫されています。単管を重ねて置くと、通常パイプと同じように見えるように工夫もされています。

最期に早期購入特典としてU字パイプのディスプレイオブジェ制作することにしました。ちょっと洒落てるでしょ。

kickstarterキャンペーンは2024年3月13日午前10時に開始し16日間のキャンペーンを行い、3月29日無事に終了しました。

https://www.kickstarter.com/projects/logygames/aqua-pipe


結果は72人の支援者から¥1,069,509円の購入支援をいただきました。ご支援ありがとうございました。

2024/3/29 LOGY GAMES ギフトボックス山本

ルール作りの変遷と詳細


ボードゲームはルールがとても重要です。良いゲームを作るためには試遊がとても大切です。
このゲームは最初は6x6=36スペースの4人対戦ゲームとして考案しました。製作の工程で4人対戦ゲームでは使用するパイプの数が多く、非常にコストがかかることがわかりました。そこでゲームを4x4=16スペースの2人対戦ゲームに変更しました。
最初の試遊はゲーム仲間にお願いして意見を聞きました。その時点の勝利条件は同じ太さのパイプを真直ぐ4本、縦横斜めいづれかの方向に並べれば勝ちという単純なものでした。

最初の試遊

試遊をして分かったきたのは、4目並べだけではパイプの配置にとても時間がかかりプレー中の緊張感が弱くなってしまいました。そこで3目並べのパイプを4セット作れても勝ちという勝利条件を加えました。プレー感を確かめるために異なるゲーム仲間にお願いしてテストプレーをしてもらいました。

ボードも最終完成形になりました。

ゲームはとても良くなりました。これでルールは完成です。また今回の試遊で気が付いたのですが、このゲームは通常の2人プレーだけでなく、駒に敵味方の区別が無いインパーシャルゲームとして2~6人の複数人プレーでも楽しめることがわかりました。

これでゲームのルール開発はほぼ終わりになったのですが、このゲームをkickstarterキャンペーンで販売するにあたり、パイプのポスト高のために販売価格が高くなってしまいます。と言ってこれ以上使用するパイプの数を減らすことができません。ゲームが面白くなくなってしまいます。
色々と考えあぐねていると、良い案が浮かびました。3x3=9スペースのボードで行う3目並べにして、U字パイプを使わずに単管パイプだけで遊ぶゲームにしたらどうだろうと言うものです。試しにカミサン相手にプレーしてみると、ゲームとしてルールがとても良く機能していました。このセットなら販売価格をレギュラータイプにの半分程度に設定できます。
キャンペーンではこの限定セットをリワードに追加することにしました。

配置または移動で自分の色の同じ太さのパイプが縦横斜めに3目並べば勝ちです。

企業様へご提案:
日本には沢山の中小零細企業があります。小さいながらもそれぞれの会社が独自の素材や加工技術を持っています。しかし残念なことにそれらの企業の多くが下請けや業務委託などの仕事に甘んじています。ちょっと厳しい言い方をすると自社の魅力を対外的にアピールして自社の価値を上げる意欲に乏しいと感じます。
自社の価値を上げる一番の方法は自社でしか作れない商品を開発して日本や世界中に販売することです。
自社商品は企業の顔、いわば名刺となります。
自社商品作りは容易ではありません。今回協力いただいた武州工業さんも「パイプグラム」という玩具商品作りで厳しい経験をされたようです。商品作りは努力と市場を作りだすエネルギーが必要です。

ボードゲームは普通の商品と異なり既に世界に大きなマーケットがあります。kickstarterでは予約販売で数千万、数億のファンディングを獲得する企業もあります。

もし、自社の素材や技術力を利用したボードゲームという自社商品を作り世に出して世界中に自社ピーアールをしたいと野望をお持ちの経営者さん。是非お声をかけてください。
きっと一緒に好い仕事ができると信じています。

2024年2月吉日 LOGY GAMES ギフトボックス山本


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