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BABYMETAL『METAL GALAXY』はhideである

BABYMETALのサードフルアルバム『METAL GALAXY』がついに発売されました。言わずとしれた、というところではあるかと思いますが,アルバムを通して聴いてみた感想として、このアルバムは"hideである"という感想になりました。

これまでのツアーで披露されてきた曲も多く含まれたアルバムですが、メンバーの離脱などを経て、多様なサウンド、BABYMETALの新しい境地を感じさせるものになるだろうという予感はあったものの、アルバムとして曲を並べた時にその力が何十倍、何百倍にも膨らんでいるように感じました。

元々、BABYMETALという活動の様々な局面でX、引いては当時のV系からの文化の引用があります。その辺りはヘドバンをご覧になっていただくと詳しいですが、その文脈として、もしhideが生きていて、これを聴いた時に両手叩いて面白がるなと思ったのです。

このアルバムは単純なメタルサウンドではなく、非常に多くの様々な音楽とメタルを組み合わせた結果、新しいサウンドを生み出しています。

DA DA DANCEやBrand New Day、↑↓←→BBABのようなシンセサウンドを使ったものからShanti Shanti ShantiやOh!MAJINAIのような民族音楽ベースのサウンドを操りつつ、ヘヴィネスとポップさを両立させるこのバランス感覚にかつてのhideのソロワークスを感じます。

hide with Spread beaverでの先進的なコンピュターサウンドやZilchでの暴力的な音、その他様々な場面で鳴らされていた独特な感覚のサウンドがこういう新たなムーブメントの中で再構築されているという事を彼なら面白がってくれるような気がするのです。

個人的にはメタル大好きなので、ヨアキムやアリッサのようなマジもののヘヴィネスバンドのグロウルがこのアルバムに入っていることも嬉しいし、Oh!MAJINAIのポルカサウンドからみんなヴァイキングメタルにハマって、午前3時くらいにYoutubeのオススメに出てくるバンドを延々と聴き始めて朝が明けろとも思っています(そんな夜を何度過ごしたか分からない)が、少しアイドルに関する部分としても、語りたいと思います。

 

【K-POPではない音楽としての進化】

このマガジンでも何度か触れているようにK-POPのサウンドというのは、今、韓国のサウンドプロデューサーだけではなく、USや北欧のプロデューサーと組んで制作されるというものが多いです。故に新しい音、というのが斬新に見えるわけです。

例えば、IZ*ONEの日本チームが作った楽曲の評判があまりよくないのは、サウンド面が非常に古びた音、今の世代の親や祖父が聴いていたような世代の音楽と同じように聴こえてしまうという事象から発生していると言われています。

しかし、一方で世界的な動きを見ていると、この数年、70年代に日本で生まれた歌謡曲のサウンドがシティポップという形で世界的に注目を集めていたり、フューチャーベースというテクノの新しいジャンルが日本のKawaii文化と結びついたりなど、日本のチャートミュージックとは別なところで、日本の音楽の価値が認められ始めています。

今回のアルバムでは大胆にもそこに切り込んできているのがミソと言えます。

Brand New DayはかつてのAORが持つ大人の魅力と2010年代以降のシティポップに求められる「都会×夜×車」だったりアシッドジャズの要素を組み込むことで、日本製の音楽であることを非常に強く印象づけています。

世界的に見ても、ダンスポップバンドという部類のバンドは非常に成功しており、日本でもサカナクションであったり、Suchmosであったり、踊れるポップ寄りのバンドサウンドは受け入れられていることは分かるかと思います。

その中でも、シティポップというジャンル性を考えると、これまでのBABYMETALはヘドバンのようなメタル的な様式とアイドルの延長としてのダンスをキツネというキーワードを元に宗教的な演舞と紐づけてきたわけですが、BABYMETALの中における"踊る"行為の再定義をしたと言えます。

ミドルテンポでたゆたうようなボーカルとシティポップならではの浮遊感というのは、まさしく新境地であり宗教的な酩酊状態、トランス状態に足を踏み入れるための音楽に近いのです。

しかし、シティポップという音楽を紐解くと、その後の邦楽界にとってとてつもない才能の人間が寄り集まっていることも分かります。単純にそれっぽい音を作っても、特別な煌めきを持った音にはなりません。この曲はBABYMETALという宗教性や磁場を利用した実験的な音楽なのではないでしょうか。

続く↑↓←→BBABでは、フューチャーベースサウンドになります。タイトルの通り、ゲームのようなテーマを織りまぜつつ、単純にビットミュージック、チップチューン的なサウンド、アイドル的に言えばでんぱ組.incに代表されるようなサウンドに持って行くのではなく、Brand New Dayにある日本が描いてきた未来の都市感を2000年代以降のKawaiiポップの文脈を持つ音に落とし込む辺りが、非常に痛快なのです。

今の日本のアイドルだと、サウンドメイクの点でそのアイドルグループの特徴を出すために、これらを固定することが多いでしょうが、違和感無く成立させれるのはメンバーの実力、サウンドプロデュースの力とも言えます。

蘇我アイドルプロジェクトのデビュー曲がシティポップと聴いて、ただのおじさんの趣味丸出しでポップスのセンスが欠片もなかったらどうしようと不安視しています。

 

【民族音楽だけじゃないのがすごいところ】

Shanti Shanti ShantiやOh!MAJINAI、PA PA YA!!のような民族音楽との融合というのは斬新な音楽のように見えて、実はメタルというジャンルにおいてはよく知られたものです。

北欧音楽とメタルの相性もさることながら、インドネシアなど東南アジアのメタルシーンが非常に熱いことは長年注目を集めてきました。

さらにインド音楽は映画がボリウッドと呼ばれるように、インド民謡や踊りの文化と紐づくことで世界中からその独自性や耳に残るサウンドで近年、盛り上がっているところにBABYMETALがピックしたと言えます。

みんな大好きネパールカレー屋でよくビデオが流れてますよね。

しかし、このアルバムの多様さはそれだけではありません。

中毒性が高いと評判になっているB×M×Cはブラックメタル要素の強いイントロからメロディが三連符で続きます。この三連符というのは、海外で言うなればMigosだったり、日本ならLick-Gのようなラッパー、特にトラップと呼ばれるダークでダーティーなラップと紐づけられた符割りと言えます。

USシーンでHIPHOPが非常に力を持っていますが、このトラップというジャンルの影響が非常に多く、特にMigos登場以降、三連符でのライムをするラッパーが急増しています。

米津玄師もこの流行に注目をして、ボカロPであるハチの名義で出した砂の惑星の中で使用しています。

二番中盤、かつての自分の曲の歌詞を引用したエモティックな歌詞から畳み掛けるような三連符を入れることで、印象的な表現で引っかかりを生んでいます。

BABYMETALはさらに語尾上がりの独特な海外HIPHOPで流行っているラップスタイルを取り込んでいるのです。


【回帰するX JAPANという存在】

一方、アルバム全体を通して見た時に、BABYMETALとしてのアイデンティティであるXへの忠誠のようなものを感じることも出来ます。

1枚目のイントロダクションを除く実質の1曲目DA DA DANCEでは、なんとTak Matsumotoをフィーチャリングに招き、90年代のTKサウンド感のあるシンセとJ-POPらしいメロディを活かした疾走感のある曲になっています。

実際、これまでのBABYMETALを知るファンからも初期のサウンドにすごく似ていると言われており、アイドル歌謡×メタルという立ち位置だった頃に見られた日本らしいメロディラインを活かしつつ,ハードなサウンドというのはいわばヴィジュアル系が踏み固めた原野とも言えます。

ディスク2のKagerouは、そのヴィジュアル系の文脈を感じさせる歌詞世界とヘヴィなサウンドが印象的です。例えばこれが海外のメタルであれば、サビの悲しげな印象のモチーフや死や別れでしょうが、炎の揺れや花びらが落ちる様など非常に日本的で情緒溢れる比喩表現が持ち込まれています。

そういう曲が並ぶ中、最後にあたるArkadiaではど真ん中のツインギターバトルが味わうことが出来ます。またBメロのメロディ構成もXファンなら思わず唸ってしまうような作りになっています。このアルバムのタイトルがMETAL GALAXYとあることから、もしかするとこの銀河の向こうではMETALという名のこういう音楽が既に存在していて、それをこのアルバムで紹介した、と考えるのであれば、自分達のMETALはこれだと最後にクレジットしたのがツインギターバトルという主張と見ることが出来るのではないでしょうか。

 

と、長々と書きましたが、正直、この程度の文章はみんなが書いていると思いますし、なんなら世界中が書いてると思うし、思わず書きたくなるアルバムです。アイドルという切り口と敬愛するhideみを感じてしまったので、書きました。とりあえずサブスクリプションでも良いので聴いてください。むしろ、これを聴くためにサブスクリプションは用意されたのだと思う。

 

是非!

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