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学園祭にて芋を売る

11月下旬に行われる我が大学の学園祭。私のクラスは特段騒がしい人間がいるわけでもないのに何故だかすこぶる仲が良く、誰かが『クラスで模擬店やろう』と言うと、とんとん拍子に出店が決まった。
売るのは秋の味覚石焼き芋。日に日に寒さを増すこの頃の気候にピッタリのナイスアイデアである。

迎えた初日。宣伝担当の私はとりあえず看板を掲げて吉田南グラウンドをウロウロし周囲の店を偵察した。

グラウンドには様々なコスチュームを身にまとったミニスカ女子達がいた。普段構内にそのようなきらめきガールズを見ることがないため、『どこから出現したのだろうか』と思った。
とにかくグラウンドは女子高生や警察官や白猫達でハイパーインフレーションを起こしていた。ひと月分カレンダーを見誤ったのかサンタクロースやトナカイもいた。彼女らはプレゼントをくれない代わりに食券を売ってくれた。

客はことごとく彼女らの店に吸い込まれてゆき、グラウンドの最奥に陣取る我々の焼き芋屋まで漂着する者は数多の試練を乗り越えた精鋭だけだった。我々は大いに苦戦した。
多くの人々がきらめきガールズの食券を購入した。知人達も軒並み悩殺されていた。あんたもそれ買ったのかと知人に訊くと『そこに太ももがあったから』と腑抜けた顔で呟いていた。


ただ、私達の店も負けてはいなかった。

私達は農学部ならではの素材へのこだわりで多くのリピーターを獲得することに成功した。1日に3回買ってくれた方もいた。毎日のように訪れてくれる方もいた。ちなみに隣のテントで出店していたフィギュアスケート部の男性は私が見た限り5回買いに来ていた。なんたる太客。

さらに、Twitter経由で来る方も驚くほど多かった。
この話は学祭前日にさかのぼる。


学祭の1週間程前から我々は店のTwitterアカウントを開設した。私は広報担当で、連日準備の様子や各種情報の発信に勤しんでいたのだった。
学祭前日、友人に『もうちょっとたくさんの人フォローしてみない?』と言われたので、その仕事を彼女に一任した。

アカウントが凍結された。

私は大いに焦った。学祭前日の夜のことである。
元々あったアカウントは既にある程度の人数にフォローしてもらっていたし、気合を入れて『明日はいよいよ学祭ですね♪』みたいな下書きも用意していたのに、その瞬間から一気に何もできなくなってしまった。Twitter社及びイーロン・マスク氏からはいくら待っても何の連絡もなかった。私の焦りは次第に絶望に変わった。

深夜、もう1人の広報担当が即座に新生アカウントを作成した。私は気が抜けた顔で、アカウントが整備されてゆく様をボンヤリと眺めていた。

彼は次々に必要なツイートを作成してくれた。私は出る幕が無かったため、とりあえずアカウントの自己紹介欄に『垢は凍結、芋は熱々』とだけ書き加えておいた。


そんなことがあり、初日の私は非常に寝不足かつ不安でいっぱいだったのだ。しかし、蓋を開けてみればTwitter経由で来る方の多いこと多いこと。『なんで凍結されてたんですか』『フォローしました』『美味しいって聞いて来ました』『凍結可哀想になったので来ました』などと様々な人に声をかけてもらった。SNSの拡散力を舐めてはいけないなと感じた。
なんなら凍結の元凶ともいえる私の友人は最初からこうなることを狙っていたのかなとまで思った。だとしたら女神だ。おお神よ。芋ヴィーナスよ。


女神のおかげもあってか毎日多くのお客様に来ていただけて日に日に売り上げも伸び、そんなこんなでようやく最終日。
ラストはどこもかしこも特大セールを開催していた。我々もご多分に洩れず一部メニューを半額にするなどした。2個隣でワニ肉を売っていた方々がセールを聞きつけやって来て、『芋うめえ~~』と盛り上がってくれた。それから彼らは店の前で『焼き芋いかがっすかア!!!』と宣伝を始めたので、我々も対抗して『ワニ肉どうっすかア!?!?』と声の限り叫んだ。最後は全員訳がわからなくなって皆で阿呆みたいに踊った。隣で踊っていた知らん女の子が『祭って感じですね!』と話しかけてきた。

『はい!』私も踊りながら答えた。『祭です。とても祭です』


忙殺されているうちに我々の学祭は終わった。


結果は信じられないくらいの黒字だった。
宣伝アカウントの最後の挨拶では『心ほかほか、思い出ほくほく』などと書いたが、内情は懐ホカホカでホクホク顔なのである。まぁ太もも出さずにウン百食売り上げたのだから大したもんであろう。今回の企画を主導してくれた我がクラスの誇るリーダー達、協力してくれたクラスメイト、来てくださったお客様に感謝感謝である。


垢は凍結、芋は熱々、そして私の目頭も熱々なのであった。



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