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ほろにがカヌレ

『四月は君の嘘』という作品のヒロインの好物が確かカヌレで、当時中1だった私はそこでカヌレというものの存在を初めて知った。
大阪の百貨店に行ったときカヌレが売っているのを見つけ、珍しくおねだりをして親に買ってもらった。初めて食べたカヌレは本当に美味しくて、私はそれが大好物になった。

カヌレといえば高校1年生の頃のほろ苦い思い出がある。

当時私には好きな人がいた。彼は『細長い』という形容詞が似合うようなひょろい人間で、背筋はぴんとしている癖にありえんくらい首が前に出ていて、かまいたち濱家に菅田将暉をひとさじ加えたような顔立ちの人であった。そして高1のバレンタイン、私はついに告白を決意したのである。

放課後、帰宅のモーションに入っていた彼。駐輪場で声を掛けた私。しばし静寂。

ずっと好きでしたとかそういう類のことを言おうと思っていた。しかし激ツンデレウブ超めんどくさ恋愛偏差値3高校生だった私は、彼を前にしてそんなこと言えるわけがなかった。

『義理とかじゃ、ないんで』

ようやく振り絞ったその台詞は、とても遠回りで、しかし好意を伝える言葉としては十分なもののように思えた。

私は『じゃあね!』とだけ叫んでその場を走り去った。言い逃げである。
濱家は、えっ、と、驚いた感じを見せつつ『ありがとう』とだけ答えてくれた。

次の日からも私と彼の関係性は変わらず、ぎこちないながら普通に雑談をする仲のままだった。告白の返事はなかった。事実上のお断りである。でも、伝えられただけで私は満足だった。

そして、あっという間にホワイトデー。濱家は塾帰りの私を呼び止めて紙袋をくれた。私は跳ねるように家に帰りすぐに包みをほどいた。カヌレだった。それも、私のお気に入りだったチョコレート屋さんの。

嬉しくてすぐにお礼のLINEを送った。直後に相手から返信が来てテンポ良い会話が続く。話が盛り上がる。世界中の幸福を濃縮還元したような心地がした。
あのお店私も好き!併設されてるカフェのチョコレートドリンクとかも美味しいんだよ、と言うと、え、行ったことあるんだ!僕は買いに行くだけで中で食べたことないんだよね、と。これはさ。いい波来てるやろと。流石にチャンスやろと。『じゃあ今度一緒に行きますか!』


急に返信が途切れた。


ようやく返ってきたのは、教科書の例文みたいな社交辞令だった。


『最近忙しいので、また時間できたらよろしくお願いします。』


私は完全なる敗北を喫したのであった。



そこからもやっぱり関係性は変わらず、私はまだ未練タラタラドバドバだったものの友達として仲良くすることに努めた。


それから約4ヶ月後、7月。その頃にはすっかり元通りというかなんなら告白する前とは比べ物にならないくらい仲良くなっていた。その日も私達は一緒に帰っていた。話の流れで恋バナになって、私が冗談めかして『私もバレンタインに振られちゃったからなぁ』と笑いながら言うと、濱家は、

『え、誰に?』

と訊いてきた。



え???????


『いや、お前にだよ!!!!!!』思わず半ギレで答える私。


濱家は狼狽えていた。『義理じゃないって言ってたから、友チョコってことかと思って……』と言ってきた。いやこいつ現代文ぜってー赤点だろと思った。ありえんて。『義理チョコじゃないよ……///』と言われて、『おっ友チョコかぁ』とはならんやろ。分かれよ。これは私の傲慢か?いや濱家の怠惰やろ。
まぁ今となっては、彼なりのへたくそな嘘だったんだろうなと思う。こちらの気持ちに絶対気づいてたけど、きっとずっと見て見ぬふりをしてくれてたんだろうなと。私の好きだった人は、不器用だけど、世界一優しい人だったので。


陳腐な恋愛小説みたいな締め。

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