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絵本から経済を考える 第4回 「子どもが経済を学ぶ上で一番大事なのは、『溝』を意識すること」 谷 美里

 連載の初回にも書いたことだが、日本ではお金に関する話を子どもにするのは教育上よろしくないと考える風潮があるのか、経済をテーマに扱った絵本が非常に少ない。 経済学者の佐和隆光氏も言っている。

古来、この国では、「お金は汚いもの」、「お金のことを口にするのは卑しいこと」といった通念が、あまねくゆきわたっていました。そのためもあって、子どもに経済学を教えることなど、筋違いもはなはだしいと考える人が少なくありません。[1]

 佐和氏自身はこのような状況を好ましいものとは思っておらず、経済の仕組みを子どもたちにきちんと教えることが重要だという考えのもと、『HOW TO TURN LEMONS INTO MONEY』というアメリカの子ども向け経済絵本を日本語に翻訳して出版した。1982年に出版されたその本は邦題を『レモンをお金にかえる法』と言い、現在日本の子どもたちの間でそれなりに読まれている唯一の経済絵本と言ってよいだろう。裏を返せば、以降40年近くに渡り、めぼしい経済絵本はほとんど出版されていないということだ。

レモンをお金にかえる法

ルイズ・アームストロング/文、ビル・バッソ/絵、佐和隆光/訳『レモンをお金にかえる法“経済学入門”の巻』(河出書房新社、1982年)
https://www.amazon.co.jp/新装版-レモンをお金にかえる法-ルイズ・アームストロング/dp/430924341X

 この本は、レモネードをつくって販売することにした女の子の行動を通して、ひと通りの経済用語や仕組みが学べるように出来ている。たった32ページのストーリーの中に、消費者・市場価格・小売り・卸売り・利益・自己資本・資本貸付・労働・賃金・労働争議・ストライキ・価格戦争・合併・資産の流動化・信用など、実に沢山の経済用語が散りばめられており、その用語の意味が分かるようになっている。ビル・バッソの印象的なイラストの魅力も手伝ってか、40年近く版が重ねられている超ロングセラーの絵本だ。
 だが、この本以外にほとんど経済絵本の出版がないことを見れば、日本における子ども向け経済教育に対する意識の低さは明らかである。いやいや、近年は「キッザニア」という子ども向けの職業体験施設ができたり、『13歳のハローワーク』という書籍がヒットしたりしたではないか、という反論が寄せられるかもしれない。しかし、経済教育と職業体験とはまったくの別物である。

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