韓国ドラマ「ヴィンチェンツォ」：腐ったリンゴと凹んだヤカン

「ヴィンチェンツォ」を見終わった。完全なるロス状態だ。2PMもたくさん検索したし、5月7日のソン・ジュンギ氏のYouTube配信も見た。「知ってるお兄さん（아는 형님）」にチョン・ヨビン氏が出ている回も見た。もし登場人物の中で誰かになるなら、チプラギの事務長さんかピアノ学院の院長になりたい。

あらすじ

イタリアマフィアの顧問弁護士（コンシリエーリ）ヴィンチェンツォ・カサノは、雑居ビル「クムガ・プラザ」の地下に埋めた金塊を掘り起こすためイタリアから韓国へ向かう。金塊を取り出したらすぐに韓国から離れる予定だったが、「クムガ・プラザ」の住人に立ち退きを要請するところで悪徳大企業「バベル」との法廷闘争に巻き込まれる。

「クムガ・プラザ」の住人たちとプラザにある法律事務所「チプラギ（藁）」、大企業「バベル」とその弁護を務める弁護士事務所「ウサン」との壮絶なる戦いは韓国国内を揺るがす富と利権の問題にまで発展する。

*以下ネタバレを含みます。とてもいいドラマなので最終回までぜひみてください。

"腐ったリンゴ" と "凹んだヤカン"

腐ったリンゴ（エピソード10）と凹んだヤカン（エピソード12）の例えが印象的だった。どちらも「元には戻らない」ことを身近なもので表現している。腐っているものは腐っているし、凹んだものは凹んだまま、ということだ。

それぞれのシーンを振り返りたい。（*以下「」内はNetflixでの邦訳、（）内は筆者補足）

『腐ったリンゴ』：エピソード10

南東部検察庁のチョン検事はチプラギを訪れ、ヴィンチェンツォらに捜査協力を求めるが、2人に断られる。応じてもらえなかったチョン検事は「私を信用できないですか？」と尋ねる。

チャヨン：「（検事さん）あなたじゃなくて、あなたの組織を信用できない」

検事：「あなたの言葉はよく理解できます。でも、まともな検事だって大勢いるんです」

と言ったところで、ヴィンチェンツォがリンゴで例え話を始める。

ヴィン：「ここにリンゴがあります。こっちは、こっちは腐っています。そして、、、こっちは腐ってない。ちょうど半分ずつです（半分腐っていて半分腐ってない状態）。では、このリンゴは腐ってないんでしょうか？　

・・・私たちは、このリンゴを腐ってると見なします。あなたは腐ってなくても、あなたの組織は腐ってるんです。」

検事は「話が飛躍してる」と指摘するが、チャヨンは、

チャヨン：「組織は厄介ですね。リンゴは腐った部分を取り除けるけど、組織はそうはいかない」

と話を続ける。

ヴィン：「まともな検事が大勢いると言いましたね、きっとそうでしょう。でも、そう言ったところで腐ったリンゴは戻りません」

チャヨン：「最悪なのは、腐ってない部分も結局は腐るということ」

ヴィン：「「レ・ミゼラブル」にこんな言葉が（ありますね）、”正義とは完全無欠な時のみ正しい”」

検事は絶句して、2人へ協力してもらうことを断念する。

ドラマと現実は切り離さないといけないとは分かっていても、昨今の日本の国内情勢を想ってしまう性。黒川検事長が賭け麻雀で辞職したことを思い出した（参考）。いくら他の検事が清廉潔白で汚れがなくとも、少しでも腐ってたら徐々に全部が腐っていくのだ。

ドラマの中ではチョ検事も最終的にはヴィンチェンツォらを裏切ることになる。このリンゴの話は単なる例え話ではなくなってしまう。

私も何か腐っているものに加担させられようとした時は、このリンゴの例え話を思い出そう。そんな機会があるかどうかは不明だが、心にヴィンチェンツォをだ。

『凹んだヤカン』：エピソード12

クムガ・プラザに大量の金が埋まっていること知った住人たちは、専門家に掘り当ててもらう手配をする。そのことをヴィンチェンツォらに知らせに来る。

チャヨンと事務長は埋蔵金の存在に驚く。チャヨンは以前ヴィンチェンツォから教えられたことが本当だったことに気がつくが、何も知らされていなかった事務長は嘆く。

住人らが事務所から出たあと、3人で埋蔵金の分け前を相談していると、情報院の幹部であり今はヴィンチェンツォの潜入捜査のためレストランで調理補助をしているアン君が事務所にやってくる。

アン君はヴィンチェンツォに挨拶もそぞろに「情報院のこと」と話を始めてしまう。事務長はアン君が情報院の幹部であることは知らないため、頭が？？？でいっぱいになっている。

事務長：「「情報院」って？」

チャヨン：「あぁ、知らなかったのね。彼（アン君）は対外安保情報院の二重スパイなのよ、（すごいでしょ）」

事務長：「「二重スパイ」？？」「また僕だけ知らなかった。おかしいな。なぜ、いつも僕だけ？僕は、このやかんと同じくらいの存在？」

（薬缶を手に取る）「へこんでて痛そう。僕の心みたい。」

コミカルなシーンだし、事務長の明るいキャラクターのおかげで深刻には見えないが、いじめの始まりはこんな感じだろう。最初は気にならないくらいのことがだんだん引き返せないぐらいの痛みになる。

凹んだヤカンは綺麗な状態には戻れない。修理はできても、凹んだ事実を消すことはできないし、修理した事実も消せない。心も傷がついてしまうと傷がついていなかった状態には戻れない。同じような感じだ。

ドラマ「ヴィンチェンツォ」にもいろんな人生といろんな教訓が込められている。そのなかでも、この2つは身近で、どんな時代に見ても「的を射ている。」と思える事柄だろう。ヤカンとリンゴのチョイスも良かったと個人的には思っている。

キャスト

最後にキャストだ。これは私自身のための大きなメモだ。

「ヴィンチェンツォ」に出ていた俳優陣は人気者ばかりだった。名前は覚えてなくても、顔を見たら、「あ！あれにも出てたよね！！！」という感じだったと思う。今後はおそらく「『ヴィンチェンツォ』に出てたよね！」となるはずだ。

▷ヴィンチェンツォ・カサノ　／ソン・ジュンギ
　　イタリア・マフィアの顧問弁護士。
▷ホン・チャヨン　／チョン・ヨビン
　　ウサン法律事務所の敏腕弁護士。のちに父の法律事務所チプラギを継ぐことになる。

▷ホン・ユチャン　／ユ・ジェミョン
　　法律事務所チプラギの代表弁護士。人権派の弁護士であり、チャヨンの父である。

▷チャン・ジュヌ（チャン・ハンソク）　／オク・テギョン（2PM）
　　ウサン法律事務所のインターン、チャヨンの部下。のちにウサン法律事務所に正規雇用されるが、チャン・ハンソクとしての本当の姿を表す。
▷チャン・ハンソ　／クゥク・ドンヨン
　　大企業バベルの会長。のちにチャン・ハンソクの弟と明かされる。
▷ハン・スンヒョク　／チョ・ハンチョル
　　ウサン法律事務所の代表。
▷チェ・ミヒョン　／キム・ヨジン
　　東南部地検の検事。スンヒョクに誘われ、ウサン法律事務所のシニア弁護士として転身する。

＜クムガ・プラザの住人と関係者＞
▷ナム・ジュソン　／ユン・ビョンヒ
　　法律事務所「藁」の事務長。
▷チョ・ヨンウン　／チェ・ヨンジュン
　　クムガ・プラザのオーナー。ヴィンチェンツォと金塊のことを共有している。
▷イ・チョルウク　／ヤン・ギョンウォン
　　質屋の社長
▷ソ・イェファ　／チャン・ヨンジン
　　イ・チョルウクの妻。
▷タク・ホンシク　／チェ・ドクムン
　　クリーニング屋の社長。
▷トト　／キム・ヒョンムク
　　イタリア料理店のシェフ。
▷レリー・カン　／キム・ソルジン
　　芸術家、ダンス教室院長。
▷クァク・ヒス　／イ・ハンナ
　　ヨンホ食堂の社長。
▷キム・ヨンホ　／カン・チェミン
　　クァク・ヒスの息子。
▷ソ・ミリ　／キム・ユネ
　　ピアノ学院の院長。
▷ジョクハ　／リ・ウジン
　　暖薬寺（ナニャクサ）の住職。
▷チェシン　演：クォン・スンウ
　　暖薬寺の僧侶。
▷オ・ギョンジャ　／ユン・ボギン
　　ホン・ユチャンが国選弁護人を務めている女性。

＜アント・カンパニー＞
▷パク・ソクド　／キム・ヨンウン
　　悪徳業者アント・カンパニーの代表。クムガ・プラザの住人に立ち退きを迫る。
▷チョン・スナム　／イ・ダル
　　ソクドの右腕。
▷ミ・スヤン　／チョン・ジユン
　　アント・カンパニーの会計担当。

＜対外安保情報院＞
▷アン・ギソク　／イム・チョルス
　　対外安保情報院、イタリア組織犯罪対策チーム長。ヴィンチェンツォを調査する。
▷テ・ジョング　／クォン・テウォン
　　アン・ギソクの上司。国際安全保障情報機関院長。

＜新光銀行＞
▷ファン・ミンソン　／キム・ソンチョル
　　新光銀行の代表。ヴィンチェンツォに一目惚れする。

多くの人がInstagramやYouTubeでいろんなまとめ動画や画像がつくっている。ブログ記事もたくさんあった。それだけ多くの人に愛されている作品だ。「愛の不時着」では北朝鮮情勢を話したくなった人たちがいたように、「ヴィンチェンツォ」ではイタリアのマフィアのことを話したくなる人もいるだろう。マフィア映画の話をしたくなる人もいるだろう。Netflixは世界に配信される点、拡散力がhuluやTVerとは比べものにならないし、話題も尽きない。Netflixの韓国ドラマは秀作ばかりだが、この「ヴィンチェンツォ」もなかなかの秀作だった。