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蛙亭「おもしろければ、いいんでしょ?」トガっていた初舞台|お笑い芸人インタビュー<First Stage>#4(前編)

2020年4月に上京した蛙亭。コロナ禍にもかかわらず、東京でブレイクを果たしたふたりに、10年前の《ファースト・ステージ=初舞台》について聞く。

イワクラの書く狂気や甘酸っぱさが独特にブレンドされたコント。ベテラン芸人にも称賛される演技力を持つ中野の飄々とした佇まい。そんな蛙亭のエッセンスは、初舞台のころにはすでにたぎっていたようだ。

「若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>」
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

初めて人前で披露したのは「包丁のコント」

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イワクラ

──昨年の上京後、ブレイクしている蛙亭ですが、おふたりは初舞台って覚えていますか?

中野 コンビを組んだのがNSC入学後の2011年5月で、6月の『キングオブコント』1回戦が初舞台よな?

イワクラ うん、初めての人前はキングオブコント。

中野 僕、芸人になる前はJRで働いてたんですけど、そのときの先輩が観にきてくれてましたね。場所は覚えてますけど、ネタはなんだったかなぁ。

イワクラ 1回戦は何やったんだっけ。2回戦は私がネタ飛ばしたの覚えてるけど。同じのじゃなかった? 場所ってちっちゃいとこ?

中野 上本町の……なんだっけ?(注:大阪国際交流センター。蛙亭は2011年6月29日のKOC2011の1回戦に出場)

イワクラ じゃああれか、包丁のコントか。

中野 そうだ。ただ、僕らもちろん1回戦で落ちたんですけど、初日にエントリーした人だけ、再エントリーできるルールがあって。だから2回目の1回戦で通ったんですよね。一発目は包丁のネタで落ちて、再エントリーで別の『女子おしゃれ500メートル』っていうネタをやったら通って。2回戦も同じのやったんですけど、そこでネタ飛ばしちゃって。

──ちなみに一番最初に人前で披露した「包丁のコント」ってどんなネタですか?

中野 僕がラジオDJ役で、アイドル役のイワクラが番組に来るんですね。アイドルの子が特技のルービックキューブとかイラストを披露して、僕は「ラジオだから見えないよ〜」ってツッコむんです。そこで怒ったイワクラが包丁を出して脅すという。ラジオDJの僕としても放送事故は絶対に避けたいから、放送上は平静を装って、なんとかイワクラに対処する……っていうネタでしたね。

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中野周平

──当時からネタはイワクラさんが考えていたんですか?

イワクラ たしかボケは私が考えて、全体の流れは中野さんが作ってましたね。だから「ルービックキューブ」とか「包丁」とかは私が考えて。

中野 NSCで講師の方に「君らは今後も困ったら包丁使いそうだから、封印しなさい」って注意されてな。

イワクラ NSCのときってみんな殺す的ななんでもアリな怖いのがおもろいって思ってるんですよね。

中野 裏切りの部分をバイオレンスにしちゃうという。

──それからは講師のアドバイスは受け入れて……。

イワクラ いや、NSCのときは「別におもしろければいいでしょ」と思ってたんで、最初は無視してました。

でも、お客さんの前でやったらウケなくて、そこで初めて「やっぱりダメなんだ」って気づきましたね。NSCで教わったことって案外タメになってるんで、マジ行ってよかったなって思います。

NSCの授業が嫌で泣くイワクラ

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──でも、イワクラさんってあんまりまじめにNSC通われなかったんですよね。

イワクラ あっ……。

中野 ははははは(笑)。

イワクラ おい、ネタ見せとかはちゃんと行ってただろ。ただ、ダンスの授業とかがめっちゃ嫌で、特に柔軟が最悪だった。

中野 あれな。コンビはペアでストレッチとかやらなくちゃいけないんですけど……。

イワクラ 私、中野さんとペアで柔軟するのがすごく気持ち悪くてストレスだったんですよ。柔軟のあとに発声練習があったんですけど、私はでっかい声出すのが恥ずかしくて声が小さかったから、先生にめちゃくちゃ怒られて。でも中野さんは「やー!」とか大声で言ってて、「キモっ! めっちゃでかい声出すやん」って思っちゃって。

中野 僕はまじめにちゃんとやってるんだから。僕が合ってるんですよ。

イワクラ 合ってるんだけど、キモかった……。私はずっと怒られてるのに何?と思ったら、しんどすぎて泣いちゃって。あのときはその場で泣いたっけ? 終わってから泣いたっけ?

中野 どっちだっけなぁ。そうやって泣くこと何回もあったからなぁ。

イワクラ とにかくしんどすぎましたね……。そういうので行かなくなりました。まあ、だらしない性格っていうのもあったんですけど。

サボるイワクラと皆勤賞の中野

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中野 イワクラは学生時分もちゃんと行ってなかったんだろ?

イワクラ うん。

中野 僕はずっと皆勤賞タイプだったんで、NSCも当然のように行ってたので、そこの意識の差は当時から如実にありましたね。

──まじめな中野さんは「ちゃんと来てくれよ」って憤ったりしなかった?

中野 当時はやっぱり「ちゃんとしてよ」って少しは思いましたよ。でもネタ見せすら来ない人もいるなか、そこはちゃんと来てたんで、だいぶマシかなと。

イワクラ そうだね。

中野 あと、僕らはNSC34期生なんですけど、当時は講師の評価が高いAクラスよりも、不まじめな子が多いBクラスのほうがおもしろい風潮があったんですよ。イワクラのおかげで、そっちに行けたので、そんなに責める気持ちはなかったです。

──蛙亭はBクラスだったんですか?

イワクラ 最初はAクラスだったんですけど、でもちょっと経ってから、Bのほうがおもしろいぞってなってな。わざとそっち行ってな。

中野 うん。Aクラスは8組くらいなんですけど、Bクラスは30組くらいいて人数多い上に団結力もあるんですよ。「Aに負けるな!」みたいな反骨心があるし、ちょっとヤンチャな子も混ざってて、Bのほうがおもしろいんですよね。

イワクラ 「Bに行きたくてわざと遅刻して落ちた」っていう友達がいて、その子に「やっぱこっちおもろいよ」って言われて。「じゃあ私も!」って、なんかの作文をわざと提出し忘れてBに行きましたね。今も仲いい人ってほとんどBクラスの人なんですよ。トニーフランクとか、なにわスワンキーズ、さや香の新山も。

中野 コンビは連帯責任で落ちるので、イワクラが落ちたタイミングで僕も落ちたんですよ。まじめな僕としてはAクラスのまま皆勤賞で卒業がベストでしたけど、たしかにBのほうが楽しそうだったので、落ちてめっちゃ嫌ということもなかったんですよね。

緊張知らずの蛙亭

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──テレビの初出演って覚えてらっしゃいますか?

イワクラ NSC卒業して1年目のとき、爆笑問題さんの『(今!この芸人がスゴイ 爆問)パニックフェイス』(TBS)の年末特番で漫才したやつですね。

──コントではなく漫才だったんですね。

イワクラ NSCで先生に「漫才のほうがイワクラさんの人柄が出るから、やったほうがいい」って勧められて、それからずっと漫才してました。

中野 卒業してから3年目くらいまで漫才だけしてたな。『パニックフェイス』は手見せがあってそんなに手応えなかったんですけど、なぜかスタジオに呼んでいただいて。爆笑問題さんの前で漫才を2分くらいさせてもらいましたね。

──初めてのテレビ出演で、爆笑問題の前で漫才ってかなり緊張したんじゃないですか?

イワクラ 緊張……しないんですよ。感情としては緊張じゃないですね、不安はありますけど。やることがいっぱいなんで、緊張する余裕がないんです。

──舞台の大きさは関係ないんですね。

イワクラ そうですね。あ、ただ、ネタに自信満々のときは緊張しちゃうので、あんまりそうならないようにしようとは思ってます。「これ絶対優勝できるやん! 完璧やん!」ってなったときほど、ミスしちゃうので。

中野 僕もほとんど緊張しないです。初めての『THE MANZAI』くらいかな。賞レースの緊張感がすごかった。でも、すっごい楽しかったし、1回戦がめちゃくちゃウケたんですよ。当時の体感でのめちゃくちゃなので、今からするとさほどだと思うんですけど、あれはすごかったです。

最初からバリキモかった中野さん

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──2011年4月にNSCに入学されたおふたりの出会いについても聞かせてください。

中野 相方探しの会です。相方がまだ決まってない人が集まって、ギャグ披露したり大喜利したりするんですけど、コンビ組めてない人しか残ってないので、残念な感じなんですよ。でもその大喜利でイワクラさんがウケてて、すごいなっていうのが最初の印象でした。そのあと「おもしろかったね」って話しかけて。

イワクラ 私の第一印象は「こいつキモっ」です。自己紹介で「アムロ・レイに声が似てるって言われます」って、声まねのまま大喜利してたんですよ。

中野 「シャアがなんとかかんとか〜」って言ってな。ガンダム全然知らないのに。

イワクラ コイツおもんなって思って。

中野 あの中ではがんばってたほうだわ。

イワクラ 似てないし、変な声だし、キツかったわ。私は大喜利が自分的にウケてなくて落ち込んでたんですよ。イケイケのヤツらが盛り上げてたんで「私はやっぱり芸人向いてないのかな、辞めようかな」って思ってて。

そのタイミングで中野さんが声かけてくれたんで、「コイツと組んだらずっと『イワクラさんおもしろいね』って褒めてくれそうだな」と思って、まず仲よくなってみました。

──すぐにコンビを組まれたわけじゃないんですね。

イワクラ 1カ月くらいはふたりでご飯食べたり、同期と一緒に遊んだりするだけでした。

中野 同期と遊ぶときも「イワクラをほかのヤツに取られるんじゃないか」って心配なんですよ。「こないだ誰々と遊んだよ〜」とか聞くと、「そうなんだ〜」と平静を装いつつ、めちゃくちゃ気になって。早くコンビ組みたいって言わなきゃと思いつつ、ダラダラ時間だけ過ぎてました。

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──コンビ結成の日はどういう感じだったんですか?

中野 その日もご飯食べてて、オッケーもらえそうな感じもありつつ、でも緊張して自分からは言い出せなくて。30分くらい無言の時間もあって。いつまで経っても言えなかったら、イワクラのほうから言ってくれました。

イワクラ 「組む人見つかった?」みたいな探り合いしてましたね。「でも◯◯さんと組もうとしてなかった?」「いや、組まんよ」みたいな不毛な探り合いをずっとしてて。中野さんが言い出しそうな雰囲気出してたんで、待っても30分くらい黙ってるから、これ、らちあかんと思って、結局私から「コンビ組んでください」って言って。

そしたら、中野さんがコップ持った手を震わせながら「喜んでいぃ?」って。「キモっ!」って思ったですけど、私から言っちゃったんで、これで組んだってことになっちゃったって思って。

中野 僕は「リスク負わずに組めたぞ! よっしゃ!」って思いましたね。してやったりでした。

イワクラ 中野さん、ほんとバリキモかったよ。

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蛙亭
2011年結成。中野周平(なかの・しゅうへい、1990年11月20日、岡山県出身)とイワクラ(1990年4月10日、宮崎県出身)のコンビ。大阪で活動していたが、2020年4月に上京し、ブレイクを果たす。YouTubeチャンネル『蛙亭のケロケロッケンロール』では撮り下ろしのネタ動画を公開中。『蛙亭のオールナイトニッポンi』(ポッドキャスト、毎週火曜18時ごろ配信)や『芸人Boom!Boom! 蛙亭の語リング☆』(stand.fm、毎週金曜日配信)など、次世代のラジオ芸人としての一面も。

文=安里和哲 写真=青山裕企 編集=龍見咲希、田島太陽

【前編アザーカット】

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