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他人をどかすゲームしてはるんか?

関西に戻ってきて2か月が経った。
それはつまり、思考と発話が一致するようになって2か月が経ったということだ。路地でねこを見つけたら「お、今日もおんねや。かわいいな」と言うし、玄関を開けて強風が吹いていたら「は?寒すぎやろ。ええ加減にせえよ」と言っている。(独り言が多いのはもともとなのでご容赦ください)

広島に住んでいた頃は、広島弁を喋っていた。
単語レベルでネイティブとまではいかないが、通算3年間住んだことで、アクセントはほぼ完璧に話せるようになった。「現場が」と言うとき、3文字目のバで高くなって4文字目のガで低くなるのが広島弁。1文字目のゲが低くてあとは高くなるのが標準語。ずっと高いのが関西弁。

高校時代に放送部でアクセント辞典を引いていたせいかおかげか標準語のアクセントはおおよそ頭に入っており、関西弁はネイティブで喋れるうえに、広島弁のアクセントまで取り込んでしまって、発話可能な言葉が3種類になってしまったのだ。

さて、どうなるかというと思考の方が混乱する。
元来私は関西弁でものごとを考えていたのに、普段聞いてしゃべっている広島弁がじわじわと侵食してくる。すると例えばPayPayが使えると聞いていたのに現金しか使えなかった時があるとした時、「なんでやねん」と思うより前に「なんでなん」と思うようになり、ツッコミというよりはなぜそんなことをするんだという疑問(呆れ混じり)みたいな感情になっていた。

先日、友人が「ぶつかりおじさん」に出会った話をしてきた。
友人は大阪育ちで、現在は横浜に住んでいる。
道の真ん中で直立不動の偉そうなおじさんがいて、彼女が邪魔だなと思いつつもぶつからないようにスススとよけた際、すれ違いざまに「よしっ」と言ったらしいのだ。
それで彼女は「他人をどかすゲームしてはるんか?めっちゃあやしい格好など※でもう一度勝負をいどみたいと思った。」という絵日記を書いていて、それを見せてくれた。
あやしい格好など※のあとには、「冬にグラサン。まっくろな服。マフィア風」のイラストと「ギャル」のイラストが添えてあった。

関西弁やなぁと思った。

「ムカつく」とは言っていないのに、ちゃんとモヤっとしたことが伝わる、絶妙な「してはるんか」。
決して「なんなんだあの人!許さない」と怒り心頭なわけではなく、「かなんわ、アホな人は」という呆れながらもシッカリと低俗な人間だなと評価したニュアンスが伝わってきた。要するに嫌味。これって関東風ならどう言い換えるんだろうか。

それを彼女に言うと、関東風で嫌味を言うなら例えば「華麗に避けたほうがかっこいいのに。イケオジになる機会逃してるね」なんてふうにそもそも別の言い方なんじゃないかと考察していた。
「どかすゲーム」という発想自体が関西人なのでは?と。
なるほど、「どかすゲーム」という本当ならありえない概念で表現にすることで怒りを笑いに変える発想自体が、関西弁に紐づいた関西人の文化ということだろうか。
文法が同じなだけで、文化が違う場合は同じ言語とは言い切れない、みたいなことを思った。少々大げさな言いぶりではあるが。(関東にだって笑いに変えるタイプの人は当然いるので)

彼女の絵日記は関西弁で考えて関西弁で記述してあったので、原液ドバドバで彼女が感じられ、かなりイイネ!と思った。
ありがたいことに私は現在、ネイティブ言語の街に住んでいる。
思考をそのまま外に出してよくなったので、頭の中で交通渋滞を起こして自分自身のことながら混乱することがめっきり少なくなったのだ。しばらくここで働いていたいなと思う。

でも別に、他の地域で思考し発話するのが嫌いだというわけではない。
いつかまた関西外(広島かも知れないし、東京かも知れないし、アメリカかもしれない)で何かを喋ることがあれば、その時にまた自分の振る舞いを観察してみよう。


「お好み焼き」を食べた。白飯と一緒に




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