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大好きだ。ありがとう。

始まったらいつかは終わる。

太陽が昇れば、いつかは沈む。

花が咲けば、いつかは枯れる。

動物が生を受ければ、いつかは死ぬ。

それが自然の摂理だ。永遠なんてない。日のあたる時間が長いか、短いかただそれだけだ。


そんなことはわかっている。

そんなことは十分承知でも、なにかがこの世からいなくなるのは悲しい。

永遠なんてなくていい。だけど、できるだけ長い間、一緒にいたい。



小学生のとき、彼は我が家にやってきた。兄が連れてきた。

ペットショップで売れ残ってしまい、保健所で処分されることが決まっていた彼をかわいそうに思った兄が家に連れて帰ってきたのだ。

彼はすぐに家族の一員になった。兄は親愛なる兄貴、姉は恐れ多いが元気をくれる姉貴、私のことは自分の手下とでも思っていただろう。彼は兄姉が家に帰ってくると盛大に玄関でお迎えをするが、私を迎えにきたことはほとんどない。迎えにきても「うわー!帰ってきた!」というよりは、「お、帰ってきたか」ぐらいのテンションだ。床に寝転びながら、顔だけこちらを向けて、尻尾で挨拶してくるのがほとんどだった。

子どもの頃、母に兄妹みんなが怒られてると一緒に怒られた表情をしていた。

こたつには一番に入ってくるし、ヒーターの前は自分の場所だと思ってる。

食いしん坊だから、ご飯を食べてもおやつは食べるし、おやつを隠しているところは勝手に漁るし、机の上にうっかり食べ物を出しっぱなしにしてると食べられる。机の上の食べ物はいつも虎視淡々と狙っていた。

大学生の頃、帰省したときは毎朝一緒に散歩に行っていた。早朝に部屋の前にやってきて、パタパタパタパタして起こしてくる。散歩の準備をすれば「早く行こう!早く行こう!」と大騒ぎだ。


そんな彼だったが、今年のはじめに会ったときには本格的に御老体になっていて、すでに一人で階段を登ることはできなくなっていた。

だんだんできないことが増えてくる。

失禁するようになり、おしめをしなくてはいけなくなった。

噛む力がなくなり、ドックフードを食べられなくなった。

少しの段差も越えられなくなった。

まっすぐ歩くことができなくなり、歩いてもこけるようになった。何度も何度もこけるから、身体は傷だらけになった。

一人では食事ができなくなった。咀嚼しなくても食べられるご飯を準備しスプーンで食べさせる。水は少しずつ飲ませる。

そうこうしていると、寝たきりになった。寝たきりになって、こけたときの傷は治ったが、寝返りを一人でできないから床ずれになった。


毎朝起きるたびに「息をしてるのか?」と心配し、出かける前には「帰ってくるまでは生きとけよ〜」となでながら声をかける。用事が終わったら寄り道せずにすぐ帰宅する。「帰って死んでたらどうしよう」と思いながら。夜寝る前に「死ぬなよ〜」と声をかけて寝る。


なにかあると悲しげにヒィヒィ泣いていた。その声にもだんだん力がなくなってくる。寝る時間が長くなって、ご飯も回数が減っていった。排泄もなくなった。


今朝、私が私の部屋で出かける準備をしていた。玄関のチャイムが鳴り、リビングに走って行く。リビングで寝ている彼の様子がおかしい。とりあえず玄関に行き、宅急便を受け取り、リビングに戻る。

口を大きく開けて息切れしはじめる。目がいっきに大きくなる。力が消えていくようになくなっていく。大きな声で呼びかけて、トントントントンユサユサユサユサしても反応がなくなる。


彼は深い深い眠りについた。もう目は開けてはくれないみたいだ。


我が家にやってきて毎日楽しかったかな。美味しいものはいっぱい食べれたかな。幸せな人生だったかな。



またどこかで会えるかな。また一緒に散歩に出かけよう。大好きだ。ありがとう。

2020年11月13日金曜日。

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