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宇宙ネコ子 / 日の当たる場所にきてよ (2022)

儚い物は美しい。

それは例えば、たんぽぽの綿毛をふぅーと吹けば飛んで行きそうなくらい儚い物。それが青空を舞う様は幻想的でとても美しい。

正に今日のアーティストはそんな2人組。
2012年に結成された「ねむこ」と「kano」のオルタナティブロックユニット。結成当初は「タナベコウヘイ」と「ねむこ」の2人組だったが、ゲストボーカルに個人的に今のアーティストで1番好きな「ラブリーサマーちゃん」を迎えてバンド編成になったりして2017年から今の2人の編成になったそう。

そんな「宇宙ネコ子」との出会いは大好きな「ラブリーサマーちゃん」がTwitterで確か紹介していた。ラブリーサマーちゃんにどハマりして、紹介していた曲や所属してたバンド「For Tracy Hyde」の曲なんかを聴き漁っていた時に出会った。

並行してラブリーサマーちゃんの音楽的ルーツがシューゲイザーやブリットポップ、マッドチェスターだと言うのを知り、特に"マッドチェスター"と言われるバンド『The Stone Roses』、『Happy Mondays』等の80年代終わりから90年代初頭のイギリスの音楽を聴いていた時だった。


・マッドチェスターとは?

マッドチェスターとは1980年代後半から1990年前後にかけて、イギリスの都市マンチェスター(Manchester)を中心に起こったムーブメントであり、マンチェスターと「狂った」という意味のマッド(Mad)からの造語である。マンチェスター・サウンドとも呼ばれ、ダンサブルなビートとドラッグ文化を反映したサイケデリックなサウンドが特徴とされるロックのスタイルを指す。(wikipediaから抜粋)

ハウスミュージックの発展に大きく関わっているとされ、ロックの伝統的フォーマットを取りながらも4つ打ちのビートを導入して、オーディエンスが踊れるかどうか?と言うオルタナティブなサウンドを模索していた。

それに大きく貢献したバンドが上記の「The Stone Roses」や「Happy Mondays」
低迷していたイギリスの音楽シーンが再度盛り上がったのだが、派手な売り込みや誇大広告、意図的に作り上げられた印象をリスナーに与えてしまい短命で冷めてしまった。しかし、その後の「oasis」や「blur」、「Radiohead」に多大な影響を与えているとも言われている。

・宇宙ネコ子とThe Stone Roses

そんな"マッドチェスターサウンド"、とりわけ「The Stone Roses」ブームが自分の中で何度か定期的に来るのだが、正にハマっている最中でこれが1曲目に収録されている大名盤『The Stone Roses』(1989)をめちゃくちゃ聴いていた。

この儚い感じと妙な浮遊感がクセになり定期的に聴きたくる。
今回のタイトルにもある「日の当たる場所にきてよ」(2022)を聴いた時に、この「The Stone Roses」を思い出したのだ。

・「日の当たる場所にきてよ」(2022)

満を持して3年ぶりに発表されたアルバム。
最初は確かBandcampでしか配信されてなくてあまりにも聴きた過ぎて速攻でアプリを取得し聴いた。今回の作品もこのM1の表題曲「日の当たる場所」からやられた。

前回のアルバム「君のように生きれたら」(2019)も最高だったのだが、その時とはまたちょっと趣きが変わっている。前回はシューゲイザー色が強かったが、今回はそれと時代的にも近しい前述の"マッドチェスター"感が強い作品。個人的な「The Stone Roses」ブームとガッチリと合致し、聴いた瞬間あまりのカッコ良さに鳥肌が立った。

それからM2「Skirt」への流れも、楽曲自体も最高。これは2月に発表された作品なのだが、ああ、これは2022年の初っ端からとんでもない作品が出てきてしまったとその時思った。

1曲目が「日の当たる場所にきてよ」に対してラストが「hikage」と言う対比が良い。
そして、曲名と歌詞の内容のイメージが相反しているのもグッとくる。

「日の当たる場所にきてよ」

"いつも触れることなく透明な陽だまりは
頬をなぞる窓の陽に 
想いは君のそばにあるのに
遠い夏の背中に影を落とし歩いた
髪を切った私には 
触れない日々がある"


1曲目は「日の当たる場所にきてよ」と言う前向きっぽい、どちらと言うと"陽"なイメージが個人的にはある。明るい方においでよ、元気出しなよ!みたいな。元気付けてくれそうなイメージ。

しかし、歌詞はその真逆。「触れない日々がある」と言う様に触れたく無い、触れると強烈に嫌な思い出が蘇って来ると言う様な"陰"のイメージで曲名とは真逆なのだ。それに対してラストの「hikage」は、

「hikage」

"日の当たる場所に来てよ
暗がりじゃ何も見えないから
そんなに俯かなくていい
窓辺に咲いた花は枯れたよ"

と言う曲名の「hikage」と言う文字通り"日陰"の"陰"のイメージかと思いきや、歌詞を見ると元気付けてくれる"陽"のイメージ。

この相反しているイメージがとても素晴らしい。この複雑なイメージこそが"人"その物であるし、誰しもが多かれ少なかれ持っている"陰"と"陽"の部分だと思う。一見楽しそうに見えても心はどこか切なくて。楽しくなさそうに見えても心の中は楽しい。そう言う繊細な表現が彼女達の人柄を表しているような気がする。何にしたってそうだけれど、そう言う"人"が見える作品や物に強烈に興味があるし、惹かれる物って結局、そう言う物なんですよね。

・「日々のあわ」(2014)

1番最初に「宇宙ネコ子」を聴いたのは「日々のあわ」と言う曲だった。これもYouTubeで見つけてハマり過ぎて何度も何度も聴いた。自分が聴いたのはおそらく、前述の「タナベコウヘイ」がボーカルの曲だった。

その声が何とも郷愁があってその時の自分にグサリと刺さった。その手作りの荒々しい動画も相まって小学生、幼稚園くらいの時の事を思い出す。と言ってもその時の"何か"と言う具体的な体験では無く、"'何か"分からないけれどその時の事を思い出すと言う様な凄く曖昧な感覚。それと幼少期に観ていたポンキッキーズを強烈に思い出す。それもポンキッキーズの"何か"を思い出す訳では無く、"ポンキッキーズ"そのものを思い出すと言う不思議な郷愁感が湧く。
油断していると涙がスッと落ちる様な。

それが何とも切なく、心臓をギュッと掴まれた様な感覚でそのノスタルジアが切なくも何か心地良い。ボーカルがラブリーサマーちゃんになったこっちも死ぬ程良い。

・君のように生きれたら(2019)

その後、「入江陽」や「泉まくら」、「禁断の多数決」と曲をやった後に、アルバム「君のように生きれたら」(2019)を発表。
これがもう兎に角良い。どれぐらい良いかって言うともうめちゃくちゃ良い。語彙力を失うくらいにカッコ良い。

このアルバムは兎に角めちゃくちゃ好きでめちゃくちゃ聴いた。邦楽部門で間違い無く2019年のトップ3に入る超名盤だと個人的には思う。レコードも出ているのでこれはレコードで欲しい。

M1「Virgin Suicide」(映画から取っている!)からもう最高。耳をつんざく様な轟音ギターと儚い「ねむこ」のヴォーカルがカッコ良過ぎる。表題曲のM2「君のように生きれたら」も"静"から"動"の振り幅がカッコ良い。Aメロは静かなのにサビから轟音ギターが入ってくる所とかカッコ良過ぎてゾクゾクする。M5「(I'm) Waiting For The Sun」もギターが暴れまくってるのがもう最高。女性2人ですがとてつもないパワーを感じるし、熱量がバシバシと伝わってくる。これぞロックでしょ!!

どうしても表面的に分かりやすい物でロックだとかそうじゃ無いとか判断しがちだし(ロックに限らず)、カッコ良い、ダサいを誰しもが判断する。それぞれの判断基準は違うのは重々承知の上で、そうじゃ無く内から出る熱い物が伝わって来るのがロックだしカッコ良いと思う。熱量や衝動。一見静かでも熱い物を持っている。

そう言う表面的で分かりやすい曲では無く、自分で聴いて咀嚼して飲み込んでからカッコ良い、ダサい、ロック、ロックじゃ無いを自分なりに判断し、皆様と音楽を共有出来たらと思っております。誰かに刺さればこれ幸い。

今後ともお付き合い下さいませ〜

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