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世界最大の金融ファンドを生んだ組織文化

「PRINCIPLES」という本がある。

著者のダリオ氏はリーマンショックを予測したことでも有名なブリッジウォーター・アソシエイツ社というヘッジファンドを創業した。この会社は総運用額が18兆円もあり世界最大の資産運用会社としても知られている。このような経歴ゆえに本書は「投資」に関するものだと思われている。ちなみにAmazonのサジェスト機能「あなたへのおすすめタイトル」があるが本書がサジェストされるのは投資の本を閲覧してる人(アカウント)にしか表示されない。

この本を投資家が「利益」を得るために参考にすることが多いだろうが、この本は組織のカルチャーと、それを形成する行動指針について書かれている。金融業界では有名なダリオ氏だが組織開発としての知見を多く持つ。金融の専門技術集団はどのようなカルチャーや考え方を共有しているのか知るだけでも面白いが、それらは金融業界以外でも参考になるものだ。以下にブリッジウォーター・アソシエイツ社の価値基準とカルチャーを紹介する。

ブリッジウォーター社のカルチャーはダリオ氏の経験が色濃く反映されているが、その中でも失敗から生まれたコアとなる原則がある。


自分が正しいと過信しない

1980年代にメキシコが債務不履行に陥り再びFRBが景気刺激策として金融緩和に踏み込む。ダリオ氏はこれをハイパーインフレーションの引き金と予測したが市場はインフレを引き起こさず景気は回復する。ダリオ氏はインフレ時に強い短期債券を購入していたため会社が倒産する損失を負った。

ダリオ氏は自分が正しいと過信してインフレを信じて疑わなかった。予想に反することは絶対にあり得ない、と。しかし結果は違った。インフレは起きなかった。それから謙虚な姿勢が必要であることを知る。

「私は正しい」と思う代わりに「自分が正しいかどうか、どうすればわかるだろう?」と自問するように変わった。
PRINCIPLES p.53

率直な関係に価値を置く

先の失敗によってブリッジウォーター社の全従業員は解雇せざる終えなくなりダリオ氏は落ちるところまで落ちてしまった。しかし、そこから努力の甲斐あってブリッジウォーター社は再び10人、20人とメンバーが増えていった。その際のメンバーに求めることはダリオ氏と同じ考えであることを望んだ。それは人間関係の考え方でもあり、ミッションへの共感や自分が正しいと過信しないという心構えを持つことだった。

私にとってかけがえのない人間関係は、オープンで正直で互いに率直になれる関係だ。世間によくある、表面を取り繕い、丁寧さを装い、ほんとうに何を思っているか互いに言わないような関係には価値を置かない。
PRINCIPLES p.71

失敗をさらけ出す

ブリッジウォーター社は画期的な運用アプローチを生み出し投資会社として成長していた。しかし組織の成長に伴いミスも起こる。ある時、ケアレスミスが原因で数千万の損失となった。ダリオ氏はミスをした者を解雇しなかった。ミスを罰せれば人はミスを隠すようになり、より大きなミスに繋がることを懸念したからだ。しかし罰するのではないとしたらミスを改善するにはどうしたらいいか。そこで問題を表面化するプロセスを作った。

何かがうまくいかなかったら、それを記録に書き出す。重大さの程度を書き、誰の責任だったかを明確にする。ミスがあってもそれを記録に書き出せば、お咎めなしで済む。記録しなかったら厄介なことになる。こうすれば管理職に問題が持ち込まれる。問題を探し出そうとするよりもはるかによい。
PRINCIPLES p.82

組織の急拡大に対応する

1人で再スタートした組織は2008年には14の部署と738名まで増えていた。優秀なメンバーによる金融商品とカルチャーによって成長してこれたが、さらに規模を拡大するかで長い時間を検討していた。新たな人材を受け入れることはカルチャーが脅かされ、人材を管理する採用や研修などに注意と時間を奪われてしまうからだ。しかし検討の末、更なる成長を求めることに決める。そのために組織の拡大に対応できるように以下の改善を行った。

まず意思決定の「原則」を書き出すようにした。様々な状況に直面した際にどう対応するかをメンバー同士で考えを揃えるためだ。これが本書のタイトルの元にもなる。何か新しいことが起きて決定を迫られる際に決定の基準を変えることがあると原則として書き留めるようにした。そうやって対処する何かしらの原則は存在するようになった。この原則は社員からフィードバックを受けて最終的に300個が出来上がる。

さらに人が増えると異なる思考スタイルを理解できないマネージャーも出てくる。部下の状況判断を理解できないというのは工事現場で機械の使い方を知らない作業員と同じだ。そこで心理測定テストのMBTIを全メンバーに受けてもらった。テスト結果の納得度は5段階評価でほとんどが4か5であった。テスト結果を元に社員の統計データを整理し野球チームに見立てた社員カードを作った。これによって細かい所に気を配らないタイプの社員を決め細やかさを求められる仕事に就かせることを防いだ。社員も快適さを感じるようになる。

このように成長と共に組織を作り直す必要が出てくるのだが、ダリオ氏は本業の投資業務に時間を取られおり、経営への投資に負担が出ていた。何よりダリオ氏に依存するキーマンリスクが高い状態だった。そこでダリオ氏が部下を育成してこなかったツケを解消すべく、自身が不在でも他の人がうまく動けるようにすることを目指すべく権限を委譲していく。例えば経営委員会の監督でもあるダリオ氏だが責任を分散させるために委員会メンバーが監督に責任を持つ仕組みに作った。そしてダリオ氏は社員へのメールでお願いした。

『私は限界にきています。仕事の質も、仕事と家庭のバランスも容認し難いほどになっている、というのを皆さんに知って頂きたいと思い、このメールを書いています。』
PRINCIPLES p.101

早いうちに解雇するか昇進させる

初期の頃はダリオ氏の考えに近い、失敗を恐れずチャンレジする人を採用していたが、人が増えることで自分の考えと異なる人がいることに気づいた。チャレンジに積極的ではない人を助けようと想いもあって原則の背景を車内で公開しオープンに議論し促進できるようにした。しかし、新しい人が率直な関係を気づいたり、失敗をさらけ出すことに違和感を感じなくなるまで遅くとも2年はかかった。人は頭ではよいと思っていても習慣と感情の問題によって行動に移すことに苦労していた。優秀な人材の高い割合を維持するには教育してもカルチャーに適応が難しい人を躊躇せず早くに辞めさせることが必要だ。

努力して達成した人は適応するまで大変だが、卓越の域に達し素晴らしい人間関係を構築できるから楽しいと言う。適応しようとしない、あるいはできない人は辞めてもらう。ブリッジウォーターを卓越した場所に保つためには不可欠なことだ。
PRINCIPLES p.110


ブリッジウォーター社は波乱の中でダリオ氏に失敗の経験を与えた。この経験から具体的にどのような原則、そして原則を支える経営システムがあるのかを今後、紹介していく。続く。

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