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やばない?クレープ屋

たまには普段と違う道から帰ってみるか、と思い、駅の改札を出たらうちと反対の方向の商店街へ歩いてみた。惣菜屋、衣料品店、ドラッグストア、1000円カット(前髪を切ってもらいたくてガラスごしの店主のおじさんの視野に入ってぴょこぴょこアピールしたけど相手にもされなかったので入店断念)などが並んでいて、一本筋が違ってもだいたい景色は似たようなもんだなと思った。
特にほしいものもないしそろそろ帰るかと思った矢先である。
クレープ屋があった!
女子高生がいた!

吸い寄せられるようにして私も、ひなびたクレープ屋の前のみずみずしい女子高生の後ろに並んだ。女子高生は一人で、クレープを3つ焼いてもらっていた。これからそれを持って誰かに会うのだろうか。クレープ屋の店主とはすでに見知った仲らしく「修学旅行沖縄なんですけど、3泊4日ずっとゴミ拾いなんスよ。首里城もちゅら海も行かんくて、夕食はぜんぶバイキング。やばない?」と話していた。
ひざ丈のスカートにふくらはぎの真ん中ぐらいまでの半端丈靴下を履いていて、まるで英国ガールのようなおしゃれなバランス感だなと思った。平成後期に女子高生をやっていた私にはなかった美的感覚。
っていうか、その子は「女子高生」という四字熟語がかなりしっくりくる垢ぬけようで私は尊敬してしまった。
私が17歳だったころなんて、女子で高校生だっただけでたぶん「女子高生」とかじゃなかった気がするな。なんて、他人に言われたら絶対キレてただろけど、今大人になった私が言ってるんだから本当にそうだと思うよ、ドンマイ。

「やばない?」と言われてクレープ屋のおじさんが「やばいな」と言っていたので、わかる、と思った。「それが後々いい思い出になるんだよ」とか講釈垂れてたらうるせえなと思うところだったが、「やばいな」だけ言って黙々とクレープを焼いていたのでこの人は信頼できるなと思った。
私も「最近入社した会社、忘年会が居酒屋で飲み放題じゃなくて、結婚式場でフレンチのコースなんスよ。今日、事務員のランチ会のお知らせが来たんですけど、それも結婚式できる会場でした。やばない?」と言いたくなったので、女子高生が4つ目のクレープを焼いてもらっているうしろでそのまま待機することにした。やばないっていうのは、思ってたのと違う!という驚きと、案外おもしろそうだなという期待と、あとはなんか聞いてほしいだけで語尾にくっつけたそこまでの意味はない単語。やばない?ここに並んでいると、ゴミ拾いしてバイキング食べる彼女の見てるものが見え始める気がしてわくわくした。

それで、女子高生は最後のクレープを受け取るとあっという間に路地裏に消えていき、私の順番が来たら粛々とクレープが焼かれるだけだった。小銭がそんなになかったので一番安い「バターシュガークレープ200円」にしたら、皮に砂糖が振ってあるという極めてシンプルな逸品だった。ミルクレープのクリームなしの味がするなと思った。


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